71 ハルの答え
一階におりたハルは、その場の雰囲気に首を傾げた。
「なんか、空気重くない?」
「おぉっ、ハル殿起きられましたか!」
ハルがおりてきたことに気づいたユキは、笑顔で駆け寄ってきた。
「皆、心配していたのですぞ」
「ごめんね、もう大丈夫だから」
「ハルさん!」
ハルがユキと笑い合っていると、ユミも近づいてきた。
「うわっ!」
近づいてきたというより、勢いよく抱きついてきたのだ。
それにハルはよろめき、なんとかユミを抱きとめる。
「ユミちゃん、どうしたの?」
「心配してました……もう、あんな無茶はしないでください……」
「ごめんね、体が勝手に動いたんだよ」
「もし、ハルさんがこのまま目覚めなかったら、マサさんとレンさんを恨んでいました」
「えぇっ!?」
「まさか、そんな風に思われていたとはな」
ユミに睨まれたレンは、苦笑するしかなかった。
ハルも苦笑いを浮かべていたが、ふと壁にもたれかかっている神の遣いに気づく。
「あれ、なんで神の遣い様がいらっしゃるんですか?」
「あの時、神の遣い様がハルさんを助けたんですよ」
「えっ、夢じゃなかったの?」
「お嬢は、すぐ気を失ったからな」
「それにしても、なんで大きくなっているんですか?」
ハルは、青年の神の遣いの姿に驚いていた。
それもそのはず。
なぜなら、ハルが再びこの世界に来て会った時は、少年の姿だったからである。
「私と会った時は、子どもみたいだったのに」
「あぁ、それは一時的に、彼らの生命力をいただいたからだ」
「なるほど、それでいきなり力が抜けたんだな」
「この姿を維持するためだ。悪く思うなよ」
「あいかわらず、態度が大きいでござるな」
ハルに隠れながら、小さくユキは呟く。
しかし、神の遣いには聞こえていたらしく、強く睨まれた。
「聞こえているぞ、虎のアニマよ」
「ひぃっ!」
「ははっ、大丈夫だよユキ。とって食べたりしないから」
ユキの肩を叩いていたハルは、ふとキッチンに近いテーブルに目が留まる。
そこでは、サラが背を向けて書き物をしていた。
サラは片耳に手を当て、ペンをすべらせている。
「なっ、なんであのメイドさんがこんな所に?!」
「あっ、ハルさんこれは……」
「どうしよう、また攻撃されるんじゃない?!」
「お嬢、まずは落ち着け」
「なんで、皆そんなに落ち着いているの。早く逃げなくちゃ!」
「えぇい、契約者がそんなに慌てるな!」
「はうっ!」
慌てていたハルの額を、神の遣いがデコピンではじく。
あまりの痛さに、ハルは額を押さえてしゃがみこんだ。
「ハルさん、大丈夫ですか?!」
「まったく、手のかかる娘だ」
「あんた、容赦ないな……」
「なに、デコピンですんだだけよいと思ってほしいな」
「だとしても、力加減がシャレにならないぞ」
「あら、なにやら騒がしいと思ったら、目が覚められたのですね」
振り向いたサラは、あいかわらずの無表情だった。
まだ状況が飲みこめていないハルに、ユミが優しく話しかける。
「ハルさん、落ち着いて聞いてくださいね」
「ユミちゃん?」
「私たちがこの家に戻れたのは、彼女のおかげなんです」
「ここまで案内してもらったでござるよ!」
「そっ、そうだったの……」
「お嬢は気を失っていたからな。驚いてもしかたない」
ユミたちに説明されて、ハルはなんとなくだが状況がわかった。
すると、サラが小さく手を上げる。
「では、私からハルさんにひとつ、質問してもよろしいでしょうか」
「なっ、なんでしょう……」
「なぜ、あなたはあんな無茶をしてまで、アニマの戦いを止めようとしたのですか?」
「それは……」
サラの質問に、ハルは一瞬戸惑った。
しかし、ハルの答えはもう出ていた。
「それは、大切な仲間だからです」
「ですが、もう少しであなたは大怪我をするか、最悪死ぬかもしれなかったのですよ?」
「そうかもしれません。でも……」
少しハルは俯いたが、周りにいるアニマたちに振り向く。
「彼らが傷つくのを、見たくなかったんです」
「……」
「あと、体が勝手に動いたってこともあるんですけどね」
ハルは苦笑し、サラをまっすぐ見つめる。
「それだけ、私はこのアニマたちが大切で、大好きなんです」
「ハルさん……」
「なんだか照れるな」
「君はやっぱり、素敵な女性だよ」
「俺も、ハル殿が好きでござるよ!」
「ユキさんが好きなのは、アキナさんでしょ?」
「なっ、なぜここでアキナ殿の名前が出るのでござるか?!」
「あら、そんなに慌てて怪しいなぁ」
「ユミ殿もハル殿も、いじわるでござるーっ!」
「ふふっ」
ハルはうれしさとこそばゆさで、はにかんだ笑顔になる。
それを、神の遣いとサラは静かに見つめていた。
「……なるほど、なんとなくですが理解しました」
「サラさん?」
サラの呟きに、ハルは首を傾げる。
すると、サラの耳に他のアンドロイドの通信が入った。
ハルたちに気づかれないように、耳に手を当て背を向ける。
『多数のアニマと交戦中。至急こちらに合流をお願いします』
「わかりました」
サラは頷き、ハルたちの方に振り向いた。




