106 それぞれの優しさ
マサとレンは、サラの部屋に来ていた。
すると、サラがじっと二人を見つめる。
「おっ、おい、サラ?」
「確認したところ、打ち身や打撲が多いですね」
「なっ、なぜそれを?!」
「あなたたちをスキャンしたので、丸見えですよ」
サラの発言に、二人はとっさに体を隠した。
アンドロイドとはいえ、サラは女性なのだ。
マサとレンは、少し恥ずかしくなった。
しかし、サラは涼しい顔のままである。
「この具合ですと、けっこうな量の石が飛んできたのでは?」
「むぅ……防げてなかったか」
「一応、見えない部分なので、よかったかもしれませんね」
「俺たちアニマは丈夫だから、平気だ」
「それでも、マスターは心を痛めると思います」
「……そうだな」
サラの手当てを受けつつ、レンは小さく呟いた。
「彼女は、とても優しいから……」
★★★
和室では、ハルと神の遣いが向かい合っていた。
「神の遣い様、こちらにどうぞ」
「うむ、失礼する」
ハルに促され、神の遣いは座布団に座る。
それを確認して、ハルも前に座った。
そして深呼吸をし、ゆっくり目を開ける。
「かほさんの所で話してたこと、覚えています?」
「あぁ、どちらの世界を選ぶか、だろう?」
「はい……」
ハルは頷き、膝の上で手を握る。
「私、決めました!」
「もう、答えは出たのか?」
神の遣いの問いに、ハルは強く頷いた。
「私、この世界で生きていこうと思います」
「なぜ、そう思った?」
「皆のこと大事だし、守りたいからです」
「ふむ……」
ハルの答えに、神の遣いは難しい顔になる。
そして、ハルを見つめる。
「しかし、こちらを選べば、向こうでのお主が存在していた事実はなくなる」
「えっ……」
「お主は、それでいいのか?」
驚愕の事実に、ハルは言葉を失う。
存在していたことが、なくなる。
それは、初めからいなかったのと同じである。
突きつけられた事実に、ハルの目に涙が浮かぶ。
「まぁ、大いに悩め。それは人の権利なのだから」
神の遣いは、優しくハルの頭を叩いた。
すると、襖がゆっくり開いた。
ハルが振り向くと、心配しているユミと目が合った。
「あれ、ユミちゃん?」
「ハルさん、せっかくだから皆さんで、写真撮りませんか?」
「写真?」
「あの島では、いい写真撮れなかったですし、記念ですから」
「記念って、なんの?」
「ハルさんが、ここにいてくれる記念です!」
「もしかして、聞いてたの?」
「はい……」
さっきまでの笑顔とは違い、ユミの表情が曇る。
「ハルさんたちの話が、気になってしまって……」
「そっか……」
すると、ユミがハルの手を握りしめた。
そして、自分の胸に近づける。
「写真なら、思い出になりますよね?」
「ありがとう、ユミちゃん」
ハルは、ユミの気遣いがうれしかった。
神の遣いも、二人を見つめ微笑む。
ハルたちがリビングに戻ると、マサたちも戻っていた。
「皆さーん、今から写真撮りますよーっ!」
「えっ、今から?」
「急でござるな」
「では、私が撮りましょう」
「あっ、サラさんも入らなきゃダメだよ」
「ですが……」
「スマホなら、テーブルに置いたらいいだろ」
「じゃぁ、みんな集まって!」
テーブルにスマホを置き、ハルたちは二列に並んだ。
「ほら、神の遣い様も!」
「我は別に……」
「いいですから!」
ハルに引っ張られ、神の遣いはハルの膝へ。
その瞬間、シャッター音が響いた。
「けっこううまく撮れたね」
「じゃぁハル、今度は俺と撮らないか?」
「れっ、レンさんなにを?!」
突然のレンの誘いに、ハルは赤面した。
それを、ユミは見逃さなかった。
「あっ、レンさん抜けがけはダメですよ!」
「俺が先だ!」
「僕も、お姉ちゃんと撮りたいな……」
マサとユミは、レンとハルを引きはがしに来た。
すると、猿渡がさりげなく、ハルの手を握る。
その行為に、ハルの鼓動が脈打った。
なんとか隠すように、マサたちに呼びかける。
「わっ、わかったから順番に!」
そんなやり取りに、イグとアキナは呆れていた。
「お嬢も大変だな」
「本当ですね」
その場の雰囲気は、とても和やかなものだった。
だが、神の遣いは無表情で彼女たちを見つめていた。
「娘よ、今だけは思いっきり楽しんでおくといい」
そして、小さく呟いた。
「もうすぐ、お主は苦境に直面することになるのだから……」
★★★
その日の夜、こっそり抜け出そうとしている者がいた。
その人物は、静かに庭に向かう。
すると、ライトで照らされた。
「やはり、あなたでしたか」
「まさか、お主に見つかるとはな」
ライトを照らしたのは、サラだった。
そして、その先にいたのは、神の遣いである。
神の遣いは、小さく息を吐く。
「寝ていなかったのか?」
「あなたの様子がおかしかったので、観察していました」
「ふむ……隠していたつもりだったがなぁ」
「あれでですか」
わざとらしく、神の遣いは考える振りをする。
その様子に、サラは呆れ顔になった。
「こんな遅くに、お出かけですか?」
「そうだな……」
すると、神の遣いは空を見上げる。
その日は、満月だった。
「少し、月見をしたいと思ったのだ」
「それでしたら、マスターたちとなされては?」
「それだと、騒がしくて落ち着かん」
「そうですね」
ハルたちのことを思いだし、神の遣いは嫌な顔をする。
サラも理解し、頷いた。
やがて、神の遣いは跳び、庭に着地する。
「……娘たちには、うまくごまかしてくれ」
「かしこまりました」
サラは、深々とお辞儀をする。
満月の夜、神の遣いは家を出ていった。




