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リョウが話だし、時々にーちゃんがリョウの話に補足を入れる。
食堂は年末に向けて人が多くなる。冒険者の人が年を越すために仕事を求め、冒険者ギルドに集まったり、年末年始のいろいろな作業の人手の募集を冒険者ギルドに出す人も多い。
年始は年末に比べると人が少なるなる。
書き入れ時だと食堂も本腰を上げて仕込みをする。
リョウの仕事は主に野菜の下処理や掃除だ。だが、食堂のホールの方の人手が足りなくなり、料理を運んだり注文を取ったりする仕事もしていた。
そんなある日、普段なら来ないようなお金持ちそうなご婦人が、お付きの女性と共にやってきた。ニコニコしていて、とてもやさしそうなご婦人だったという。
にーちゃんが言うには、その後夫人はリョウの姿を目で追っていたということだ。
週に二、三回は着ていたそうだ。
ご婦人は、人が落ち着いてきたときにおかみにリョウのことを聞いた。
この食堂の子供なのかとか、姉がいたはずだが姉はどうしたのか、年齢とか。
見るからにお金持ちそうだったし、悪い人に見えなかったので、聞かれたことには答えた。大丈夫だっただろうかと、にーちゃんにおかみさんが後で話したという。
にーちゃんはそんな話をされたので、しばらく様子を見ていたという。
また、先輩たちも気にかけてくれていた。
十一月の中ごろにご婦人は旦那さんも一緒に食堂に来たという。
質素だが質のいい服を着ていて、この食堂には似合わないような美しい所作だったという。
十一月の終わりにリョウが体調を崩して休みをもらっている時に、そのご婦人は来店し、リョウが体調を崩したと聞くとかなりうろたえ心配したという。
体調が戻った後、ご婦人はリョウに「うちの子にならない?」と聞いたそうだ。
リョウはすぐに断った。
しかし、ご婦人は「うちの子になればもっと高度な治療も受けられる」と引き下がらなかった。色々提案をしてくれたが、それでもリョウは断った。
頭ごなしに言うわけではなく、あくまでも決定権はリョウにあるように話してくれたらしい。
断られたご婦人はすごく寂しそうな顔をして帰っていった。
翌日、にーちゃんは遅番で、リョウが一人で家に帰っていると、お付きの人に呼び止められた。
ご婦人は一緒ではなくお付きの女性が一人。いつもの仕事着ではなく、普段用の服だった。
話を聞いてほしいと言われ、広場のベンチに座り話を聞いた。
やはりご婦人はお金持ちだった。
自分は別のお屋敷で働いていたが、きつい職場で、そこから救い出してくれたのが今のお屋敷の家族だった。
旦那様も奥様もお子さんも使用人に優しく、素晴らしいご家族だったと。
二年前にお子さんが体調を崩し、一年間闘病したのち天に召されてしまった。
奥様は体があまり丈夫ではなかったため、子供は望めないと言っていたのにできた奇跡の子だった。
奥様はふさぎ込み、泣きながら日々を過ごしていた。自分が体が弱かったため、子供が死んでしまったのだと自分を責め続けた。
旦那様も奥様のことを心配し、このままだと奥様まで失ってしまうと思い、気分転換に城壁の町の広場に散歩に出かけた。
旦那様は奥様に何かプレゼントしようと、品物を取りに行っている間奥様はベンチで休んでいた。さわやかな風が吹く天気のいい日だった。
奥様が休んでいると、小さな子供が近寄ってきた。止めようとしたのだが、奥様に手で制され、子供は奥様のすぐ近くで立ち止まった。
見るからに庶民だとわかる服装をしたその子供は、奥様と何気ない話をしたという。
しばらくするとその子供の姉も来て、奥様を見て弟が粗相をしたと謝り立ち去ろうとした。それを引き留め、話しをした。姉の方は大分警戒しつつも、話していくうちに少しは打ち解けられた。
しばらく話をしていたが、本当に帰らないといけないという姉弟は席を立つ。立ち去り際、姉の方は小さな包みを差し出してくれた。
「お金持ちそうだし、こんなの食べたことないかもしれないけど、私も弟も好きなお菓子だから一つ上げます」
「僕とねーちゃんの特別なお菓子だよ。少し、元気なるよ」
ありがとうと受け取り、姉弟に手を振って見送る。
開けてみると小さなお菓子だった。私の制止を振り切り、奥様は口に入れて少し泣いた。
