69 好きな人に好きな人がいるのって、こんなに辛いんですね
先頭を歩くサラを、ユミたちは警戒していた。
「いつでも戦えるように、集中しておけ」
イグの言葉に、ハルのアニマたちは頷く。
すると、突然サラが振り向いた。
「なぜ、そんなに警戒しているのですか?」
「あなた、私たちに攻撃しながら追ってきたでしょ!」
「警戒するに決まっているでござる!」
「それは、命令されたので実行したまでです」
淡々と話すサラに、ユミとユキは呆気にとられる。
その反応に、サラは首を傾げた。
「しかし、タイミングがいいな」
「そうです、なんであの場にいたんですか?」
ユミの問いに、ふとサラの足が止まる。
「私があの場にいたのは、偶然ではありません」
なぜ、サラがあの場所にいたのか。
それは、マサとレンが戦っている時までさかのぼる。
二人が、お互い攻撃を出そうとしている時のことである。
少し離れた木の陰に、サラは身を潜めていた。
「アニマはやはり、危険な存在ですね」
彼らを攻撃するため、手をライフル銃に切り替える。
だが、標準を合わせた時、ハルの叫びが聞こえた。
「二人とも、やめてーっ!」
ハルは、二人を止めるため、飛びこんでいった。
その行為に、サラは驚きを隠せなかった。
「サラ様、攻撃しましょうか?」
「まだ待つのです。もうしばらく……」
そして、神の遣いが現れ、コバットがマサを連れていった。
サラはそれを目で追うと、他のアンドロイドたちに振り向いた。
「あなたたちは、今去っていったアニマを追いなさい」
「かしこまりました」
アンドロイドたちは飛行形態になり、コバットを追った。
サラはそれを見送り、ハルたちの前に現れたのだ。
「私は不思議でした」
「不思議?」
首を傾げる彼らを見つめ、サラは頷いた。
そして、いまだ気を失っているハルを見つめた。
「なぜ彼女は、身を挺してアニマたちを止めようとしたのか」
「それは、我も気になっていたな」
「神の遣い様もですか?」
「彼らに、そこまでの価値があるとは思えんが」
「さりげなく、ひどいことを言っているな」
「まぁ、言われてもしかたないさ」
神の遣いの言動に、レンは苦笑いを浮かべる。
ユミとユキも、苦笑するしかなかった。
★★★
「やっ、やっと着きましたぁー……」
家に帰りつくと、テーブルにユミは突っ伏した。
それもそのはず。
案内されたのが裏通りで、あちこち歩いたのが原因である。
「……今ふと思ったんだが」
「どうされたのでござるか?」
「鳥人のアニマがいるのだから、飛んで移動すればよかったのではないか?」
「今、それを言いますか?!」
「誰も気づかなかったのですね」
「そういう君も、羽を出して飛べるだろう」
「あら、そうでしたね」
「なんのために、ここまで歩いたんですかぁ……」
「それより、娘を休ませたいのだが」
「それなら、俺が部屋に運ぼう」
「お主が?」
レンが手を上げるが、神の遣いは一瞥するだけだった。
二人の様子に、イグはため息をついた。
そして、レンの肩に手を置く。
「俺が見張るから、そう警戒するな」
「ふんっ、しかたないな」
神の遣いは、渋々ハルをレンに預けた。
レンが階段をあがる時、ハルが呟いた。
「マサ……行かないで……」
「ハル?」
「どうやら、寝言のようだな」
「本当に、マサが大切なんだな……」
ハルの気持ちを知り、レンは微笑む。
そして、イグとともに階段をあがっていく。
だが、ユミだけは辛い顔をしていた。
今にも泣きそうなユミを、ユキは心配になった。
「ユミ殿、どうされたのでござるか?」
「ユキさん……」
振り向いたユミは、頑張って笑顔を作る。
「わかってはいましたけど、好きな人に好きな人がいるのって、こんなに辛いんですね」
「ユミ殿……」
ユキは、なにも言えなかった。
ユミが、必死に耐えているのがわかったからである。
すると、ユミはゆっくり席に着いた。
そして俯き、唇を噛みしめ強く手を握りしめる。
「やれやれ……好かれるのも苦労するな」
「私には、よくわかりません」
神の遣いは、盛大に肩を落とした。
なぜなら、『心』というものに呆れていたからである。
隣に立つサラは、表情ひとつ変えなかった。
ユキはどうすることもできず、ただ戸惑うばかりである。
「お二人とも、早く戻ってきてくだされ……」
気まずい空気に耐えられず、ユキはそう願うのだった。
★★★
二階にあがったレンとイグは、ハルの部屋の前にいた。
「俺は部屋の外にいるから、お前はお嬢を休ませてこい」
「あぁ、わかった」
「ないとは思うが、変なことするなよ」
「するわけないだろ。嫌われたくないからな」
「なら、いいんだが」
疑っているイグは、小さくレンを指さす。
「お前は、油断ならないからな」
「ははっ、ひどいな」
「うぅ……」
二人が話していると、ハルの口が動く。
レンは苦笑し、イグに目で合図した。
「ほら、さっさと入れ」
「ありがとう、イグ」
「お前に言われても、あまりうれしくないな」
「まったく、君はひねくれているな」
レンが入るのを確認し、イグはドアを閉めた。
「レン、お嬢はお前のことも、大切に思っているぞ……」
そう呟き、イグは壁にもたれかかった。
そして腕組みをし、静かに目を閉じた。




