23 お前のせいじゃないだろう
洞窟の調査を終えて、ハルたちは一旦研究所に戻り、休むことにした。
次の日、ユミは身体検査のため、別の部屋に呼ばれる。
ハルは部屋の外から確認し、安心した顔になった。
「よかった、本当に検査だけなんですね」
「そうだよ。もう、信用してほしいな」
「すみません……大型アニマの件がありましたから」
「それはしかたないか」
薫は苦笑いを浮かべて、ハルを自分の研究室に促す。
「まぁ、彼みたいな奴は他にはいないから、安心してよ」
「そうなんですか?」
「桂木君は、研究会の中でも有名だからね」
話しながら、薫は席についた。
「なんかやらかすとは思ってたけど、まさか本当に、大型アニマを製造するなんてね」
薫は深いため息をつくと、ハルに向き直った。
「ここでは、そんなことしないから安心してね?」
「はい、ありがとうございます」
ハルはお礼を言って、部屋から出ていった。
それと入れ替わりに、レンが入ってくる。
「薫、話とはなんだい?」
「あぁ、レン。契約の話なんだけど……」
★★★
研究室を出たハルは、別の場所で待っていた、マサと合流した。
「マサ、お待たせ」
「いや、気にするな。ユミの方はどうだ?」
「大丈夫、なにも心配いらなかったよ」
「そうか」
「それより、ユキは?」
「あいつなら、またトレーニングルームに行ってるぜ」
「そうなんだ……マサは行かないの?」
「俺はもうこりごりだ……」
顔を引きつらせるマサに、ハルは笑いをこらえる。
「じゃぁ、ユミちゃんの検査が終わるまで、どこかで待っていようか」
「それなら、向こうに談話室があったぞ」
それから二人は、談話室へと向かった。
談話室に入ると、イグが本を読んでいた。
「あれ、イグさんどうしてここに?」
「リハビリが終わったから、少し休憩していたんだ」
イグは本を閉じると、ハルを見つめる。
その視線に気づき、ハルは首を傾げた。
「ちょうどよかった。お嬢に話があるんだ」
「話、ですか?」
ハルの問いに、イグは静かに頷く。
「昨日、薫という研究者に呼ばれて、指輪のことを聞かれたんだ」
そして、イグは薫との会話を、ハルたちに話した。
★★★
薫に呼ばれたイグは、持っていた指輪を差し出す。
「おや、君のは少し、崩れかけているね」
「契約を破棄されたからな」
「それだけじゃないだろう。まさか、心変わりでもしたかい?」
薫は微笑んだが、イグはそっぽを向いた。
「もしかして、ハルさんかい?」
「……だとしても、あんたには関係ないことだろう」
「あるよ。そうだ、君が彼女と契約すればいいじゃないか」
「なんだと?」
「彼女なら、きっとアニマを大切にしてくれるよ」
★★★
「薫さんが、そんなことを……」
イグの話を聞いて、ハルは少し照れてしまう。
「それより、あんたの指輪、どうなったんだよ」
「それなら、すぐに砕け散ったさ」
「そんな……」
「お嬢、心配するな。俺にはもう、必要ないからな」
「でも……」
「いいんだ。それに俺は、お嬢と一緒にいるから、問題はないだろう」
「ちょっと待って、一緒ってどういうこと!?」
ハルが戸惑っていると、イグがじっと見つめてきた。
「俺が一緒だと嫌か?」
「そっ、そんなことないです!」
すると、ハルの指輪が、イグの想いに応えるように光りだした。
「あれ、また光ってる……」
「契約しろってことか?」
「でも、契約って二人が限度じゃないの?」
「わからねぇが、指輪はイグの気持ちに、反応しているみたいだぜ」
「なら、契約成立だな」
イグはそう言うと、ハルの指輪にキスをした。
すると、指輪が光りだし、ハルとイグを包みこんだ。
光が消えると、マサが二人に近づく。
「ハル、よかったな。これでアニマは三人だ」
「本当に、複数のアニマと契約できるんだ」
「全員、指輪は持っていないけどな」
「えっ、どういう意味?」
「いや、なんでもねぇよ。それより、皆がハルを選んだってことだ」
「そう言ってもらえると、うれしいな……」
ハルが指輪を見つめていると、部屋の外から足音が聞こえてきた。
それはどんどん大きくなり、誰かが走っているのがわかった。
「ハルさん、ここにいたんですね!」
「ユミちゃん、もう終わったの?」
「はい。もう、探したんですから……」
ユミはハルに近づくと、隣にいたイグに目が留まる。
目が合うと、ユミは視線をそらしてしまう。
なぜなら、ユミは大型アニマの時に、イグと戦っていたからである。
「どうしたの、ユミちゃん」
「いえ、あの……」
ハルは、ユミとイグを交互に見て、納得した顔になる。
「あぁ……私たち、お邪魔かな。マサ、他も見に行こう!」
「えっ、でも……」
「いいから!」
ハルがマサの手を引こうとすると、ユミに手を掴まれた。
「ユミちゃん?」
「待って、ください……ハルさんたちは、ここにいてください」
そして、ユミはもう一度イグを見つめた。
今度は、まっすぐに。
「あっ、あのイグさん!」
「お前は、なにも気にすることはない」
「えっ……?」
「確かに思うところはあるが、あれはお前のせいじゃないだろう?」
「でも、私……」
ユミは胸の前で、強く手を握った。
それを見ていたイグは、ユミの頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ。そんなに気に病むな」
イグの言葉に、ユミは涙があふれそうになった。
「……ありがとうございます」
そんな二人を見て、ハルは微笑んだ。




