77 マイ
「どうせなら、つぶしあってくれれば、よかったのに」
「マイ、なにを言って……」
困惑するあかりを見つめ、マイは微笑んだ。
そして、背中を向けて離れていく。
やがて、あかりは我に返り、マイの背中に向かって叫んだ。
「あんた、言っていたじゃないか。他のアニマを連れてくるって!」
「あら、まだ気づかないんですか?」
マイは一旦立ち止まり、あかりの方に振り向いた。
そして、意地の悪い笑みを浮かべる。
「そんなの、嘘に決まっているでしょう」
「なっ……」
あかりは絶望し、その場に両膝をつく。
それを見つめていたマイは、口角を上げた。
★★★
少し離れた場所で、マサは手当てを受けていた。
ハルも手伝っていたが、あかりの様子に首を傾げる。
「あれ、あかりさんどうしたんだろう……」
「よく見たら、マイたちもいるじゃねぇか」
「マサは、ここで待ってて。ちょっと行ってくるから」
「なら、俺も……」
「ダメ、ちゃんと手当てしてもらっていなさい」
ハルは微笑み、マサの頭を撫でた。
マサは恥ずかしいのか、俯いてされるがままになる。
そして、気が済んだハルは、あかりたちの元へ行った。
「あかりさん、どうしたんですか?」
「あんた……」
「へへっ、そちらから来てくれるのは、好都合だぜぇ」
コバットは笑みを浮かべ、ハルに向かって駆けだした。
「その指輪、渡してもらうぜぇーっ!」
「だっ、ダメ!」
「それがあれば、アニマを支配できるんだからなぁ!」
片手を伸ばし、コバットは指輪を奪おうとする。
焦ったハルは、指輪をした手を握って隠した。
だが、コバットの手は届かなかった。
「ぎゃぁーっ!」
「えっ?」
「コバット様?!」
ハルだけでなく、その場にいた全員が驚いていた。
なぜなら、なにかにはじかれ、コバットが負傷したからである。
マイは戸惑い、コバットに駆け寄った。
そして、強くハルを睨みつける。
「あなた、コバット様になにをしたんですか!」
「えっと、私もなにがなんだか……」
「よくも……よくもよくも!」
マイの怒りに、ハルは顔を引きつらせる。
そして、立ち上がったマイは、拳を握りしめる。
すると、男性の声が聞こえた。
「そこまでです、マイ」
ハルたちは、声のする方に目を向ける。
やがて、姿を現したのは、七三分けの男性だった。
そう、サラを作った、政府の柊である。
ハルは柊を見て、ひどく動揺した。
「なんで、あなたがここに……」
「それは、彼女たちの契約者だからですよ」
柊は苦笑し、負傷したコバットとマイを指さした。
ハルはというと、警戒し柊を見つめていた。
「そんなの、おかしいです。だって、あなたたちはアニマを一掃するって!」
「なんだと!」
突然の事実に、あかりは驚いてハルを見つめた。
そして、強く肩を掴んだ。
「あんた、それは本当か!」
「うん……そのために、サラさんたちを作ったって……」
「マイ、どういうことだ!」
あかりは動揺し、マイに詰め寄った。
すると、マイはため息をついた。
「そんなの、復讐のためですよ」
「復讐?」
ハルが首を傾げていると、マサたちがやってきた。
「おい、なにを騒いでいるんだ」
「騒いでいたのは、君だろう」
「そうですよ。マサさんったら、ハルさんが戻らないってうるさかったんです」
「お嬢、どうかしたのか?」
「皆……」
「やっと、揃いましたね」
マイはユミとイグを見つめ、口角を上げた。
「姉様の仇、とらせてもらいます!」
「姉様って……」
「あのアニマは、なにを言っているんだ」
「これでも、まだ思いだせませんか!」
叫んだマイは拳を握り、ユミとイグに向かっていった。
「ギアーショット!」
「えっ、その技は!」
なんとか二人とも避けたが、その技には聞き覚えがあった。
ユミとイグは思いだす。
ボブカットで、猫のアニマの女性のことを。
「ユリア……」
「そうです……私はそのユリアの妹です」
「うそっ……」
「あいつに妹がいたなんて、聞いていないぞ」
「それは、あなたが姉様を、よく知ろうとしなかったからでしょう」
「確かに、あの時の俺は、他人に興味がなかった」
「だから、姉様も見捨てたんですね」
マイにきつく言われ、イグは視線をそらした。
するとマイは、今度はユミを指さす。
「そして、あなたは姉様を吸収しただけでなく、自分だけ生き返った」
「それは……」
「待って、どうしてそのことを知っているの?」
ハルの問いかけに、コバットを柊に預け、マイは答えた。
「……ある方から教えてもらった、ということだけ言っておきます」
「ある方って、どんな……」
「そんなの、姉様を殺したあなたたちに、教えるわけないでしょう!」
マイは憎しみをこめて、ハルたちを睨んだ。
そして、自分の体を抱きしめ俯いた。
「なんて……なんてかわいそうな姉様」
悲しむマイを、ハルたちは見つめることしかできなかった。
やがて、マイの表情は怒りへと変わった。
「私は復讐のため、憎い人間と契約し、慎重に計画を実行してきた」
「マイさん……」
「この場所で、全員始末できると思ったのに!」
「マイは、あたしたちの味方じゃなかったのか!」
「まだ、わかりませんか?」
「なに?」
「あなたは、私の復讐に利用されただけなんですよ!」
マイの表情は、狂気に満ちていた。
そして、笑みを浮かべ、柊に問いかけた。
「あの方は、もう用済みです。さぁ、すべて消してしまいましょう?」
「いい考えだね。では、彼女たちに働いてもらおうか」
すると、柊はスマホを取り出し、素早くコードを打ちこんでいく。
「あいつ、なにしてるんだ?」
「嫌な予感がするな……」
数分後、その予感は的中することになるのだった。




