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30 半年

 真っ暗な中を、手を引かれて走っている。

 私の手を引く誰かは私をつかむ腕を強く握っていて痛い。

 何か私に対して言葉を発しているけれど、なんて言ってるのかわからない。

 ただ、その声色は私を気遣うような、優しい声色が含まれていた。

 グイッと引き寄せられて、抱き上げられたと思えば、次の瞬間には浮遊感。叫ぼうにも、怖くて叫ぶことはできない。

 着地し、しばらくそのまま走って、その人は私に対して何か声を発した。

 がっしりとその人をつかんでいたけれど、立ち止まったので力を緩める。

 いつの間にかもう一人。ローブをかぶった華奢な人で、手はすらりとしていて女性のようだ。

 二人で何かを話しているが、私にはなんて言ってるのかわからない。

 私を抱っこしている人はきっと、男性だ。声色やがっしりした体、それに胸がふかふかしてなかったのでそうだとおもう。

 私は男性から、女性に預けられた。二、三言告げた後どこかに走っていった。

 女性は、私にわかる言葉で『祝福あれ』と言った。





 パチッと目を覚ました。


 何度目かの同じ夢。

 最近はあの夢を見ることが多い。今日の夢は大分はっきりしてた。


 室内はまだ暗く、にーちゃんの寝息が聞こえる。

 確かにーちゃんは今日は遅番だったはずだ。

 そろりと自分の寝床を出て、朝の準備を始めた。

 時計を見ると五時。

 二人分の朝食を準備する。


この半年は止まっていた時間が一気に動き出したように、環境が変わった。


 年明けにねーちゃんから色々な話を聞いて、家族内でいつもとは違う空気が流れていた。

 なんと言い表していいのかわからないが、少しだけ居心地が悪い。

 みんな仕事に出てしまえば、ほとんどいつも通りの日常だったけど、夜四人そろった時は家族会議をした。

 リョウが貴族の家に養子に入るのは私としては嫌だった。

 これからの事を思えば、きっと貴族になった方が良いのだろうということもわかってはいる。貴族には貴族の大変さはあるけれど、空島にある高度な医療を受けることもできるだろうし、もしかしたら完治するかもしれない。

 私たちがよく利用するお医者様がやぶ医者なわけではなく、むしろ良いお医者様。けれど、やはり空島の医療機関は最先端の技術がある。町医者との違いは使える機材も違うし、薬は空島の研究機関で作られることが多い。

 ねーちゃんが言うには、リョウを養子にしたいという人は貴族の中でも大分お金持ちらしい。


 リョウが養子に入るのを嫌がるのであれば、私も強く通せるけれど、リョウもあの夫妻の事を好ましく思っている。

 ねーちゃんと貴族夫婦は何度も話し合いをし、私も貴族夫婦に会った。

 厳しそうだけれど、優しそうな人達だった。

 この人達ならリョウを大切にしてくれそうだ、安心できると思う半面、この人たちがいるから家族がバラバラになってしまうんだという妬みに似た感情がごちゃ混ぜになって複雑だった。

 結局のところ、リョウは貴族の養子になることになった。


 リョウが出ていく日は笑顔で見送った。見送れたと思う。

 いつでも会いに来て、と言っていたが、それは難しいこと。

 いつでも会いに行ける距離ではない。実質的な距離も、身分の上でも。

 “会いに来て”ということは、リョウがこちらに“会いに来る”ことはないのだろう。

 それでも、生きていればきっとまたいつか会える。


 リョウが家を出ていった後すぐ、ステラさんのお腹に赤ちゃんがいることが分かった。

 ステラさんはぎりぎりまでお店を手伝いたいと言っていたのだが、ワトレイノイズ様が良しとしなかった。子供を大事にしなさいと説得され、仕事を完全に辞めることになった。

 毎日は来ないけれど、月に三回お店に来てくれたステラさんに私は頼っていたし、安心していた。

 不安そうな顔をしていたのがわかったのだろうか、店主さんとステラさんは私を元気づけてくれる。

 ステラさんは月に一度、仕事はしないが顔を出してくれることになった。

 けれど、ステラさんは先月顔を見せていない。私が休んでいる時に来ているわけでもなく、つわりがひどいらしい。

 仕方のないことだとわかっているけれど、私の心は複雑だ。

 ステラさんを見舞いたいけれど、つわりで苦しんでいるところに行ってもステラさんの負担になりそうだし、そもそも私は庶民で、ステラさんは貴族。門前払いされるのが目に見えている。


 四月の初めにリョウが貴族の養子に行ってしまい、ステラさんが辞めて、五月には顔を見せてくれたけれど、次に顔を見せに来てくれるのはいつになるのかわからない。

 それだけでもだいぶ心が弱っているのに、私の目の色も空色になってしまった。

 姉ちゃんと同じ碧の瞳でもない。兄ちゃんと同じ紺色の髪もなくなってしまった。

 だんだんと大切な何かが削られていっているような気がする。


 ここまでがこの半年で起きたことだ。

 今までは三人分用意していたご飯も、今は二人分用意することが多い。

 リョウが行ってしまった後一週間ぐらいは姉ちゃんが早く帰ってきてくれて、一緒にご飯を食べていたけれど、暖かくなり動物系の魔物が活発に動くようになって壁の騎士としての仕事が忙しい時期に入ってしまった。

 顔を合わせることは一週間の内で三回ぐらいはあるけれど、一緒にご飯を食べるのは二週間に一回ぐらい。この忙しさは例年七月辺りまで続く。

 そして、十月から十二月の中ごろまで忙しい。

 いつもの事なのに、今年はすごく寂しく感じる。


 朝食の用意が終わり、仕事の前に洗濯だけしちゃおうと洗濯をして外に干す。

 今日は晴れるという占いなのでこのまま外に干しておこう。

 家に戻ると兄ちゃんが起きて顔を洗っていた。


「兄ちゃんおはよう」

「おはよ」


 顔を拭き終わってから、私の頭を撫でた。

 リョウがいなくなってから、兄ちゃんがちょっとだけ私を甘やかすようになった。

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