104 散歩をしていただけなのに……
冷や汗を流したマサは、機械のように振り向いた。
そこには、冷ややかな目のハルが立っていた。
そして、ゆっくりと笑顔を作った。
しかし、その目は笑っていなかった。
「マサの気持ちは、よーくわかったよ」
「ハル、違うんだ!」
「違うって、なにが?」
「こっ、これは言葉のアヤで……」
「言い訳はけっこう!」
ハルは、勢いよくマサを指さす。
「マサは、私よりあかりさんなんでしょ!」
「なんでここで、あかりの名前が出るんだよ!」
「ふんっ」
それから皆が、仲直りさせるのに苦労したのは、言うまでもないだろう。
なぜなら、二人ともすごい意地っ張りなのだ。
ケンカは、夜遅くまで続いたのだった。
次の日、ハルは早起きをした。
あくびをしながら、階段をおりていく。
リビングに着くと、アキナがテーブルを拭いていた。
「あっ、おはようございます、ハルさん」
「おっ、おはよう……早起きだね」
「昨日はごちそうになったので、お手伝いしようと思って」
「ありがとう!」
「では、マスター」
ハルも手伝おうとすると、サラに肩を叩かれる。
「まずは、着替えなどを済ませては?」
サラに言われ、ハルは自分を見てはっとする。
そして、そそくさと洗面所に向かった。
すると、サラが外を指さした。
「それと、本日は天気もいいので、散歩はいかがでしょう」
「えっ、でも……」
「そうですよ、家のことは任せてください」
「じゃぁ、ちょっと行ってこようかな」
着替えなどを済ませたハルは、玄関に向かっていた。
「散歩なら、俺も付き合うぜ」
「俺も行こう」
「ありがとう、二人とも」
ハルが靴を履いていると、マサとレンがやってくる。
「じゃぁ、朝ご飯までには戻るから」
「はい、いってらっしゃいませ」
そして、三人で家を出ていった。
その光景に、アキナは呆れていた。
「昨日、あれだけ言い合っていたのに、もう忘れたんですね」
★★★
「うーんっ、涼しくて気持ちいい!」
残暑のためか、朝は涼しかった。
心地いい風が吹き、ハルは伸びをした。
「やっぱりこの時間だと、静かでいいねぇ」
だが、その静寂は突然終わった。
なにかが、ハルたち目がけて飛んできたのだ。
レンがキャッチすると、それは小石だった。
「えっ、石?!」
ハルが驚いていると、怒号が聞こえた。
「あんたら、アニマだろ!」
「この国から出ていけーっ!」
声の方に目をやると、数人が立っていた。
彼らは、年齢も性別もバラバラで、お年寄りや子どももいた。
しかし、共通していることがあった。
全員、いくつもの小石を握っていたのだ。
そして、一斉に投げ始めた。
「やっ、やめてください!」
「アニマは、人間の敵だ!」
「あんたもそいつらを庇うんなら、同罪だ!」
「なんで、そんなことを言うんですか!」
「うるさい!」
ある男性の投げた小石が、ハルめがけて飛んでくる。
すかさず、マサがハルを庇った。
だが、額の右側に当たってしまう。
「くっ!」
「マサ!」
慌てたハルは、マサを隠そうとする。
すると、腕を引かれた。
「君たち、こっちへ!」
「えっ、誰?」
「いいから、早く!」
突然現れた青年に、ハルたちは戸惑う。
しかし、飛んでくる石を避けつつ逃げた。
「あっ、逃げたぞ!」
「追えーっ!」
★★★
ハルたちは、ある民家に逃げこんでいた。
「だっ、大丈夫かな……」
「心配することはないよ」
ハルたちを助けた青年は、窓を指さす。
そして、ハルに微笑んだ。
「ほら、見てごらん」
青年に言われ、ハルは恐る恐る窓を覗いた。
外には、先ほどの連中がうろついている。
すると、ひとりと目が合った。
「ひぃっ」
しかし、近づくことなく、別の方へと走っていった。
「あれ?」
「だから言っただろう。ここは安全なんだよ」
「あっ、ありがとうございます、助かりました!」
「気にすることはないさ」
青年は、にこやかに笑った。
ハルは、青年から不思議なオーラを感じていた。
とても不思議な人……と、ハルは思った。
すると、青年はマサに近づいていく。
「さぁ、君のアニマの怪我を診ようか」
「そうだ、マサ、額の怪我!」
「こんなの、大したことねぇよ」
「ダメ、ちゃんと見せて!」
ハルは、マサの顔に手を添える。
そして、自身の顔を近づける。
それにより、マサは赤面した。
「ちょっと、顔赤いよ、具合悪いの?!」
「ハル、彼も男だからそれくらいに……」
「ふふっ、君たちは面白いね」
青年は笑うと、マサに近づいた。
「ちょっと見せてごらん」
青年が手をかざすと、みるみる傷が治っていった。
それにハルとレンは驚く。
「すごい、傷が治っていく!」
「君は、普通の人間じゃないね」
「ふふっ、僕は神島。君たちのことは知っているよ」
神島という青年は、紺色のショートカットで、ヒスイ色の瞳をしていた。
そして、いたずらっぽく笑った。
「君たちは、いろいろ有名だからね」
「いっ、一体どんな噂が流れているの……」
『有名』と言われ、ハルの背中を嫌な汗が流れていく。
そんなことは気にせず、神島は窓の外を見つめる。
その目は、とても冷ややかなものだった。




