61 彼女の怒り
コバットを逃がしたことに、マサは舌打ちをする。
そして、その原因である、レンを睨みつけた。
「レン、なんで止めるんだ」
「君には、確認したいことが山ほどあるんだよ」
「俺は、話すことなんてねぇよ」
「そうはいかない」
ずっと目を合わさないマサに、レンは近づいていく。
「さっきの男は、アニマだろう。どういう関係なんだ?」
「……なにもねぇよ」
「君が外出していたのは、家の手入れをしていただけではないね」
「……」
黙っているマサに、レンはため息をついた。
「俺たちにはいいが、ハルにも隠すつもりかい?」
「ハルには言わないでくれ!」
「マサ……」
「これは俺の問題だ。俺がケリをつける……」
やっと目を合わせたマサは、決意のこもった表情をしていた。
そして歩きだし、レンの横を通り過ぎる。
レンはなにも言えず、その背中を見送った。
★★★
コバットは、とある廃工場に来ていた。
そこに降り立ち、笑いをこらえながら中に入っていく。
「ボス、ただいま戻りました」
「あぁ、おかえりコバット」
コバットを出迎えたのは、狼の耳としっぽが生え、戦乙女のような姿の女性だった。
女性は切れ長の瞳で、コバットを見つめる。
「それで、なにかいいことでもあったのか?」
「はい。やっと、探していた物が見つかりましたよぉ」
「そうか。なら、こちらから出向いてやるとするかな」
「ならばいっそ、派手にご登場なされてはいかがですか?」
「あたしは、あまり派手なのは嫌なんだが……」
「いいえ、ボスの美しさは誰もが認めているのですよぉ!」
「まったく、お前は口がうまいな」
苦笑した女性は、コバットの頭を撫でる。
そして振り返り、奥へと声をかけた。
「皆の者、次に襲う場所が決まったぞ!」
女性は仁王立ちをし、仲間たちに呼びかけた。
そばにいるコバットは、目を輝かせていた。
「次に狙うは、神崎ハルという女の家だ!」
ハルの知らないところで、何かが始まろうとしていた。
★★★
次の日の朝、ハルはお疲れモードだった。
「はぁー……やっと片づけが終わったよ」
「まさか、夜中までかかるとは思いませんでしたね」
「まだ眠いでござるぅ……」
「ユキ、寝たらダメよ。ちゃんと起きなさい」
まだ眠そうなユキを、ハルは頬を叩いて起こす。
そして、ふとあることを思いだした。
「そうだ、昨日の怪しい人はどうしたの?」
「……」
「ちょっと、マサ聞いてる?」
無反応のマサに、ハルは口をとがらせた。
それを感じたレンが、話に入ってくる。
「昨日の怪しい奴なら、逃がしてしまったよ」
「えっ、じゃぁまたここに来るかもしれないんですか!」
「その前に、俺がなんとかする」
「マサ?」
力強いマサの発言に、ハルは首を傾げる。
それからまた黙ったマサだが、突然席を立った。
しかも、マサの耳はピンとたっていた。
「どうしたの、いきなり立ったら、びっくりするじゃない!」
「ちっ、もう来やがった!」
「来たって、なにが……」
ハルは尋ねようとしたが、マサは気にせず玄関に向かう。
「ちょっと、マサ!」
ハルの呼びかけに応えず、マサは出ていった。
「なんで、なにも言ってくれないのよ……」
「ハルさん……」
俯くハルの肩を、ユミは優しく抱いた。
レンとイグは、お互い視線を交わすと、席を立った。
「すまないが、俺たちも少し出てくるよ」
「えっ、レンさんとイグさんも?」
「マサ殿の後を追うのでござるか?」
「あぁ。だから、ユミとユキは、お嬢のそばにいてくれ」
「承知!」
「行くぞ、レン」
「あぁ」
そして、二人も家を出ていった。
なにもわからないハルは、頬を膨らませる。
「もう、一体なんなのよー……」
「まぁまぁ、私たちは大人しく待っていましょう」
「……そうだね」
ハルは頷き、並べられた朝食を見つめる。
「もったいないから、全部食べてやる!」
「えっ、そこですか?」
やっぱり、ハルさんはどこかズレていると、ユミは呆れるのだった。
★★★
マサは、全力で街中を走っていた。
「くそっ、こんな早く行動するなんて……」
「おーい、マサ!」
背後から呼ばれ、マサは一旦立ち止まって振り向いた。
呼びかけたのはレンであり、空からはイグも現れる。
「レン、それにイグ……なんでここにいる」
「君のことが、気になったからな」
「別に、気にする必要ねぇだろ」
「だいぶ追いつめられてたみたいだから、無茶をすると思ってね」
「ふんっ」
「素直じゃないなぁ」
「おい、どうやら話している暇はなさそうだぞ」
三人が前を向くと、数人がマサたちの方に歩いてきていた。
先頭を歩いていたのは、あの戦乙女の女性だった。
「はじめまして。あたしはあかり、狼のアニマさ」
「君が、アニマたちを暴走させている張本人だな」
「暴走?」
レンの問いかけに、あかりは首を傾げる。
そして、不敵な笑みを浮かべた。
「違うな。彼らは人間が信用できなくて、暴れているだけさ」
「それは、桂木博士の一件だね」
「そう、あの」桂木という男が、すべての始まりだ!」
あかりは片足を上げ、地面を踏みつけた。
すると、あかりの怒りが伝わるように、地面にひびが入っていく。
「自分の望みのために、どれだけのアニマが犠牲になったと思っている!」
「君の怒りはもっともだ。しかし……」
「あかり様、落ち着いてください」
レンが止めようとすると、その前に小柄な女性があかりを止める。
その女性は、白いボブカットの髪で、猫耳としっぽが生えていた。
「はじめまして、私はマイと申します」
マイはマサを見つめ、優しく微笑む。
「マサ、あなたと同じ猫のアニマです」
しかし、マサはマイから、目線をそらした。
その行為に、マイは笑みをこぼす。
そして、軽く会釈をした。
「これからも、仲良くしてくれると、うれしいです」
「あんたらと、仲良くするつもりはねぇよ」
「なんだ、ここ一年、一緒に行動していたじゃないか」
「そうだとしても、もう俺に構うな!」
「それは、できない相談だっ!」




