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「その、ローブの人に押し付けられたのが私?」
「いい方が悪かったな。押し付けられたというか、渡されたというか……ローブの人から受け取ったのがリュウだよ」
私が聞くと、ねーちゃんはハッとして言い直す。
ねーちゃんが私をいやいや引き取ったのではないのはわかっているので、気にしてない。それよりもっと気になってることがあった。
私は捨てられたのではないということ。
前世の記憶との折り合いがつかなくて、暴れたり奇声をあげたりする子供だったから捨てられたのだと思った。
そのローブの人が私の親かどうかはわからない。私はその人の事を覚えてないから。
きっかけをつかめば、頭痛がして思い出すのかと思ったけれどそんな都合のいいことにはならないようだった。
「ローブの人は、多分女性だった。ローブを深くかぶっていたので容姿はわからないけれど、どことなく雰囲気が女性のような気がした。
転移魔法は高難易度の魔法だ。そして、魔法の痕跡も残さずに消し去るのはさらに難しい。高位の魔法使いの技だ。この辺り……いや、この近隣諸国合わせても高位の魔法を使えるのは二人しかいない。
上司に相談し、私がリュウをあずかることになった。ローブの人は私の前に現れた。リュウを迎えにすぐに来ると思ったんだ。
家に連れてきてから、三日。目を覚まさなかった。目を覚ませば、事情が聴けると思ったのだが、目をさまし、暴れ、やはり聞いたことのない言葉を話していた。
落ち着いた時には、記憶が無くなって、この国の言葉を話すようになっていた。
ローブの人の言葉をなぞったように言っても、不思議そうにして、目が覚めた時のような言葉を一切話さなくなっていた。
何か身元がわかるようなものを持っているかと思ったのだが、何も持っていない。服や布に何か特徴があるかと思ったが、この辺りにも普通に流通している布と同じ。手詰まりになって、上司に相談し、魔力検査をし、微弱の魔力しかないことを確認してから、うちで本格的に預かることにしたんだ。
リュウは自分の名前も覚えてなかったから、私がつけた。
何も覚えてないリュウには「私が拾った」ことにし、近所の人たちにも、同様に話したからそこで矛盾は出ないようにしてな。
時間ができれば、なにかわかることはないかと、私なりにつてを使ったり図書館へ行ったりして調べていたんだが、なにもリュウの事で掴める情報は見つからなかったが。けれど、リュウを引き取ってから半年ぐらいたった頃だっただろうか……この国……いや、世界でも指折りの魔法使いが私に声をかけてきた。
私は何度か見かけたことはあったけれど、彼女と話すのは初めてだったし、私の憧れでもあったからびっくりした。
彼女……エクルは私の話を聞き暫く考えるようにしてから、私に話してくれたんだ」
ねーちゃんは一旦言葉を区切る。
「何を話してくれたの?」
何か話ずらそうにしていたので、水を向けると続きを話し出す。
「リュウは“研究所”の子供の可能性が高い、と」
「研究所……?」
「ああ。私も研究所は何かわからなかったのだが、あくまでも可能性の話で、そうでない可能性もあるから何とも言えない。そうに前置きしてから、エクルは私に話してくれた。
研究所は、あらゆる研究をしている機関。多岐にわたる研究をしている。非人道的な研究も数多くしているらしい。更には、研究の為なら人、町、国をも襲う。研究所はどの国にも所属しておらず、場所も不確か。
一部の人しかその研究所の存在を知らず、さらに一部の人しか場所も知らない。エクルも場所まではしらない、と。
その研究所で、何やら問題が起きたようだと。その問題にリュウが関わっている可能性が高いと。その理由は三つ。
研究所の中で育った者は独特の言葉を使うこと。
高位の魔術を使い子供を送ったこと。
また、研究所は水色・空色の髪の子供を探しているらしい」
「リュウねーちゃんはその、研究所からきたの?」
「エクルが言うには、可能性は高いがわからない、と。
そうでなくても数十年前から水色・空色の髪の子供は攫われることが多い。子供をさらっているのは、研究所の人物らしいが証拠はない。
不確定な要素で不安にさせるのは申し訳ないが、知らないよりは知っておいた方がいいということで話してくれた。
もし、研究所に連れて行かれてしまっては、非人道的なことを行われてしまう。連れ去られたりしないためにも、子供の髪と目の色を変えてはどうか、と」
