27 騒動の後と、不穏な影
猿渡のところに、歩いていた薫は、なだめるように話しかけた。
「君にひどいことをしたのは、本当にすまなかった」
「思ってもいないことを言うな!」
「思っているさ。だから、君を元の人間に戻せるように努力するよ」
「うるさーいっ!」
叫んだ猿渡は、また火の玉を出し、薫に向かって放つ。
「薫、危ない!」
レンが駆けだし、薫を抱えて避けた。
それを見ていたハルは、チクリと胸が痛んだ。
なんで私、こんなモヤモヤしているんだろう……と、ハルは胸をおさえる。
「ハル、大丈夫か?」
「うっ、うん……でも、薫さんたちは大丈夫かな」
薫は、一歩ずつ猿渡に近づいていく。
「すぐには無理かもしれないけど、少しずつでいい、私たちを信じてほしい」
「ぐぅぅ……」
猿渡はうめき声をあげながら、元の姿に戻っていく。
そして、気を失うようにその場に倒れこんだ。
「あきら君!」
ハルはすぐに駆け寄り、猿渡を抱きしめた。
マサたちも、警戒しながらではあったが、猿渡の周りに集まった。
「ハルさん、また辛い思いをさせたね」
「でも、薫さんが悪いわけじゃないですから……」
「それでも、私たち研究者は、とんでもないことをした」
「薫さん、この子を元に戻せるんですか?」
「彼にも言ったが、それができるように、努力するつもりさ」
薫は切なげに、猿渡を見つめる。
「それが、私のするべきことだ」
「薫さん……」
「彼は気を失っているみたいだから、部屋に連れていこうね」
「それなら、俺が抱えていこう」
レンは、ハルから猿渡を預かり、薫とともに庭を出ていった。
ハルは二人を見送ったが、複雑な表情をする。
「ハルさん、どうされましたか?」
「うぅん、なんでもないよ」
首を横に振ったハルは、周りを見渡した。
「それより、庭も花壇もめちゃくちゃだね……」
「まぁ、あれだけの戦いがあったからな」
「これって、私たちにも責任があるのかな」
「無いとは言えないな」
「やっぱり、そうだよねぇ……」
ハルは、大きく肩を落とした。
「じゃぁ、私たちもそろそろ帰ろうか」
「あぁ……」
ハルたちは、帰り支度をするため、庭を後にした。
★★★
眼鏡の男性は、息を切らしながら走っていた。
そして、足を止めると、腹を抱えて笑いだす。
「はははっ、こんなにうまくいくとは思わなかった!」
ひとしきり笑うと、男性の姿が変わっていく。
「このカメレオンのレオ、あの方に化けてみたら、いい結果が得られましたよ」
レオは笑いながら、庭の方を見つめる。
「隠れて見ていましたが、あの検体はまだ、力が安定していないようですね」
レオは、猿渡たちの戦いを思いだしていた。
「しかし、調整次第では、強力なアニマになるでしょう……」
にやける顔をおさえながら、レオはまた歩きだす。
「早く、あの方に報告しなければ……」
そしてレオは、音もなく姿を消した。
★★★
ハルたちは家に帰るため、研究所の出口まで来ていた。
「じゃぁレンさん、お見送りはここまでで大丈夫です」
「いやぁ、君には研究所がどんな所か見てもらおうと思ったんだが……」
レンは苦笑いをして、頭をかいた。
「まさか、あんなにいろんなことが起きるなんてね」
「本当ですよねぇ……あれ、薫さんは?」
「薫なら、また研究することが増えたと言って、部屋にこもってしまったよ」
「薫さんらしいですね」
「しかし、来た時より人数も増えたな」
レンに言われて、ハルはマサたちに振り向く。
そして、優しく微笑むと、皆も微笑んだ。
すると、ハルはずっと引っかかっていたことを聞くことにした。
「あの、レンさん」
「なんだい?」
「レンさんは薫さんと、契約されているんですか?」
ハルの問いに、レンは少し驚いた顔をした。
しかし、すぐ笑みを浮かべる。
「あぁ、そうだったよ」
「えっ、そうだった?」
「あの子との戦いの前に、薫に呼び出されてね」
「あっ、私とすれ違った時ですね」
「その時、自分は契約者にふさわしくないと言って、契約を破棄にしたんだ」
レンは切なげに、研究所を見上げる。
「だから、戦いの時は、力が出せなかったんですね」
「なら、ハルさんと契約したらどうですか?」
「ゆっ、ユミちゃんなにを言って……」
「だって、レンさんとハルさん、気が合いそうですもん」
ユミは楽しそうだが、隣にいるマサはすごい形相で睨んでいた。
「マサ殿、顔が怖いでござる……」
「マサは、意外と顔に出るらしいな」
「もう、マサったら……」
「はははっ、せっかくのお誘いだが、やめておくよ」
「えーっ、どうしてですか?」
頬を膨らませるユミに、レンは苦笑して、その頭を撫でる。
「俺はまだ、薫のそばにいたいんだ」
それを聞いたハルは、胸がまたチクリと痛んだ。
「そう、ですか……」
「だが俺は、協力を惜しまないから、いつでも頼ってくれ」
「あっ、ありがとうございます……」
ハルは精いっぱいの笑顔をつくり、頭を下げた。
そして、俯いたまま、レンに背を向け歩きだす。
胸に芽生えたその感情の名を、ハルはまだ知らないでいた。




