59 疑いは晴れたかに思えたが……
「レンさん?」
「なぜか、アニマたちの暴走は、集団で行われていて、統率がとれているんだよ」
「では、誰かがまとめている、ということでござるか?」
「じゃぁ、それがマサだって言うんですか!」
頭に血がのぼり、ハルは勢いよく立ち上がった。
しかし、傷の痛みで座りこんでしまう。
「いたっ……」
「お姉ちゃん、無理しちゃダメだよ!」
「そうですよ。今は傷を治さないと」
「でも、マサが……」
「俺が、どうしたって?」
ユミの制止を振り切り、ハルは出ていこうとする。
しかし、タイミングよくマサが戻ってきたので、ぶつかりそうになる。
「マサ!」
「なんだ、ハル。俺がいなくてさみしかったのか?」
「ちっ、違っ……そうじゃなくて!」
マサは、いたずらな笑みを浮かべ、ハルに近づく。
そしてあごに手を当て、顔を近づけた。
突然のことに、ハルは赤面して強く目を閉じる。
「マサ殿、破廉恥でござるーっ!」
「ぐはっ!」
「わぁっ、マサのお兄さんが吹っ飛んだ!」
ハルとマサの様子に耐えきれなかったユキは、マサを思いっきり殴った。
そのため、マサは壁に激突した。
一部始終を見ていた猿渡たちは、驚きのあまり言葉が出なかった。
だが、ユミだけは満面の笑みだった。
そして、ユキに向かって、親指を立てる。
「ユキさん、ナイスです」
「なっ、ないす?」
「ちょっとマサ、大丈夫?!」
ハルがマサに駆け寄っていると、イグも戻ってきた。
「なんだか、すごい音が聞こえたんだが……」
戻ったイグは、部屋を見てレンに視線を向ける。
レンは苦笑し、頬をかいていた。
「なにかあったのか?」
「いや、それよりも……」
イグの肩を抱いたレンは、静かに部屋の外に連れていく。
そして、声を潜め、イグに問いかけた。
「それで、マサはどうだった?」
「ずっと見ていたが、本当に外の空気を吸っていただけだった」
「なら、マサがまとめている、というのは無いか」
レンとイグは、話ながら考えた。
当のマサは、彼らを静かに見つめていた。
それから、ハルが薫の研究所に来て、二週間が過ぎた。
ある日の早朝、ハルは研究所の庭に来ていた。
「よしっ、怪我も治って、ハルちゃんふっかーつ!」
「おぉっ、ハルさん今日も元気ですね」
仁王立ちするハルに、ユミは笑顔で拍手をしていた。
「あっ、ユミちゃん、おはよう!」
「おはようございます、ハルさん。起きるの、早いんですね」
「あはは……なんか目が覚めちゃって」
「じゃぁ、今度は私と一緒に寝ませんか?」
「こらこら、二度寝は禁物なんだぞ?」
ハルは微笑みながら、ユミの頬を軽くつついた。
「えーっ、だってマサさんだけ、ハルさんといい感じになるのズルイです!」
「なっ、なんで知っているの?!」
「見ていればわかります!」
「おや、ハルにユミじゃないか」
ハルとユミがじゃれ合っていると、レンが姿を現した。
「ずいぶんと早起きなんだね」
「レンさん、おはようございます!」
「あぁ、おはよう」
「レンさんも、早起きなんですね」
「いや、起きたら君たちがいないから、探していたんだよ」
苦笑するレンに、ハルたちは首を傾げる。
それにレンは、ため息をついた。
「今日の朝食担当は、君たちだろう?」
「あっ、そうでした!」
「ユミちゃん、慌てなくてもまだ時間はあるから」
「そうは言っていられません。ハルさん、早く戻りましょう!」
「ははっ、ユミ、焦ることはないよ」
「あっ、そうだ!」
突然ハルが声を発したため、レンとユミが振り向く。
「どうしたんだい、ハル」
「あの、朝食が終わった後、一度家に帰ってもいいですか?」
「……なぜだい?」
「だって、怪我も治ったし、やっぱり家が心配で……」
頬をかきながら、ハルは家の心配を伝えた。
するとレンは、あごに手を当て黙ってしまう。
「あのー、レンさん?」
「あぁ、すまない」
不安そうなハルの声に、レンは笑って手を振る。
「ここ最近、街での騒ぎはないみたいだから、戻っても平気だろう」
「本当ですか!」
「よかったですね、ハルさん」
「うんっ、やっと我が家に帰れるよー」
家に戻れることに、ハルは喜んでいた。
二人は、談笑しながら戻っていく。
だが、レンはもう一度考えていた。
「しかし、なぜ街での騒ぎが落ち着いたんだ?」
レンは歩きながら、考えを巡らせる。
ハルのこと、マサのこと。
そして、アニマの暴走のことを。
「ハルが来てから、街での騒ぎはきかない。マサの外出もなくなった」
レンは眉間にしわを寄せ、頭をかいた。
「やはり、二人には何かある……注意して見ておくか」
軽く頷いたレンは、ハルたちが待つ食堂へと向かった。
★★★
「まったく……」
研究所の入り口で、薫はため息をついていた。
「突然、『今日、うちに帰ります!』なんて言うから、びっくりしたよ」
「すみません……薫さんには、すごくお世話になりました!」
ハルは苦笑しながら、お礼を言った。
薫も苦笑し、とても残念という顔をしていた。
「ハルさんは、真面目に仕事をしてくれるから、助かっていたんだけどね」
「そう言ってもらえると、有り難いです」
「本当に残念だなぁ。あぁ、そうだ!」
手を叩いた薫は、笑顔でハルの手を握る。
「いっそのこと、ここで働かないかい?」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、仕事をちゃんと覚えて、きちんとこなしてくれるから、ぜひお願いしたいね」
「あっ、ありがとうございます!」
「じゃぁ、ハルさんは私の後輩になるんですね」
「はいっ、アキナ先輩よろしくお願いします!」
「もう、やめてくださいハルさん!」
ハルとアキナが笑い合っていると、一台の車がとまった。
「それでは、家まで送りますので乗ってください」
「はーい」
研究員に促され、ハルたちは次々と乗りこんでいく。
「じゃぁ、彼女たちのこと、頼んだよ」
「わかりました。では、行ってきます!」
そして、ハルたちを乗せた車は、街に向かっていった。




