68 神の遣い、再び
「どうして、神の遣い様がこんな所に……」
「お嬢やユミから聞いたのだと、巨大な鹿と蛇の姿のはずだが……」
「人の姿にもなれるのでござるか!」
ユミたちが驚いている中、マサとレンは攻撃の構えをとった。
「神の遣いだか、なんだか知らねぇが!」
「ハルを離してもらおう!」
二人は、勢いよく神の遣いにとびかかった。
その瞬間、神の遣いは目を見開いた。
すると、突然二人の体から、力が抜けていく。
「なっ、なんで……」
「体の力が、抜けていく?」
「貴様ら、恥を知れ」
地面にへたりこんだ二人を、神の遣いは冷たく見下ろす。
そして、深いため息をついた。
「娘には、お主たちがついていると思っていたが……」
一度ハルを見つめ、鋭い眼差しで二人を見下ろした。
「我の思い違いだったようだな」
淡々と神の遣いは話すが、その表情は落胆していることがわかる。
マサとレンを一瞥し、抱えているハルを見つめた。
「まさか、契約者を攻撃してしまうとは……」
「違うの……神の遣い様」
「うむ?」
「私が、勝手に飛びこんじゃったから……」
「お主は、彼らを止めようとしたのだろ?」
「はい……」
「ならばお主は、なにも悪くない」
ハルを見つめながら、神の遣いは優しく微笑む。
それにハルは安心し、また目を閉じた。
神の遣いは頷き、離れた所にいるユミたちに振り向いた。
「おい、虎のアニマよ」
「はっ、はい!」
「お主は、この猫のアニマを見張れ」
「承知したでござる!」
突然神の遣いに呼ばれたため、ユキは背筋を伸ばした。
対するマサは、俯いて苦い顔をする。
「見張る必要はねぇよ」
すると、上空から声が響いた。
全員が上を向くと、コバットが飛んできた。
「コバット!」
「マサはオイラたちの仲間だから、返してもらうぜぇ!」
コバットはそう言うと、マサを足で挟んで飛びたった。
「待て、コバット!」
「おい、暴れるな。大人しくしなっての!」
「俺は、まだハルと話せていない!」
マサは、なんとか足から抜けようと暴れる。
だが、それを阻止するように、コバットは足に力を入れた。
「ぐっ!」
「まったく、大人しくしてろよなぁ」
コバットがしめつけたため、マサは気を失った。
そして、二人は遠くに行ってしまった。
ハルはゆっくり目を開け、遠くなるマサを見つめていた。
「マサ……」
ハルの顔は、とても切なげだった。
その表情に気づいていたのは、ユミだけだった。
「ハルさん……」
ユミの様子が変わり、イグは近づいて肩に手を置く。
「あのぉー……神の遣い殿」
「なんだ、虎のアニマよ」
「マサ殿が連れていかれましたが、俺はどうすれば……」
「追う必要は無い」
「そっ、そうでござるか」
困惑していたユキは、追わなくていいことにほっとする。
そして神の遣いは、次にイグに振り向いた。
「おい、鷲のアニマよ」
「なんだ」
「お主には、この犬のアニマを見張ってもらおう」
神の遣いは、レンに視線を向ける。
イグはというと、腕を組んで神の遣いを睨みつけた。
「見張らずとも、逃げたりしないと思うが」
「なら、また娘が危険な目にあってもよいのか?」
「……わかった」
そう言われると、イグも反論はできなかった。
頷くイグを見つめ、神の遣いは鼻を鳴らす。
「ふんっ、了承するなら、さっさとすればよかろうに」
文句を言う神の遣いを無視し、イグはレンに近づいた。
「レン、立てるか?」
「いや、まだ力が入らないんだ……」
「しかたないな。ほら、肩かしてやるから」
「イグ殿、俺も手伝いますぞ!」
「ありがとう、イグ、ユキ」
イグとユキの肩を借りながら、レンはゆっくり立ち上がる。
それを確認した神の遣いは、ユミに視線を向けた。
「では、そろそろお主たちの家に帰るとするか」
「あの……そのことなんですけど……」
「どうした、小鳥のアニマよ」
「私たち、ここらへんに来るの初めてなんです」
「それがどうした」
「しかも追われていたので、あちこち行ってわからなくなりまして……」
「つまり、お主たちは迷子というわけだな」
「はい……」
「困ったな。早く娘を休ませたいのだが……」
「そのことなら、ご安心ください」
全員が声のする方を向くと、サラが立っていた。
神の遣いは、無表情のままサラを一瞥する。
すると、ユミが慌てだした。
「神の遣い様、私たち、あの人に追われているんです!」
「もしかして、また攻撃してくるのでござろうか」
「いいえ、今は戦いません」
「信用すると思うのか?」
「信用するかしないかは、あなたたちの自由です。しかし……」
サラは淡々と話し、ハルへと視線を向けた。
「彼女を休ませるのが、優先だと思いますが」
「ほぉ……意外と話のわかる奴だな」
「でも、私たちの情報が、あの会社の人たちにわかっちゃうんじゃ……」
「それも、大丈夫です」
サラは片手を上げると、自分の頭を指さした。
「今は、通信をオフにしていますから」
そして、サラは公園の入り口へと歩きだす。
公園を出ると、ハルたちに振り向いた。
「では、参りましょう」
「参るって、どこに?」
「あなたたちの家ですよ。私が、ご案内します」