すぐ後に旦那様が戻ってきて、その日のお出かけは終わったが、奥様はお出かけの後だんだん元気になっていった。
その姉弟の弟は、あなたなんです。
“奥様”が出会った姉弟は、どうやら私とリョウのようだ。
そういえば二年ぐらい前に、使用人を連れた細い女性とベンチで話したような気がする。どんな話をしたのかは忘れてしまったけれど、元気がなさそうなその人をリョウが励ましていて、私も一緒に励ましたような気がした。
記憶はすごくおぼろげだけど。
使用人の女性はさらに話を続けた。
元気になった奥様は貴方に会ってお礼を言いたいと考えていました。
偶然あなたを街で見かけて、食堂で働いているというのを聞き、食堂に通いました。
あなたは私たちのことは覚えていないようでしたが、あなたの元気に動く姿に奥様はずっと笑顔でした。
ですから、あなたが体調を崩して食堂を休んだ時は、奥様は少し取り乱しておりました。すぐに元気になったあなたを食堂で見かけて、落ち着きましたが。
奥様はお医者様にもう子供は望めないと言われております。
あなたは坊ちゃんとは見た目も、年齢も違いますが、どことなく雰囲気が似ているのです。
けれど、奥様も旦那様もなくなった坊ちゃんの代わりとしてあなたを迎えたいわけではありません。
もしあなたが体調を崩したとなれば、奥様も旦那様もとても心配します。自分たちには貴方を治せるかもしれない方法があるのに、と。
難しい話をしてしまい、すみません。
ですが、少し考えていただけないでしょうか?
そうに話を聞き、リョウは悩み始めたようだ。
ご婦人がリョウに行った後、今度は旦那さんも一緒に食堂に来るようになった。
時々仕事終わりに、一緒に散歩をしたり、屋台のお菓子を食べたりすることもあった。
決して、その奥様を嫌いなわけではない。
自分の体調を崩しやすいこの体が治るのなら、治したい。
優しい夫婦だし、二人に名前を呼ばれたり、手をつないでもらうとなんだか温かい気持ちにもなる。
けれど、この気持ちはライねーちゃん、リャウにーちゃん、リュウねーちゃんに対する裏切りなのかもしれない。
ねーちゃんもにーちゃんも、この生活も大好きだけど、自分の医療費は少なからず負担になっているのもわかっている。
いうに言い出せず、自分の気持ちもよくわからなくなってしまったという。
にーちゃんは憶測の話はせず、店で見た話をしている感じ。
リョウが話す相談は家族にとってはだいぶ複雑な話だった。主に気持ちが。
医療費に関しては、体調を崩したときのお薬と、少し体がおかしいかなと思った時のお薬は在庫が切れないように常備できるほど流通している薬なので、一刻ほどよりは負担になっていない。
いろいろ気にしていたのだと思うと、私はリョウをぎゅっと抱きしめた。
「……実は、リャウから話を聞いてその夫妻のことを私も調べてみたんだ。勝手に行ってすまない」
ねーちゃんがそうに言うと、驚いた後リョウは首を横に振った。
「調べた限りでは優しい夫妻だと思う。私も数回あったことがあるが、朗らかないい人たちだ。周りの人も彼らを評価している。もし、リョウが彼らの養子に入りたいというのならば止めないよ」
「……ねーちゃん、それって……」
「もちろん、私たちは家族だし、リョウも大事な家族だ。医療費とかなんて気にしなくていい」
ねーちゃんは私の言葉をさえぎって、リョウに話しかける。
「一旦私たちのことは置いておいて、あの夫妻と家族になった時のことをリョウは想像できる?」
「……」
「ゆっくり考えていいよ。あの夫妻には今月パーティで会うと思うから、その時私の方からも聞いてみよう。リョウがどうに判断しても、私たちはリョウを応援するし、リョウの家族であることは変わらないからな」
「……うん」
話し終えた後は、なんだから色々情報が多すぎて頭が混乱した。
遅くなったお昼は、にーちゃんがあり合わせのものでパパっと作ってくれたし、夕飯も簡単なものを食べた。
なんとなくそのあとは、だれも話題を出すことがなく、夜になり横になった。
混乱した頭はなかなか収拾がつかず、自分のこと、リョウのことを考えて、なかなか寝ることができない。
このまま家族で一緒に過ごしていたい。
けれど、ずっとはこのままではいられないのだろうということもわかっていた。
一年に一回のお祝いの日だったのに、複雑な気持ちのまま眠りについた。




