37 白い小鳥の好きと暴走(後編)
「許さない……」
ユミが呟くと、その周りに風が吹き始める。
やがてそれは強くなり、辺りは強風に包まれた。
さすがにハルも気づき、辺りを見回す。
「一体、なにが起こっているの?」
「これは、自然現象じゃない。アニマの力だ!」
男性は慌てるどころか、目を輝かせながら辺りを確認する。
そして、離れた所にいるユミを見つけた。
帽子も吹き飛んでいたため、ユミの顔が露わになる。
「いたぞ、あのアニマだ!」
「えっ、なんでユミちゃんがここに?」
「ユミ?」
焦っているハルの言葉に、男性は首を傾げた。
そして、ふと思いだしたように手を叩く。
「確かそのアニマは、大型アニマになったって噂の……」
「そんな噂が、流れているんですか?」
「特ダネだ! 写真、写真……」
男性がカメラを持ち、ユミに近づこうとする。
すると、突然カメラが真っ二つになった。
「うわぁっ!」
「ハルさんに、先ほどのことを謝りなさい……」
「なっ、なんだと?」
驚いて尻もちをついている男性を、ユミは睨みつけた。
「ハルさんが、どんな気持ちだったか、知りもしないで……」
「そんなの、知る訳ないだろ!」
「ハルさんに、謝れーっ!」
ユミの声に反応するように、風の刃が男性に襲いかかった。
「危ない!」
「ひぃーっ!」
とっさにハルが庇い、かろうじて当たりはしなかった。
「狙われているのは、あなたです。早く逃げてください!」
言われた男性は頷き、走って店から逃げだそうとする。
「あっ、待ちなさい!」
逃げる男性に、ユミはまた『かまいたち』で攻撃しようとした。
「ユミちゃん、攻撃しちゃダメ!」
ハルからおさえつけられ、ユミは驚く。
急に止められたため、放たれた風の刃は、店の壁に当たった。
「ハルさん、止めないでください!」
「ユミちゃん、落ち着いて。人間を攻撃したら、ダメなんでしょ?」
「それでも、あの男だけは許せない!」
暴れるユミの頬を、ハルは叩いた。
かわいた音が、店内に響き渡る。
「いいかげんにしなさい!」
「はっ、ハルさん?」
正気に戻ったユミは、怒ったハルの顔を見つめる。
ハルは一旦深呼吸をし、ユミを見つめた。
「あなたが誰かを傷つけたら、悲しむ人がいるのを忘れないで……」
「うっ……うわぁーんっ!」
泣きじゃくるユミを、ハルは抱きしめた。
すると、店内に吹き荒れていた風はおさまる。
しかし、二人が周りを見ると、店内はぐしゃぐしゃだった。
「お客様……」
青ざめた二人が振り向くと、笑顔の店員が立っていた。
だが、内心怒っているのは、明らかだった。
「あなたたちは、出入り禁止です!」
「「すっ、すみませんでしたーっ!」」
全力で謝罪したハルたちは、慌てて店を飛びだした。
★★★
「ハルさん、ごめんなさい……」
「えっ、なんでユミちゃんが謝るの?」
「だって、私のせいでこんなことに……」
「気にしないで。ユミちゃんに、なにもなくてよかったよ」
「ハルさん……」
さっきまで落ちこんでいたユミだったが、すぐ笑顔になり、ハルに抱きついた。
「もう、あんな男と、会ったりしないでくださいね!」
「あぁ、そのことなんだけどね……」
気まずそうなハルを見て、ユミは首を傾げる。
「あの人は記者で、電話がかかってきたのも、取材したいってことだったの」
「えっ?」
「でも、最初から断るつもりだったし、一応会った方がいいかなと思って……」
「えぇっ?!」
「だけど、ユミちゃんがいたのは驚いたなぁ」
すると、ユミは気まずそうに、ハルから離れた。
「じゃぁ、ただ私が暴走しただけってことですか?」
「うーん、そうなるかな?」
首を傾げて、ハルは苦笑いをする。
だが、言われたユミの方は、ショックを受けていた。
「あっ、だけど、私のために怒ってくれたんだよね」
慌てたハルは、優しくユミの頭を撫でた。
「ありがとう、ユミちゃん!」
「うぅ……ハルさぁーん!」
「おーい、なにしているんだ。早く帰ってこーい!」
声のする方を向くと、遠くでマサたちが手を振っていた。
それを見たハルは、ユミに笑いかける。
「ほら、皆呼んでるよ。早く帰ろう、ユミちゃん!」
ハルの言葉に、ユミは顔を上げて笑った。
「はい!」
そして、二人は手をつないで、マサたちの元に走っていった。
家に帰り、ユミがマサたちに、ファミレスであったことを話した。
案の定、マサたちは怒りだし、その男性を探すと言い始める。
それを止めるのに、ハルが苦労したのは言うまでもない。
ハルたちが大騒ぎしている頃、レンは研究所の資料室で、調べ物をしていた。
「やはり、ここでも桂木の居場所はわからないか……」
「なにか探しているんですか?」
レンが振り向くと、長い藍色の髪で、ペンダントを身につけ、白衣を着た女性が立っていた。
「君は?」
「彼女は桂木アキナ。桂木君の娘だよ」
薫も部屋に入ってきて、アキナを紹介する。
アキナは微笑み、聞いたレンは驚きを隠せずにいた。
桂木の魔の手が忍び寄っているのを、ハルたちはまだ知らない。




