26 暴走
「藤崎せんぱーいっ!」
その声に全員が振り向くと、研究員が手を振っていた。
その研究員は、細身で眼鏡をかけた、長身の男性だった。
「あっ、あの人はぶつかった時の……」
そう、ハルが急いでいる時にぶつかった、あの男性である。
研究員は薫に近づき、持っていた書類を渡した。
「先輩、頼まれていた資料、持ってきましたよ」
「おぉ、助かったよ。君一人かい?」
「はい。他の子たちは、別に用事があったみたいなので」
「あぁ、ありがとう」
書類を持ってきた研究員の顔は、あの桂木とそっくりな顔だった。
それに気づいたユミは、顔をこわばらせる。
だが、反応を示したのは猿渡だった。
「あっ……あぁーっ!」
「あきら君、どうしたの?」
ハルが話しかけたが、猿渡は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「嫌だ……もう、あんなことやだ……っ!」
猿渡の中で、いろんなことがフラッシュバックしていた。
それは、研究所にいた時の記憶だった。
「あきら君、大丈夫だよ。ここは、なにも怖くないから」
ハルは猿渡に近づいたが、猿渡はだんだん大きくなっていく。
体格もたくましくなり、まるでゴリラのような姿だった。
「研究者は皆、敵……もう、俺に近づくな!」
言葉遣いも変わり、猿渡は桂木に似ている男性を睨みつける。
そして、巨大な火の玉をつくり、拳で殴り飛ばしてきた。
「わわっ!」
それは間一髪当たらなかったが、壁は破壊され、大穴が開いた。
「早く、ここから避難するんだ!」
薫は男性を起こし、逃げるよう促す。
男性は頷き、すぐに逃げだした。
残されたハルたちは、猿渡を元に戻そうと試みる。
「研究者は敵……」
猿渡が呟いていると、ハルがゆっくり近づいていった。
「大丈夫よ、あきら君。もう、君にひどいことする人はいないから」
「ハル、近づいたら危ないぞ!」
マサは止めようとしたが、ハルは足を止めない。
「だから、こんなことやめて、元に戻ろう?」
「ぐうぅー……」
猿渡は唸りながら、ハルに手を伸ばしてきた。
「ハル、あんたは下がっていろ!」
マサはそう言うと駆けだし、電撃をまとった拳で殴る。
「ライジングショット!」
マサの攻撃が、猿渡に当たるが、両手でガードされる。
すると、猿渡は雄たけびをあげた。
「があぁーっ!」
そして、いくつもの火の玉を撃ちこんできた。
「皆、避けろ!」
レンの指示で、マサたちはそれぞれ散らばった。
「俺の矢で、動きを封じる!」
「ダメ、イグさん!」
弓矢を構えるイグに、ハルは慌てて止めに入った。
「なぜ止めるんだ、お嬢」
「だって、もし矢が当たって怪我したら大変ですよ?」
「しかし、このままでは……」
「私の『水の波動』なら、少しは止められるかも……」
「そうね、ユミちゃんお願い!」
ユミは頷き、意識を集中させる。
「マーメイドモード!」
だが、ユミの姿は変わらなかった。
「うそっ、変身できない?!」
「どうかしたの?」
「ハルさん、私変身できません……」
ユミは、強く手を握りしめた。
「洞窟の中では、ちゃんと技が出せたのに……」
「もしかしたら、洞窟では、力の制限がなかったのかもしれないね」
「じゃぁ今は、契約していない状態ということですか?」
「あぁ、そうなるな」
レンと薫に説明されて、ハルは強く頷いた。
「ユミちゃん、私と契約しよう!」
「えっ?」
「力を使うには、それしかないよ」
「そうだな。ユミ、お嬢ならお前を大切にしてくれるさ」
イグに言われ、ユミは笑顔でハルの手を取る。
「はい、よろしくお願いします!」
すると、ハルの指輪が光りだした。
「また光ってる……ユミちゃんが、私を選んでくれたってこと?」
「あぁ、そうなるな」
「私、絶対ハルさんの力になりますから!」
そして、ユミはハルの指輪にキスをした。
「があぁーっ!」
その際に、猿渡が巨大な火の玉を、ハルたちに向かって放ってきた。
「ハル、逃げろ!」
ハルたちを光が包みこみ、それに向かって火の玉が近づいてくる。
「水の波動!」
やがて光は消え、いくつもの水の球が放たれた。
それは火の玉に当たり、打ち消していく。
「ユミちゃん、すごい……」
現れたユミは、人魚のような姿になっていた。
「イグさん、私を上空へ。皆さんを援護します!」
「わかった!」
「があぁーっ!」
「げっ、また撃ってきやがった!」
「させません、水の波動!」
マサたちに撃たれた火の玉は、ユミの攻撃で消されていく。
すると、マサが駆けだし、打撃を食らわせた。
「ライジングショット!」
「がうぅっ!」
マサの攻撃は、猿渡に当たり、その場に膝をついた。
「あきら君!」
「ハル、それ以上近づくな!」
「危ないですよ!」
マサたちが呼びかけるが、ハルは猿渡のそばまで来ていた。
「さぁ、元に戻ろう。また、一緒に絵を描こうよ?」
ハルの言葉を聞いて、猿渡の目には、涙があふれていた。
「ダメだよ、お姉さん……」
「どうして?」
その問いに、猿渡は手を強く握りしめる。
「だって俺は、こんな姿に変えられたんだ……だから、あいつらを許せない!」
すると、猿渡は顔を上げ、ハルや薫たちを睨みつける。
そして立ち上がり、大声を上げた。
「あぁーっ!」
猿渡のおこした風に、ハルは吹き飛ばされてしまう。
「きゃぁーっ!」
「ハル!」
マサがとっさに走りだし、ハルを受けとめた。
「マサ、ありがとう……」
「まったく……無茶するんじゃねぇよ」
「でも、どうしよう……あきら君、とめなきゃなのに……」
「なら、今度は私が行くとするよ」
「えっ、薫さん?」
ハルが振り向くと、薫は猿渡のところへ歩いていった。




