24 猿渡あきら
ハルがほっとして外を見ると、庭の花壇に人影が見えた。
「あっ、私ちょっと外に出てくるね」
「えっ、ハルさん?」
「大丈夫、すぐ戻るから!」
そう言って、ハルは談話室を出ていった。
「まったく、お嬢は慌ただしいな」
「そうですね。なにか用事でしょうか」
「なにのんきなこと言っているんだ。早く追いかけるぞ!」
マサが急いで出ていったので、ユミとイグも後に続いた。
その頃、ハルは庭に来ていた。
「あれ、人影が見えたけど、いなくなっちゃった?」
「誰か探しているのかい?」
「あっ、レンさん」
ハルが周りを見回していると、レンが話しかけてきた。
「さっき、談話室から人影が見えたんですけど、見失っちゃって……」
「それなら、あの子じゃないかい?」
レンが指さした方向は、花壇の方だった。
そこには、小学生くらいの少年が座っていた。
「あっ、多分あの子です!」
「そうか……」
ハルが頷くと、レンは頭をかいた。
「彼は猿渡あきらと言って、彼もアニマなんだよ?」
「えっ?」
驚くハルだったが、ある疑問が浮かんだ。
「あれ? でも、マサたちと違って、しっぽや羽がないですよね」
ハルが首を傾げていると、レンの顔が曇る。
「当たり前だ。彼は元人間なのだから」
「うそっ……」
ハルは驚きのあまり、言葉が出なかった。
「あの子は、大型アニマが製造された研究所にいたんだ」
レンは、猿渡を切なげに見つめる。
「戦いの後、俺が研究所に行ったら、あの子が部屋の隅で泣いていたんだ」
「おいていかれたってことですか?」
「あぁ……調べてみたら、人間とアニマのハーフ、ということがわかったよ」
「あそこでは、そんな研究までされていたんですか?」
「みたいだな。だから、俺は薫に頼んで、あの子を保護してもらったんだ」
薫の名前が出て、ハルは一瞬顔を曇らせる。
しかし、レンは気にせず、話を続けた。
「だが、それ以来あの子は心を閉ざしているみたいで、なかなか口をきいてくれないんだよ」
「たぶん、相当怖い思いをしたんですね」
「俺もそう思う」
レンはあごに手を当てて、考える仕草をする。
「それにあの子は、いつもあそこの花壇で、なにかをしているらしいんだが……」
唸るレンの隣で、ハルは猿渡を見つめていた。
★★★
「おい、なんで俺たちは隠れているんだ?」
「しーっ、イグさんお静かに。話が聞こえません!」
ハルを追いかけていたマサたちだったが、今は茂みに身を潜めていた。
「普通に話しかければいいんじゃないか?」
「だって、今いい雰囲気じゃないですか」
「そうか? 俺には少し深刻な感じに見えるが……」
「離せ、イグ! 俺はレンを引き離しに行く」
「こら、マサ暴れるな!」
イグに抱えられているマサは、必死に抜け出そうとする。
しかし、イグは聞かないふりをして、腕に力をこめる。
「マサさん、もしかして嫉妬ですか?」
「そっ、そんなわけねぇよ!」
「えーっ、本当ですか?」
顔を赤くして照れるマサに、ユミはにやけながら聞いてきた。
「ユミ、あまりからかわない方が……」
「そんなところで、皆でなにをしているのでござるか?」
「ひゃぁっ!」
突然ユキに声をかけられたので、三人とも変な声が出た。
その声は思ったより大きく、ハルが振り返った。
「えっ、皆そんなところで、なにをしているの?」
「べっ、別に盗み聞きしようだなんて、思っていませんから!」
「そうだ、たまたまここにいただけなのだから!」
ユミとイグが慌てる中、マサがレンに近づいていく。
「おい、レン。ハルとなにを話していたんだ」
「どうして、君に言わなければいけないんだい?」
「俺は、ハルと契約したアニマだからだ」
「確か、イグがハルと話していた時も、こんな風に食ってかかっていたね」
「それがなんだと……」
睨むマサに、レンは近づき耳元で囁いた。
「なにを、そんなに怯えているんだい?」
その言葉を聞いて、マサは勢いよく離れる。
「マサ?」
「珍しいでござるな。マサ殿があんな風に距離をとるのは」
全員の視線がマサに集まり、マサはそっぽを向いた。
すると、ハルは苦笑して、マサに近づく。
「マサ、なにか勘違いしているみたいだけど、私はあそこにいる子が気になっただけだよ」
ハルが花壇の方を見ると、猿渡がこちらを向いていた。
「あれ、こっち見てる」
「そりゃ、これだけ騒げば気にもなるんじゃねぇか?」
「よしっ、ちょっと私、あの子に話しかけてみる!」
「だが、誰が話しかけても、口をきかないんだぞ?」
「こっちを見たってことは、少しでも関心があるってことですよね」
レンの疑問に、ハルは笑顔で答える。
「少しでも笑ってくれるように、頑張ってきます!」
そう言って、ハルは猿渡のところに走っていった。




