101 ニアの特訓
「なるほど……」
車内で、ハルはかほに話をしていた。
それは、神の遣いについてである。
その話を聞いて、かほは小さく頷いた。
「えっと、そういうわけでして……」
「つまり、その方はアニマの魂を守られている方ですのね」
「それにしては、見た目が子どもなんだぞ」
「お主に言われたくないわ!」
ニアのこぼした発言に、神の遣いはご立腹である。
「神の遣い様、落ち着いてください」
子どものように怒る神の遣いに、ハルはため息をついた。
すると、かほが車内にあったお菓子を取り出す。
「まぁ、そう怒らずに。お菓子でもいかが?」
「おぉっ、気が利くではないか!」
さっきまでの怒りは、どこへやら。
神の遣いは、お菓子を食べ、ご満悦である。
「やっぱり、子どもなんだぞ……」
それを見ていたニアは、呆れた顔をしていた。
しばらく走って、車は目的地に到着する。
「お嬢様、到着しました」
「ありがとう。さぁ、皆さん行きましょうか」
ハルたちが車を降りると、広いドッグランがあった。
「うわぁっ、本当に広いんですね!」
「当たり前ですわ!」
胸を張り、かほは得意気だった。
そして、レンに振り向く。
「さぁ、思う存分使ってくださいな!」
「では、始めるとするか」
「おっ、お願いしますなんだぞ!」
ハルたちから少し離れ、レンとニアは向かい合う。
だが、ニアは緊張で顔がこわばっていた。
それがわかり、レンは苦笑する。
「ニア、もう少し楽にしていいんだよ?」
「だっ、だけど……」
「じゃぁ最初は、気持ちを落ち着かせるところから始めようか」
レンの提案に、ニアは首を傾げた。
「いいかい、まずはゆっくり深呼吸だ」
レンは両手を合わせ、静かに呼吸をしていく。
それに合わせ、ニアも深呼吸を始めた。
数回繰り返し、ニアはゆっくり目を開ける。
すると、微笑んでいるレンと目が合った。
「どうだい、だんだん落ち着いてきただろ?」
「はいっ、なんだぞ!」
「なら、次は俺と手合わせをしようか」
「えっ……うわぁっ!」
『手合わせ』という言葉に、ニアは身構える。
だが、レンの方が速かった。
反応が遅れたニアは、尻もちをついてしまう。
「いっ、痛いんだぞ……」
「そんな弱腰では、ずっと不利なままになるが」
「急にきたから、びっくりしたんだぞ!」
「戦いは、いつも君のペースではないんだ」
「うぅ……」
正論をつきつけられ、ニアはなにも言えずにいた。
俯くニアに、レンはため息をつく。
「しかたない、『彼』に手伝ってもらうか」
レンの言っていることがわからず、ニアはもう一度首を傾げた。
★★★
その頃、ハルはかほと、お茶をしていた。
しかし、飲む気にはなれないでいた。
その様子に、かほは首を傾げる。
「あなた、紅茶お嫌いかしら?」
「いえ……なんでドッグランに、こんな飲食スペースがあるんですか?」
「しかも、日傘までついているしな」
「あら、日焼けはお肌に悪いんですのよ?」
「かほ、あいかわらずだな」
「お褒めの言葉として、受け取っておきますわ」
「ははは……」
ハルは、苦笑するしかなかった。
今のかほからは、危機感がまったくと言っていいほど感じられないのだ。
マサもハルと同じ気持ちなのか、呆れていた。
すると、レンの声が聞こえた。
「おーい、マサ!」
「あれ、レンさんたち、もう終わったのかな?」
ハルは席を立とうとしたが、レンの次の言葉に動揺する。
「ちょっと俺と、手合わせをしてくれないか!」
「レンさん、なに言って……」
「あぁ、いいぜ!」
「マサ?!」
予想外のマサの承諾に、ハルは焦った。
ハルの脳裏に、二人の戦いがよみがえる。
それがわかり、マサはハルの肩に手を置く。
「ハル、大丈夫だ。この前みたいにはならないから」
「でも……」
不安がるハルの所に、レンも近づいてくる。
そして、優しく微笑んだ。
「安心してくれ、ハル。君との約束は、必ず守るよ」
「……わかりました」
頷いたハルは、二人と目を合わさず席に戻った。
ハルたちの言動に、かほは首を傾げた。
「あなた、お二人となにかありましたの?」
「えっと……あれから、いろいろありまして……」
「あら、気になりますわね」
興味津々のかほに、ハルは苦笑するしかなかった。
★★★
「ニア、君が戦ったのも、猫のアニマだったね」
「そっ、そうだぞ」
「なら、俺の方をよく見ておくんだよ?」
レンは、自分を指さした。
ニアの頷きを確認し、マサの方を向く。
「いいぞ、マサ。いつでもかかってこい」
「ふんっ、あとで文句言うなよ!」
すると、マサは素早くレンに接近する。
そして、拳や足技を繰り出していく。
だが、レンは落ち着いた様子で、すべて受け流していた。
「すっ、すごい、全部防いでいるんだぞ!」
ニアは、感動していた。
やがて、二人は距離をとった。
「まぁ、受け方はこんな具合かな」
「なっ、なるほどなんだぞ……」
「だが、攻撃に関しては、少し研究が必要かな」
「ニアは小さいから、間合いがとれればいいんじゃねぇの?」
「ふむ……それなら、素早く動けるように特訓しよう」
「うん、やってみるんだぞ!」
「じゃぁ、あとは頑張れよ」
「あっ、ちょっと待つんだぞ!」
「ぎゃぁっ!」
ニアにしっぽを掴まれ、マサは声が裏返った。
そして、ニアを睨みつける。
「おい、いきなりなにしやがる!」
「マサにも、もう少しだけ手伝ってもらいたいんだぞ」
「……しかたねぇな」
ニアのやる気に、マサは渋々承諾したのだった。




