105 静かな怒り
「それにしても、さっきの奴らはひどいね」
「えっ?」
「君たちはただ歩いていただけなのに」
「そうですよ、なのに石を投げてくるなんて!」
「そう、ただアニマというだけなのに、ね」
「神島さん?」
「あいつらは、アニマが自分たちを攻撃できないのをいいことに、好き勝手している」
神島の声は、先ほどとは違った。
とても低く、地の底から響いているようだった。
「アニマを本気にさせたらどうなるか、思い知るべきだ」
神島の静かな怒りに、ハルたちはなにも言えずにいた。
「……確かに、先にひどいことをしたのは人間です」
ハルは震えながらも、なんとか声をしぼりだす。
「でも、争うのは違うと思います」
「君の考えは理解してるよ」
神島はハルを見つめ、微笑を浮かべる。
だが、その目は笑っていない。
「でもね、そんなのはきれいごとだよ」
「きれいごと……」
自分の意見を否定され、ハルは言葉に詰まってしまう。
すると、神島は無邪気な笑顔になる。
「どうやら、外の気配はなくなったみたいだね」
「じゃぁ、外に……」
「いや、出ていってまた襲われたら困るだろ?」
「そっ、そうですけど……」
「ついてきて」
神島は、小さく手招きをした。
ハルたちは警戒しつつ、神島についていく。
やがて、民家の裏庭に出た。
「この雑木林を通って、帰るといい」
「あの、いろいろとありがとうございました!」
「ふふっ、たぶんまた会えると思うよ」
「どういうことですか?」
意味深な神島の発言に、ハルは首を傾げる。
「その答えは、すぐわかるさ」
「ハルーっ、早く来いよ!」
「ほら、仲間も呼んでいるみたいだ」
指さされた方を向くと、マサが大きく手を振っていた。
ハルは、慌てて頭を下げる。
そして、小走りでマサたちを追いかけた。
ハルたちを見送った神島は、ゆっくり口角を上げた。
「本当、また会うのが楽しみだな……」
★★★
「ここ、ずっと一本道だね」
「迷う心配はねぇが、どこに続いてるんだ?」
「おや、この気配は……」
ハルたちが雑木林を抜けると、見覚えのある景色になった。
「あれ、ここ家の近くだ」
見覚えのある風景に、ハルは安堵した。
すると、ハルを呼ぶ声が聞こえた。
「ハルさーん、お帰りなさい!」
「お姉ちゃーん!」
ハルが振り向くと、家の前でユミと猿渡が待っていた。
「ユミちゃん、さぁちゃんただいま!」
仲間たちを見つけ、ハルは胸を撫でおろす。
そして、二人に駆け寄った。
「ごめんね、遅くなって。どれくらいかかったのかな」
ハルの中では、長時間の散歩になったと思っていた。
しかし、二人ともきょとんとした顔になる。
「出ていかれて、まだ三十分もたってないですよ?」
「えっ、そうなの?!」
「てっきり、一時間はかかったと思ったんだが……」
なぜか、ハルたちが思っていたより、時間はたっていなかった。
そのことに、三人は顔を見合わせる。
すると、サラが家から出てきた。
「とりあえず、朝食にしましょう。話はそれからです」
★★★
「えぇっ、散歩してたら、いきなり石を投げられた?!」
「うっ、うん……」
食事をしながら、ハルは今までの経緯を話していた。
その内容に、仲間たちは驚愕した。
「お嬢たちは、ただ歩いてただけだろ?」
「はい。でも……」
頷いたハルは、はしを止める。
「アニマは、この国から出ていけって言われました」
「そんなの、ひどいです!」
「マサとレンさんが守ってくれたから、私は大丈夫だったんだけど……」
そして、ハルは隣のマサを見つめる。
マサは、焼き魚に苦戦していた。
それに、ハルは苦笑する。
「代わりに、マサが怪我しちゃって……」
「だが、見た感じどこも怪我していないぞ?」
「それは、神島って人に治してもらったの」
「神島だと?」
その名前に反応したのは、神の遣いだった。
「娘、その神島という奴は、どんな姿なのだ?」
「えっ、確か紺色の髪に、きれいな緑色の目をしていました」
「そうか……」
ハルの説明に、神の遣いは目線をそらす。
それを、サラは無表情で見つめていた。
二人の様子に、ハルは首を傾げる。
すると、レンが咳払いをした。
「彼が、普通の人間じゃないことは確かだ」
レンが考えを巡らせていると、サラに肩を叩かれる。
そして、マサも指さした。
「では、アニマのお二方」
「なんだよ」
「食事を終えたら、私の部屋に来てください」
「なぜだ?」
首を傾げるレンの耳に、サラはそっと囁いた。
「申し上げてもよいのですが、マスターに聞かれたくないのでは?」
「……わかった」
レンは頷き、マサに視線を送る。
マサもそれに気づき、小さく頷いた。
「では、後ほど」
やがて朝食が終わり、マサたちは席を立つ。
マサたちを目で追ったハルは、少し考えた。
そして、神の遣いに声をかける。
「神の遣い様、ちょっといいですか?」
「なんだ、娘よ」
「お話ししたいことがあるので、和室の方に……」
「うむ、わかった」
神の遣いは、ハルの真剣な眼差しに一瞬驚いた。
しかし、口角を上げ了承したのだった。




