102 討論会
「そう……私と別れた後、そんなことがありましたの」
「ちょっとニュースにはなったと思うんですけど……」
「あまり気にしていませんでしたわ」
かほは紅茶を飲むと、マサたちに視線を向ける。
「まさか、あなたたちが関わっているなんて、思いませんもの」
「そっ、そうですよねぇ」
ハルも苦笑して、カップに手を伸ばした。
すると、ずっとお菓子に夢中だった神の遣いに、声をかけられる。
「ところで、娘よ」
「あら、なんですの?」
ハルとかほは、同時に振り向いた。
当然である。
二人とも、『娘』なのだから。
神の遣いは咳払いをし、ハルを指さした。
「お主ではなく、こっちだ」
「ややこしいですわね」
かほは眉をひそめ、自分とハルを交互に指さした。
「女の子が二人いるんですから、名前で呼ばれたらいかが?」
「ふむ……」
かほに指摘され、神の遣いはしばし考えこんだ。
やがて納得したのか、二度頷く。
そして、ハルを見つめた。
「では、『選ばれし娘』とでも呼ぶか」
「意地でも、名前で呼ばないんですのね」
神の遣いの頑固さに、かほは呆れた。
それを無視して、神の遣いは咳払いをする。
「改めて、選ばれし娘よ」
「はっ、はい」
「これまでお主は、アニマ同士の戦いや、様々な経験をしてきたと思うが……」
「経験……」
その時、ハルはこれまでのことを思いだす。
マサたち、アニマとの出会い。
桂木博士との戦い。
そして、アンドロイドとアニマの戦いを。
しかし、次の神の遣いの言葉に、ハルの思考は停止する。
「今のお主は、元の世界とこの世界、どちらを選ぶのだ?」
「えっ、私は……」
「ちょっとお待ちになって」
「どうした、勝ち気な娘よ」
「その呼び方、引っかかりますわね」
神の遣いの発言に、かほは眉をひそめた。
だが、それよりも気になることがあった。
ハルのことである。
「今の話ですと、この方はこの世界の人ではないんですの?」
「あぁ、こことは違う世界からやってきている」
「そうでしたの……」
「あの、驚かないんですか?」
「だって、ここに神の遣いがいるのですから、それに比べたら……」
「ふふっ、そうですね」
はっきり言うかほを見つめ、ハルは微笑んだ。
そして、小さく頷き、神の遣いを見つめる。
「神の遣い様、その答えはすぐじゃなきゃダメですか?」
「いや、急かすつもりはないが」
「なら、もう少しだけ待ってください」
「ほぉ……」
「必ず、答えを出しますから」
「うむ、楽しみにしているぞ」
神の遣いは、いたずらっぽく笑った。
すると、ハルのスマホが鳴りだす。
画面に表示されていたのは、サラの名前だった。
「あれ、サラさんからだ」
首を傾げたハルだったが、とりあえず出てみた。
「もしもし、どうしたんですか?」
『マスター、今テレビを視聴することは可能でしょうか』
「えっと、ちょっと待って」
ハルはかほに振り向き、要件を伝えた。
「でしたら、小型ですがここに」
頷いたかほは、軽くテーブルを叩いた。
すると、機械音とともに小型のテレビが出てくる。
進歩している光景に、ハルは驚いていた。
「うわっ、ハイテク!」
「あら、そこまで驚かなくても」
首を傾げるかほに、ハルは苦笑する。
しかし、サラの呼びかけで、慌てて応答した。
「サラさん、準備出来ました」
『では、今から言うチャンネルに、合わせてください』
サラの指示を伝え、かほがチャンネルを操作した。
そして、ある番組のところで、サラに止められる。
その番組は、数人の男女が、いろんな話題で討論するものだった。
今回の話題は、『人間とアニマの共存』である。
すると、五十代くらいの男性が、声を荒げた。
『アニマを、この国から追いだすべきだ!』
『ですが、アニマとの共存は、政府が決めたことなんですよ?』
『それがどうした』
若い女性を、男性は睨みつける。
そして、全員に呼びかけた。
『君らは、今年のことをもう忘れたのか!』
『確かに、アニマからの被害届は、けっこう出されているみたいだねぇ』
『そうだ、ルールを守れないなら、彼らは必要ない!』
男性の発言に、観客席から同意の声が聞こえだす。
その光景を、ハルは異様だと感じた。
それと同時に、恐怖も抱いた。
「ひどい、先になにかしたのは人間の方なのに!」
ハルは、桂木博士とのことを思いだす。
そして、ユミの一件や、マイとのことも。
「それで、傷ついた子も多いのに……」
「桂木博士の件は、あまり公にならなかったようだな」
俯くハルを見つめ、神の遣いは腕を組んだ。
「それよりも、最近あったアニマの暴走の方が、印象に残ったらしい」
「そんな……」
「でしたら、また襲われるかもしれませんの?!」
「恐らくな」
頷く神の遣いに、ハルとかほは顔を見合わせる。
すると、神の遣いはテレビを指さした。
「しかも、今度は人間からの仕打ちも考えなければな」
「なんてこと……」
「だが、悲嘆することはないぞ」
振り向いたかほは、強気な神の遣いと目が合った。
「そんなことにならないために、お主はあの者を鍛えようと思ったのだろう?」
神の遣いが指さした方には、ニアたちがいた。
その意図がわかり、かほも微笑む。
「えぇ、攻撃はできなくても、せめて護身術になればいいと思いまして」
「ニア君のこと、大切なんですね」
「当たり前ですわ!」
かほは照れを隠すように、そっぽを向く。
子どもっぽいかほを見つめ、ハルはそっと微笑んだ。




