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39 さぁちゃん

 ハルは談話室に入り、荷物を下ろして机に突っ伏していた。

「はぁー、本当に疲れたわ」

 突っ伏したまま、ハルはブツブツと文句を言っていた。

「もう少し、近くにあったらいいのに……」

「本当にそうだよね、お姉ちゃん」

 ハルが振り向くと、入り口で猿渡がスケッチブックを持って立っていた。

「いっ、いつの間にそこにいたの?」

「少し前からだよ」

「じゃぁ、私の愚痴も聞こえていたの?」

 顔を引きつらせるハルに、猿渡は頷く。

「僕、ウサギと猿のアニマだから、よく聞こえるんだ」

「そっ、そっか……」

 なら、この子もキメラなんだ……と、ハルは切なげに猿渡を見つめる。

 その視線に、猿渡は首を傾げた。

 だが、何かを思いつき、近くの椅子を持ってくる。

 そして、ハルの隣に座ってきた。

「お姉ちゃん、前に約束したよね」

「約束?」

「言ったじゃないか。一緒に絵を描くって」

「あぁっ、確かに言ったわね!」

 少しムッとしている猿渡を見て、ハルは焦ってスケッチブックを指さす。

「じゃぁ、なにを描こうか、あきら君」

「また、お姉ちゃんを描きたい!」

「えーっ、今度は可愛く描いてよ?」

「僕、正直だから難しいなぁ」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

 二人で笑いあっていると、猿渡が描きながら口を開く。

「僕も、他の人みたいに、お姉ちゃんに呼ばれたい」

「えっ、呼んでるよ、あきら君って」

「違うんだ。もっとこう、親しみやすくというか……」

「うーん……」

 ハルは、腕を組んで考えた。

 すると、何かをひらめいたのか、手を叩く。

「なら、『さぁちゃん』ってどうかな」

「さぁちゃん?」

 猿渡が首を傾げたため、ハルが慌てだした。

「あぁ、ごめんね。ちょっと、なれなれしかったかな?」

 ハルが気まずそうにしていると、猿渡は首を横に振った。

「そんなことない。お姉ちゃんが、呼んでくれてうれしい!」

「そっか、よかったぁ」

「でも、なんでさぁちゃんなの?」

「猿渡あきらだから、名前の上だけ取ってさぁちゃん!」

 なぜか得意気のハルに、猿渡は無言である。

 しかし、すぐ微笑みまた描き始める。

「お姉ちゃん、適当だね」

「適当なもんですか!」

「本当?」

「一応、ちゃんと考えたのよ」

 そしてまた、二人は笑いあい、絵を描き始めた。

「ハル、ここにいたのかい。探したんだよ」

「あっ、すみません……どうしたんですか?」

「すまないが、一緒に来てくれないか?」

 ハルたちが話していると、レンがやってきた。

 顔を見合わせるハルと猿渡だが、ハルはついていくことにした。

 なぜか、猿渡も後についてきて、ハルの手を握ってくる。

 まっ、いっか。と、ハルは気にしないことにした。

 レンに連れられて、ある部屋の前で立ち止まる。

「さぁ、中に入ってくれ」

「おっ、おじゃましまーす……」

 中の部屋は、奥行きがあり、天井も高かった。

 そして、部屋の真ん中に、マサたちがいた。

「へぇ、こんな部屋もあるんだね」

「なんで、ハルまで呼ぶ必要があるんだよ」

「彼女にも、知ってもらう必要があるからだよ」

「できれば、隠しておきたかったが……」

「レンさーん、この檻はなんであるんですか?」

「それは、イグのためのものだよ」

「えっ、なんでイグさんを、ここにいれる必要があるんですか!」

「それは、そろそろわかるよ」

 レンに促され、イグは檻の中に入っていく。

「イグさん!」

「お嬢、大丈夫だ。今夜だけだから」

「今夜だけ?」

さて、そろそろかな」

 レンがチラリと時計を見ると、午後六時をさしていた。

 すると、マサたちの体が光りだした。

「えっ、なにこれ!」

「お姉ちゃん、怖いよ!」

「大丈夫だよ、さぁちゃん」

 ハルは、怖がる猿渡の背中をさすって落ち着かせる。

「でも、一体なにが起こっているの?」

 じっと見つめるハルの足に、猿渡がしがみついてくる。

 やがて、ボンッと音を立てて、煙が広がった。

 ハルが目を凝らすと、そこにはいろんな動物たちがいた。

 檻の中では、鷲も静かにハルたちを見つめている。

「えっ、えぇ?!」

「なにをそんなに驚いているんだ?」

「いっ、いや、なんで動物がここにいるんですか!」

「猫のアニマのお兄ちゃんたち、動物になっちゃった」

「なっ、なるほど……イグさん、鷲のアニマだったもんね」

 ぼう然としているハルの足に、猫がすり寄ってきた。

「あら、可愛い! こっちにおいで」

「にゃー」

「グルルル……」

 ハルが猫を抱き寄せると、小さな虎も寄ってくる。

 そして、肩には白いインコがとまった。

「わぁ、ちっちゃな虎さんに、可愛いインコ!」

 喜ぶハルの服を、猿渡がぎこちなく引っ張った。

「ねぇ、お姉ちゃん。鷲のお兄さん、ちょっとさみしそう……」

「あはは……ちょっと近づくのは怖いかな」

「大丈夫だよ、ハル。イグもわかっているから」

「そうなんですか?」

「あそこに入ったのも、ハルを傷つけないためなんだよ」

 そう言われて、ハルは鷲を見つめ微笑んだ。

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