107 神域
次の日、ハルは鳴り響く目覚まし時計に起こされる。
そして、あくびをしながら、階段をおりていた。
リビングに入ると、アキナが電話をしていた。
ハルが近づくと、ちょうど話が終わる。
「あっ、ハルさん。おはようございます」
「おはよう。誰と話してたの?」
「薫さんです」
相手が薫とわかり、ハルは瞬きをする。
「一応、ハルさんたちが襲われたことを説明したんですが……」
『なら、君たちはそのままそばにいれくれ』
「と、言われたんです」
「すごく有り難いけど、仕事大丈夫?」
心配するハルを見て、アキナは微笑んだ。
「平気です。有休にしてくれるみたいなので」
「そっか、よかったぁ」
休みがとれると知り、ハルは胸を撫でおろす。
すると、マサたちが起きてきた。
そして、全員で朝食をとった。
しかし、ハルはあることに気づく。
「あれ、神の遣い様は?」
「まだ、寝ているんでしょうか」
「まぁ、見た目が子どもだから、しかたないんじゃないか?」
「もう、神の遣い様が聞いてたら、怒られるよ」
「マスター、そのことなんですが……」
ハルが呆れていると、サラが小さく片手を上げる。
「あの方は、少し散歩に行かれたようです」
「えっ、散歩?!」
「おい、マジかよ」
「この前、私たち酷い目にあったばかりなのに……」
「一人で外出したのか?」
「早く探しに行かなきゃ!」
青ざめたハルは、玄関に急いだ。
しかし、レンに止められる。
「落ち着いて、ハル」
「レンさん……」
「俺が探してくるから、家で待っててくれ」
「でも……」
ハルは、レンのことが心配だった。
当然である。
彼はアニマなのだ。
また、襲われるかもしれないと、ハルは思ったのだ。
すると、アキナと猿渡が近づいてきた。
「なら、私たちも行きます」
「僕たち人間だから、手伝えるかも」
「アキナちゃん、さぁちゃん……」
「……ありがとう、助かるよ」
三人は頷き、家を出ていった。
その玄関を、ハルは不安げに見つめていた。
「三人とも、気をつけて……」
★★★
外に出たレンたちは、辺りを確認する。
だが、神の遣いの姿はない。
「やっぱり、近くにはいませんね」
「なら、手分けして探すか」
「じゃぁ、僕はレンのお兄さんと……」
「いや、女性をひとりにするのは危ないからな」
そして、レンは猿渡の肩を叩く。
「君は彼女と一緒に、向こうを探してくれ」
レンは微笑み、右の道を指さす。
猿渡は、ちらっとアキナを見つめた。
アキナは、小さく頷いた。
猿渡も、小さく頷く。
「わかった。レンのお兄さんも、気をつけてね」
「ありがとう。俺は、こっちを探すから」
レンは、左の道を指さした。
「じゃぁ一時間後に、この公園で合流しよう!」
スマホのアプリを開き、レンは近くの公園を指さした。
猿渡とアキナは、それを確認した。
「わかった」
「レンさんも気をつけて」
そして、別々の方向に駆けだしていった。
アキナたちと別れたレンは、ビルの上を跳んでいた。
「神の遣いが行きそうな所……やはり菓子屋か?」
いくつかの店をまわったが、神の遣いはいなかった。
朝の早い時間のため、店は開いていない。
「やはり、別の所に……」
レンは、あるビルの上に着地する。
そして、考えを巡らせていた。
すると、背後から殴られた。
「うっ!」
苦痛に顔を歪め、その場に倒れる。
気配を感じなかった……
アニマじゃないのか?
薄れる意識の中、レンは相手の顔を見た。
「君は……」
★★★
うす暗い空間に、レンは倒れていた。
そして、ゆっくりと目を開く。
「うっ……ここは……」
「やっと起きたか」
「なっ、神の遣い?!」
起き上がったレンは、神の遣いに驚く。
発見できたのもそうだが、姿が違ったのだ。
「その姿は……」
「なにを驚いている。お主も一度見ているだろう」
神の遣いの姿は、子どもの姿ではなかった。
ハルを助けた時の、青年の姿だったのである。
「ここだと、力が制限されていないのでな」
「なぜ、君がこんな所に……」
「お主が知る必要は無い」
「まぁまぁ、そんな言い方してやるなよ」
やってきたのは、神島だった。
いつもの笑顔のまま、レンに近づく。
「ごめんねぇ、頭大丈夫だった?」
「俺を殴ったのは、君だな」
「ご名答ーっ!」
睨みつけるレンに、神島は拍手をした。
「でも、安心して。ちゃんと治しておいたから」
すると、神島は首を傾げた。
「この体だと、力加減が難しくてねぇ」
「君は、なにを言っているんだ」
訝しむレンに微笑み、神島は歩きだす。
「ここは、僕の神域だよ」
「神域?」
「そう、だから君は、好き勝手できないよ」
神島は、指をパチンと鳴らした。
すると、レンの体が硬直する。
「くっ、体が……」
「君を連れてきたのは、ある役目を果たしてもらいたいからだ」
「役目、だと?」
レンには、意味がわからなかった。
だが、神島はレンの額に指をあてる。
すると、レンの目がうつろになった。
「君の契約者を、ここに連れてきなさい」
レンは、ゆっくり頷いた。
その瞬間、レンの背後に裂け目ができる。
「さぁ、いってらっしゃい」
そして、レンはその裂け目から、外に飛びだした。
神島は、微笑を浮かべ、神の遣いを見つめる。
「君も、ついていったらよかったのに」
「そんな気遣いは、無用です」
「素直じゃないなぁ」
そっぽを向く神の遣いに、神島は呆れていた。




