103 団らん
ハルとかほの心が少し通い合った時、サラの声が聞こえた。
『マスター、お話し中のところ失礼します』
「あっ、ごめんサラさん」
『一度、こちらに戻っていただけないでしょうか』
「わかりました」
ハルは頷き、電話を切った。
そして、かほに振り向く。
「あの、そういうことなので、私たち帰ります」
「そうね」
かほも頷き、ゆっくり席を立った。
「なら、帰りも送らせるわ」
「えっ、でも……」
「今の状況だと、人間だってなにをするかわかりませんから」
「確かに、そうですよね……」
先ほどの討論会を思いだし、ハルの顔がこわばる。
すると、かほに肩を叩かれる。
「車なら、少しは安心なのではなくて?」
「ありがとうございます、かほさん」
「では、お三方ーっ、そろそろ終わりですわよ!」
かほの呼びかけに、鍛練していたレンたちは振り返る。
「おや、もうそんな時間なのかい?」
「でも、なんとなくコツがつかめてきたんだぞ!」
「あとはひたすら鍛練だな」
「うん、頑張るんだぞ!」
ニアのやる気に、マサとレンは微笑んだ。
それから車が到着し、ハルはドアに手をかける。
すると、かほに声をかけられた。
「今日はありがとう。お互い気をつけましょうね」
「はいっ、かほさんたちも気をつけて!」
「かほ様、行って参ります」
ハルたちを乗せ、車はかほの家を出発した。
車の中で、ハルは静かに考えていた。
アニマと、人間の関係の悪化。
お互いの溝は深まるばかり。
それに、なぜ今になって、マイたちは姿を見せたのか。
また、人間への復讐か。
考えても考えても、ハルの中で答えが出ることはなかった。
先の見えない現状に、ハルはため息をつく。
「なんで、みんな仲良くできないんだろう……」
「そうできれば、苦労はしない」
「神の遣い様……」
「皆が、お主らのようにはなれんのだよ」
「……そうですね」
素っ気ない神の遣いの態度に、ハルは目線をそらす。
窓の外を見ると、きれいな夕やけだった。
だが、ハルの心は憂鬱なままであった。
やがて、車はハルの家の前にとまる。
「皆様、着きましたよ」
運転手がドアを開け、ハルたちは急いで降りた。
「あの、ありがとうございました!」
「いえ、仕事ですのでお気になさらず」
「そっ、そうですか」
「では、失礼します」
運転手は会釈をすると、さっさと車を発進させた。
車を見送り、ハルは顔認証で鍵を開ける。
「ごめーん、帰ったよーっ!」
「お帰りなさい、マスター」
ハルが家に入ると、玄関に違和感を覚えた。
なぜなら、見覚えのない靴が二足あったからだ。
首を傾げたハルは、サラに尋ねる。
「お客さん来てるんですか?」
「マスターのよく知る方ですよ」
サラに促され、ハルはリビングに入った。
「お姉ちゃん、お帰り!」
「お邪魔してます」
「アキナちゃん、それにさぁちゃんも!」
突然の来訪に、ハルは驚きと喜びの混じった表情になる。
そして、二人に近づいた。
「二人とも、どうしたの?」
「薫さんがこの前のお礼だって、これを……」
アキナは立ち上がると、持ってきた手提げ袋を渡した。
「えっ、わざわざ持ってきてくれたの?」
「えぇ、けっこう無理なお願いでしたから」
「ちなみに、僕は付き添いだよ」
「そっか、さぁちゃん偉いね」
ハルに褒められ、猿渡は照れ笑いをした。
すると、神の遣いが手提げ袋を奪い取っていく。
「娘よ、これは我がもらう!」
「あっ、ダメですよ神の遣い様!」
ワガママな神の遣いを、ハルは慌てて追いかけた。
それを見て、猿渡は呆れてため息をつく。
「あの人、やっぱり中身は子どもだね」
「いや、そう見せているだけなのかもな」
「えっ、そうなの?」
自由奔放な神の遣いを見つめ、イグは小さく呟いた。
耳のいい猿渡は、きょとんとして首を傾げる。
やっと神の遣いを捕まえたハルは、アキナたちに振り向く。
「そうだ、今日はもう遅いし、二人とも泊まっていきなよ!」
「えっ、ですが……」
「確か、食材まだあったと思うんだけど……」
ハルは、冷蔵庫に手を伸ばした。
すると、サラに呼び止められる。
「安心してください、マスター」
ハルが振り向くと、サラは決めポーズをしていた。
「こんなこともあろうかと、補充は完了しています」
「ナイス、サラさん!」
親指を立て、ハルは満面の笑みを浮かべる。
そして、サラと仲良くハイタッチした。
★★★
その日の夕食は、とても賑やかなものだった。
仲間たちとのおしゃべりを、ハルは楽しんだ。
少しの間だけだが、あの討論会を忘れることができた。
やがて夕食も終わり、女子はお風呂場へ。
マサたちは気を紛らわすため、ゲームをしていた。
だが、集中できていない者が二人。
マサとイグである。
「おや、またマサ殿の負けでござるか」
「猫のアニマよ、気を抜きすぎではないか?」
「ゲームでも、真剣勝負なのにな」
「イグ、君もだぞ」
「うっ……」
レンに指摘され、イグは言葉に詰まった。
すると、マサが机を叩く。
「くそーっ、モヤモヤする!」
「ハルたちなら、もうあがってくるだろ」
「なんだ、お主は一緒に入りたかったのか?」
「ちっ、違う!」
「その割には、目が泳いでいますぞ?」
「違うって言ってるだろ!」
すると、猿渡の顔が引きつる。
「あっ、この足音は……」
「あの、それ以上の発言は……」
サラは、マサの肩に手を置く。
「誰がハルなんかと……」
「ふーん」
だが、時すでに遅し。
ちょうど、ハルたちがあがってきたのだ。
ハルの低音に、その場の空気は一瞬で凍りついてしまった。




