70 レンの想い
レンはハルをベッドに寝かすと、優しく手を握った。
「ハル……」
そして、ゆっくり自分の胸に近づける。
「すまなかった……君を巻きこむつもりなどなかったのに……」
レンは呟き、切ない顔をした。
「早く目を開けてくれ……」
すると、ハルのまぶたがぴくりと動いた。
その異変に、レンはすぐ気づいた。
素早く身を乗りだし、顔を覗きこむ。
「ハル?」
「……あれ、レンさん?」
「よかった、目が覚めたんだね!」
目覚めたハルは、近すぎるレンに一瞬驚く。
「あっ、あの!」
「どこか、痛い所があるのかい?」
「えっと、大丈夫です!」
心配するレンを見て、ハルは慌てて手を振った。
その様子に、レンは安堵する。
「それより、ここは?」
「君の部屋だよ」
「あっ、本当だ……」
ハルは体を起こし、部屋の中を見回した。
自分の知っている場所のため、ほっとした顔になる。
「ハル、さっきは本当にすまなかった」
「さっき?」
「俺とマサの戦いに、君を巻きこんでしまった」
「あれは、私が勝手に飛びこんでいっただけで……」
「それでも、もう少しで君を失うところだった」
話しているレンは、ハルの手を強く握る。
「そう思うと、すごく怖かった……」
「レンさん……」
「君が無事で、本当によかった……」
今にも泣きそうなレンに、ハルは優しく微笑んだ。
そして、レンの手に、自分の手を重ねる。
「私は、どこにも行きません」
「ハル……」
「でも、もうあんなことはしないでくださいね?」
「あぁ、わかった」
ハルの微笑みに、レンは力強く頷いた。
すると、ハルは『彼』を思いだす。
「そういえば、マサはどこに……」
「コバットというアニマに、連れていかれたよ」
「そんな……」
また、マサとはぐれてしまった。
そのことに、ハルはショックを受ける。
だが、レンはある疑問を投げかけた。
「君は、マサに怒っていたんだろ?」
「それはそうですけど……」
ハルは俯き、両手を胸の前で握りしめた。
「マサへの気持ちが、なんだかわからなくなっちゃって……」
「なら、これはもういらないな」
「えっ?」
ハルが顔を上げると、首からペンダントが落ちる。
それはマサのペンダントであり、レンがチェーンを外したのだ。
そのペンダントを持ち、レンは部屋の窓を開けた。
「なにをしているんですか、レンさん!」
「マサはもう、君のアニマじゃない」
「やっ、やめて……」
「だからこれは、もういらないね」
次にレンがなにをするか、ハルには予想ができた。
ハルの顔は、次第に青ざめていく。
その顔を一瞥したレンは、大きく振りかぶった。
「ダメーっ!」
ハルは、急いでベッドから抜けだした。
そして、レンの腕にしがみつく。
すると、レンの動きが止まった。
「お願いレンさん、それを捨てないで!」
「だが、これを持っていれば、嫌でもマサのことを思いだすぞ」
「それでもいい!」
レンの腕にしがみついたまま、ハルは必死に訴えた。
「それは、マサがくれた大切な物なの!」
「大切?」
「そう、だから私は、そのつながりを失くしたくない!」
「……」
「お願いします、捨てないで!」
「初めから、捨てるつもりはないよ」
「えっ?」
「君が、『マサへの気持ちがわからない』と言ったからね」
ハルが顔を上げると、レンはいたずらな笑みを浮かべていた。
「ちょっと、試させてもらったよ」
「ひどい、本当にびっくりしたんですよ!」
「ははっ、それは悪いことをしたね」
「本当に、悪いと思っています?」
「もちろんさ」
「むぅー……」
「それに、君の大事な物をとったりしないよ」
レンは微笑みながら、ペンダントを返した。
それを受け取ったハルは、安心してペンダントを握る。
「マサへの気持ち、ちゃんとわかっているじゃないか」
「はい……もう一度会って、ちゃんと話してみます」
「あぁ、それがいいと俺も思うよ」
二人は微笑みあい、見つめ合った。
すると、ひとつ咳払いが聞こえた。
振り向くと、ドアが開いていた。
「いっ、イグさん!」
ハルは、驚いていた。
なぜならそこには、不機嫌なイグが立っていたからである。
「いつから、そこにいたんですか?!」
「お嬢が悲鳴を上げた時から、ずっといたぞ」
「うそっ、恥ずかしい……」
ハルは赤面し、両手で顔を覆った。
それを見たイグは、ふっと微笑んだ。
「まぁ、お嬢がなんともないなら、それでいい」
「心配かけて、ごめんなさい……」
「気にするな」
俯くハルの頭を、イグは優しく叩く。
「下で待っている奴らにも、お嬢の元気な顔を見せないとな」
イグはそう言うと、部屋を出ていった。
レンも出ていこうとするが、ハルに手を掴まれる。
「あの、レンさん」
「どうしたんだい、ハル」
「私が気を失っている時、ずっと手を握ってくれたんですよね」
「嫌だったかい?」
レンの問いかけに、ハルは首を横に振った。
「違うの……すごく安心したから」
ハルはレンを見つめ、柔らかな笑みを浮かべた。
「レンさんで、うれしかったです!」
すると、レンの中で、熱い気持ちがあふれだす。
そして、ハルを引き寄せ抱きしめた。
突然のことに、ハルは瞬きを繰り返す。
「れっ、レンさん?」
「また、君の笑顔が見れて、俺もうれしいよ」
レンは、一旦離れると、おでこにキスをした。
その行為に、ハルの顔はみるみる赤くなっていく。
そして、口をパクパクさせた。
「レン、変なことをするなと言っただろうが」
「ははっ、これも、立派な愛情表現さ」
顔だけ覗かせ、イグはため息をつく。
レンは、まだ戸惑っているハルの手をとった。
「さぁ、行こう。皆が待っている」
「はっ、はい!」




