56 時の流れ
「あの子たち、なんであんなに仲が悪いんでしょうか」
「それは、お嬢のことがあるからだろう」
「私?」
突然自分のことを呼ばれ、ハルは首を傾げる。
「お嬢の一件があって、あいつらはよく言い合いをするようになった」
「そっ、そうだったんですか……」
「だが、気にする必要はない」
「でも……」
落ちこむハルに、イグは優しく微笑んだ。
「気にするな。こうして戻ってきてくれたのだから」
「イグさん……」
二人の視線がぶつかり、お互い見つめあった。
すると、背後から騒がしい声が聞こえた。
「イグ、ハルを誘惑するんじゃねぇ!」
「そうですよ。『俺は、興味ない』って感じだったのに!」
「……ユミ、今のは俺の真似か?」
「ふふっ」
「お嬢、笑っている場合か」
「すみません、なんだかおかしくて……」
「まったく、俺まで巻きこまれたらかなわん」
そして、イグは羽を広げ、空に羽ばたいていく。
まるで、マサたちから離れるように。
「あっ、待ちやがれ!」
「マサさん、行きますよ!」
ユミはマサの手を取り、羽を広げて飛んでいった。
やがてハルたちは、薫の研究所に着いた。
「やっ、やっと知っている場所に出たよ」
「さぁ、中で手当てをしないとな」
「はーい」
「あっ、皆おかえり!」
ハルが研究所に入ろうとすると、突然ドアが開いた。
現れたのは、長身の男性で、手にはスケッチブックを持っていた。
「お姉ちゃん!」
「えっと、どちら様?」
「ひどいよ、もう忘れちゃったの?」
「そう言われても……あれ、『お姉ちゃん』?」
『お姉ちゃん』
そう呼ぶのは、一人しかいない。
「もしかして、さぁちゃん?」
「そうだよ。思いだしてくれたんだね」
ハルは瞬きをし、口を開いたまま固まる。
猿渡の予想外の成長に、驚きを隠せなかったのだ。
「でも、驚いた……一か月でこんなに成長するの?」
「なに言っているんだ、お嬢」
ハルの一言に、その場にいた全員が固まる。
そして、口を開いたのはマサだった。
「あんたがいなくなったあの日から、一年がたっているんだぞ」
「いっ、一年?!」
ハルは、さらに驚いた。
当然である。
ハルの世界での一か月が、マサたちの世界では一年というのだから。
「そんなに、年月がたっていたなんて……」
「お嬢、落ちこむ必要はない」
「そうですよ。また皆でいられるんですから!」
「お姉ちゃんと会えて、僕もうれしいよ!」
「皆、ありがとう……」
イグたちがハルを励ます中、マサだけは黙ったままだった。
「さぁお姉ちゃん、早く中に入ろう」
「いたた……さぁちゃん、あまり強く引っ張らないで」
「あっ、ごめんね。それより……」
猿渡は、ちらっとマサに視線を向ける。
「なんで、マサのお兄さんはびしょぬれなの?」
「……俺のことは、気にしなくていい」
ユミに水をかけられたとは、言えないマサだった。
それを知っているハルは、笑いをこらえる。
廊下を歩き、ハルたちは談話室に着いた。
「ちょっと待ってて。救急箱とタオル、持ってくるから!」
「あっ、私も手伝います!」
「ありがとう、ユミのお姉さん」
そして、猿渡とユミは、談話室を出ていった。
ハルは椅子に座り、まだ会っていない彼らのことを思いだす。
「そういえば、ユキとレンさんは?」
「ユキは、いつものようにトレーニング中だ。それと、レンなんだが……」
マサが言葉に詰まっていると、部屋の外から大きな足音が聞こえてきた。
「噂をすれば……」
「ハル殿が戻ってきたとは、本当でござるか!」
「ユキ!」
全速力で走ってきたのか、ユキは息切れをしていた。
しかし、ハルが戻ってきたという気持ちが、疲れより上回っていた。
ユキはハルに駆け寄り、手を握った。
「ハル殿、心配しましたぞ。よくご無事で……」
「あんた、もう少し落ち着けないのか」
「これが、落ち着いていられるわけないでござろう!」
「マサ、ユキも心配していたんだ。そんなに機嫌を悪くするな」
「ふんっ」
マサがそっぽを向いたため、ハルは苦笑いを浮かべる。
「ユミ殿から聞いて、いてもたってもいられず……」
「うん、来てくれてありがとう」
「ユキ君、廊下を走ったらダメじゃない」
「アキナちゃん!」
「ハルさん、お久しぶりです」
ユキに続いて、アキナもやってきた。
アキナは前より大人びており、白衣を着ていた。
「アキナちゃん、前より大人びたねぇ」
「そうでしょうか……自分じゃ、あまりわからなくて」
「アキナ殿は、いつでも可愛らしいでござるよ」
「もう、ユキ君ったら口がうまいわね」
二人の会話に、ハルは首を傾げる。
なんだか、ユキとアキナちゃんの距離が近いような……と、ハルは思った。
そして、イグとマサに視線を向けると、二人とも頷いていた。
「なるほど……」
「ハル殿、どうしたのでござる?」
「いや、こっちの話だから、気にしないで」
苦笑するハルに、ユキとアキナは顔を見合わせた。
すると、猿渡とユミが戻ってきた。
ユミがハルの手当てをしていると、猿渡が隣に座る。
「お姉ちゃん、これ見て!」
「これは……ペンダント?」
猿渡が取り出したのは、太陽の形をしたペンダントだった。




