67 愛のため
先に攻撃をしかけたのは、マサだった。
マサは、拳に電撃をまとわせる。
「ライジングショット!」
勢いに任せて殴ろうとしたが、レンは軽々と避ける。
そして、マサの背後をとった。
かわされたマサの拳は、地面をえぐる。
レンは態勢を変え、蹴りを入れる。
とっさにマサは気づき、両手を顔の前で構えて防いだ。
「二人とも、やめて!」
「ハルさん、近づいたら危ないですよ!」
ハルは戦うマサたちを見て、止めようとした。
だが、ユミに止められ、近づくことはできなかった。
ハルは不安な顔で、二人を見つめる。
「どうして、二人が戦わないといけないの?」
「それは、私たちがアニマだからです」
「どういうこと?」
ハルが隣を見ると、ユミが真剣な眼差しで見つめていた。
「私たちアニマが戦う理由は、いくつかあります」
いつもと違うユミに、ハルは戸惑ってしまう。
それがわかったユミは、優しく微笑む。
「守りたい者のためや、己の力を見せつけるためなど、様々なんですよ」
「じゃぁ、二人が戦わないといけないのは?」
「それはもちろん、愛のためです」
「愛?」
「ハルさんのために、お互いひけないんですね」
「私のため……」
わくわくしているユミと違い、ハルの中でさらに不安が増した。
「ハル殿ーっ、ユミ殿ーっ!」
ユキの声が聞こえ、ハルは驚いて振り向く。
すると、公園の入り口に、ユキとイグが立っていた。
やっと会えたのがうれしいのか、ユキは大きく手を振っている。
「お二人とも、ここにおられましたか!」
「なんとか、全員合流できたな」
ユキとイグは、ハルたちのそばまでやってくる。
すると、ユキはいまだに戦っているマサたちに首を傾げた。
「それよりもなぜ、マサ殿とレン殿が戦っているのでござるか?」
「それは……そのぉー……」
「お二人とも、愛する人のために戦っているんですよ!」
「ユミちゃん、それは多分違うから!」
「まぁ、あながち間違っていないと思うぞ」
「えっ?」
イグの呟きに、ハルは思わず聞き返した。
「二人とも、お嬢が大切だということだ」
「それは、うれしいんですけど……」
「ハル殿、あの二人の手合わせが終わったら、俺も戦いたいでござる!」
「えっ、ユキまで?!」
「しかしあれは、手合わせというレベルじゃないぞ」
マサたちの戦いを見て、イグは眉間にしわを寄せる。
それもそのはず。
マサとレンの戦いは、激しさを増していたのだから。
そして、二人の拳がぶつかり合う。
「マサ、君はさっき、俺の心はどうなんだと聞いたな」
「あぁ、そうだ」
「俺の心は、ハルと契約した時に、すでに彼女に預けている」
「そういう割には、ハルが消える時、あんたは薫と一緒だったじゃねぇか!」
「それとこれとは、話が別だ」
「別じゃねぇ!」
「くっ!」
レンは両手で防ごうとしたが、マサの拳の方が勝った。
「あんたが薫と話している時、ハルはずっと傷ついていたんだ!」
「そんなこと、ハルは一言も……」
「言えるわけねぇだろ。気になる相手には……」
そう呟くと、マサは歯を食いしばった。
「だから、ハルにちょっかいを出すあんたが、ずっと気に食わなかった!」
マサは駆けだし、今度は蹴りを入れる。
だが、レンも負けじと蹴り返した。
二人の攻防は続くが、次第に疲れも見え始めた。
「マサ、君がそれを言う権利はあるのか」
「なに?」
「今の君が、ハルを悲しませているだけだと、なぜわからない!」
「がはっ!」
レンの一撃が入り、空中で戦っていたマサは落下する。
そして、地面に叩きつけられた。
しかし、すぐに態勢を整え、レンと距離をとった。
そんな二人の戦いを、ハルたちは見守るしかできないでいた。
「どうしよう……このままじゃ、二人とも倒れちゃう」
「今は、見ていることしかできないな」
「俺も、早く戦いたいでござる!」
「一体、どちらが勝つんでしょうか!」
「ユキ、ウズウズするんじゃない。ユミも、わくわくするな」
「マサ……レンさん……」
ハルは、不安でしかたがなかった。
そんなハルをよそに、マサとレンは攻撃の構えをとる。
「「これで終わりにする!」」
「やっぱり、こんなのおかしいよ!」
いてもたってもいられず、ハルは駆けだしていた。
突然のことに、ユミたちは驚く。
「ハルさん?!」
「お嬢!」
攻撃に集中している二人は、近づくハルに気づかないでいた。
マサは電撃を、レンは炎の渦を放った。
「サンダーボルト!」
「業火!」
「二人とも、やめてーっ!」
ハルが間に入ったことで、やっと二人はその存在に気づく。
「ハル?!」
「しまった!」
気づいたところで、時すでに遅し。
電撃と炎の渦が、ハルに向かっていく。
「っ!」
ハルは、恐怖で動けずにいた。
すると、上空から光が落ち、大きな音と土煙がまった。
「大変、ハルさんが!」
「待て、ユミ。土煙の中に、人影が見えるぞ」
「ハル殿が、ご無事ということでござるか?」
「いや、あの背丈はお嬢じゃないな」
イグたちは、土煙が晴れるのを待った。
やがて、土煙が晴れると、長身の男がハルを抱えていた。
「誰だ、あんたは……」
「頭に角があるし、人間じゃない?」
「もしかして、俺たちと同じアニマなのか?」
マサたちが驚くのも、無理はない。
その男は、頭に鹿の角があり、蛇柄の着流しを着ていたのだから。
「娘よ、怪我はないか?」
「神の遣い様……」
「神の遣いーっ?!」
ハルの言葉に、その場にいたアニマたちは、驚きを隠せなかった。




