60 帰宅
ハルたちが家の近くまで来た時、外はもう日が沈みかけていた。
それもそのはず。
あちこちが通行止めで、遠回りをするハメになったのだ。
「すみません、だいぶ時間がかかってしまって……」
「いえ、気にしないでください」
「騒ぎがおさまっていても、修復に時間がかかるんだろう」
「そんなに、大変な騒ぎだったんだ……」
「あぁ、いろんな建物が破壊されて、怪我人も大勢出たらしい」
「ひどい……」
「お待たせしました。着きましたよ!」
研究員に声をかけられ、ハルは外に目を向けた。
やっと我が家に帰ってきたことに、胸を撫でおろした。
ハルたちをおろし、研究員は頭を下げる。
「では、自分はこれで失礼します」
「ありがとうございます。帰り、気をつけてくださいね!」
研究員を見送り、ハルは家に振り返る。
「よかったぁ、うちはなんともないみたいだね」
「当然だ、俺が何度か戻っていたんだから」
「えっ、じゃぁマサが外出していたのって……」
マサの言葉に、ハルは家を指さした。
「家に帰っていただけなの?」
「……まぁな」
そして、マサは顔認証をし、ドアを開けて中に入った。
ハルたちは顔を見合わせたが、中に入った。
しかし、先に入ったマサは、立ち尽くしていた。
「マサ、どうしたの?」
心配するハルだったが、家の中の光景に驚愕した。
「なっ、なにこれーっ?!」
ハルの驚いた理由は、ただひとつ。
部屋中荒らされて、ぐちゃぐちゃになっていたのだ。
「これは、ひどいな……」
「もしかしたら、二階も同じようなことになっているんじゃ……」
「わかりました。私とユキさんで見てきます!」
「でも、もし犯人と出くわしたら……」
「大丈夫ですよ、ハルさん」
「うむ、見つけたら、俺の拳をお見舞いするでござる!」
「それは……相手に同情するな」
鼻息の荒いユキに、イグは少し引いていた。
なぜなら、談話室でのマサを思いだしたからである。
「ほら、行きますよユキさん!」
「承知!」
ユミとユキを見送り、ハルはマサに声をかけた。
「マサ、あなたが帰った時は、こんな風じゃなかったんだよね」
「あぁ……」
「一体、誰がこんなことを……」
わけがわからないハルだったが、片づけるため手を伸ばした。
だが、レンにその手を掴まれる。
「レンさん?」
「ガラスとかがあるかもしれないから、片づけは俺たちでするよ」
「でも……」
「ハルさーん、二階も荒らされていますーっ!」
「タンスの中も、ぐちゃぐちゃですぞー!」
ユキの声が聞こえ、ハルははっとした。
「衣服類は私がやるから、あたらないでー!」
猛ダッシュで、ハルは階段をかけあがった。
それを見ていたレンは、笑いをこらえている。
しかし、マサは歯を食いしばっていた。
そして、足早に玄関に向かっていく。
「待て、マサ!」
レンの呼びかけに、マサは一度立ち止まる。
だが、振り向かず俯いている。
「もう暗くなるのに、どこに行くんだい?」
「……今は、なにも聞かないでくれ」
それだけ言うと、家を出ていった。
「しかたない、俺が行ってくる」
「ダメだ、もうすぐ夜になる」
「だが……」
「鳥人の君は、行動が難しいだろ?」
そう言ってレンも、駆け足でマサの後を追った。
すると、衣服類を持ったハルが、二階から降りてきた。
「あれ、マサとレンさんは?」
「あぁ、二人なら怪しい奴を見つけて、追いかけていったぞ」
「えっ、怪しい人?!」
「ハル殿、俺も行って参りまする!」
「いや、俺たちは片づけをしていよう」
「しかし……」
「なに、すぐ戻ってくるさ」
イグの様子に、ハルたちは顔を見合わせていた。
★★★
マサは家を出た後、ある路地裏に来ていた。
そこはうす暗く、街灯も少なかった。
「おい、そこにいるんだろ、出てこい!」
「そんなに大声出さなくても、聞こえているぜぇ?」
暗闇から現れたのは、背中の曲がった青年だった。
黒い前髪を目元まで垂らし、口元はにやついていた。
「コバット……ハルの家を荒らしたのは、あんたか?」
くくく……オイラじゃねぇぜ。でも……
コバットという青年は、意地の悪い笑みを浮かべ、マサを見つめる。
「指示をしたのは、オイラだけどなぁ」
「協力すれば、あいつらになにもしないと言っただろ!」
「あぁ、だからなにもしていないさ」
「しているだろ。家まで荒らして」
「それは、探し物をしていただけさぁ」
「探し物だと?」
「まぁ、見つからなかったけどなぁ」
睨みつけるマサに、コバットは笑いながら手を振る。
「くくく……こっちの話さぁ」
コバットは手をいじりながら、遠くを見つめる。
「どうやら、お前の想い人が帰ってきたみたいだなぁ」
「……それがどうした」
「いやぁ、それならオイラの探し物も持っているかもだしなぁ」
「ハルには近づけさせねぇ!」
マサは駆けだし、拳に電撃をまとわせる。
「食らえ、ライジングショット!」
「おっと、危なーい」
コバットは笑みを浮かべながら、余裕でかわす。
かわされたマサの拳は、勢いよく地面をえぐった。
「そう怒るなって。今は手出ししねぇよぉ」
積み上げていた荷物に立ち、コバットはマサを見下ろす。
「早くボスに、このことを伝えないとだからなぁ」
すると、コバットは両手を広げる。
それはまるで、コウモリの羽のようだった。
「じゃぁな、マサ。近いうちにまた会おうぜぇ!」
「待て、逃げるな!」
「待つのは君だ、マサ」
追いかけようとしたマサを、追いついたレンが呼び止める。
コバットは二人を見下ろし、嫌な笑みを浮かべる。
そして、どこかへ飛んでいった。