「え。私、目の色も違うの?」
今朝、鏡を見た時は見慣れた碧眼だった。この目の色も変わるというのだろうか……。
「ああ。リュウの本来の色は髪も目も空色だ。
エクルにはリュウの髪と目の色がだんだんと濃くなるような魔法をかけてもらった。突然変わってしまうと周りも、リュウも驚くし奇特な目で見られるからと。
リュウへの魔法はリュウが寝ているときにしてもらった。エクルの魔法でだんだん髪の色も目の色も濃くなった。しかし、永久的なものではなく、魔法は十六歳辺りから段々効力が切れはじめ、元の色に戻っていくと言われていた。
だから私も、リュウが十六歳になった時にこの話をしようと思っていたんだが、なかなか踏ん切りがつかなくてな。
もしも十六になる前にリュウが髪の色が薄くなったと言ったら、この話をしてエクルに話しに行こうと思ったのだが、エクルは旅立ってしまったからリュウの髪の色を前の色にするのはできない……」
どこかで聞いたことがあると思っていた“エクル”という名前、店主さんの奥さんの名前だ。
「もしものことを考えて、私の魔法で髪の色を変えることができるかと思ったが、髪に宿る魔力に邪魔されてうまくいかなった。
アウグスティンへも聞いたが、かなり綿密な魔法になるから自分にはできないと言われてしまったしな……」
「店主さんの名前……ねーちゃんはずっと前から店主さんの事も知ってたの?」
「知っているよ。リュウがあの店で働くという話を聞いた時は驚いたけれどね。
エクルとアウグスティンも屈指の魔法使いなんだよ。本人たちはそうに言われるのは嫌で、あの路地に居を構えているようだけれどね」
すごい人のお店で働いてるんだな、私……。
「とにかく、エクルがいない今、リュウの髪の色は変えることはできない。髪を染める物もあるが、色を変えても持って一週間、使いすぎると髪が抜けたり肌がただれてしまう。水色系の髪の者も街で見かけるしあまり珍しくない。あの辺も治安はいい方だし。逆にこの話をして、リュウがおどおどした態度を取って目立ってしまうことを恐れてしまい話せなかったんだ。
いつもと同じようにしていれば大丈夫」
ねーちゃんの「大丈夫」と言われて、安心したから私は少し怖がっていたと実感した。
リョウが私の手をぎゅっと握ってきたので、にこりと微笑み返した。
不安そうな顔をしていたのかもしれない。
「リュウの話が一番ややこしいが、これで終わりだ。話し忘れているかもしれないが、はぐらかしたりはしないから気になることがあったら聞いてくれ」
「……わかった」
頭の中があまり整理し切れてない。
何がわからないかわからない状態だ。今も自分の話をしてくれたのに、どこか他人の話のように思ってしまう。
「さて、最後にリョウ。リョウには最初に厳しいことを言ってしまう」
「うん」
「リョウを拾ったのは仕事が終わって帰るときだ。細い路地の奥から子供の泣き声が聞こえて、見に行ったら人が倒れていた。近寄っていくと、倒れていた人は男女で、血を流して冷たくなっていた。二人で、リョウを守るように息絶えていたよ。きっとその二人がリョウの両親だ。リョウと同じ髪の色をしているし、男性の方はどことなくリョウに雰囲気が似ていた気がする」
「そっか……」
リョウが短く返し、私の手をぎゅっと握った。私はその手を握り返す。
「争った跡があり、金品を銅貨1枚すら持っていなかったから、物取りの犯行だろうと思う。
倒れてた二人、子供にも身元がわかるようなものも何一つ持っていなかった。この街の人なのか、外から来たものなのかすらわからなかったんだ。
リュウの時とは違うから、最初はどこかの施設に預けようと思ったのだが、リョウは私が抱き上げると泣き止んで、私に対して笑ったんだ。
家に連れ帰り、リャウとリュウと三人で話し合い家で育てることにした。
リャウもリュウもある程度自分の事が自分でできる年齢で引き取ったが、乳飲み子を育てるのは初めてだったから、三人でリョウの親代わりになろうと必死だったな」
「うん。僕にとっては、ライねーちゃんも、にーちゃんも、リュウねーちゃんも三人が僕のお父さんでお母さんだ」
手を放し、リョウは私たちを一人一人しっかりとみる。
「リョウ……」
何かを察したのか、ねーちゃんがリョウの名前を呼んだ。
「ライねーちゃん。リャウにーちゃん、リュウねーちゃん。僕ね、ずっと悩んでたんだ」
最近元気なかったことだろうか……。
「ライねーちゃんの話を聞いて、話すのは、相談するのは早い方がいいって思って……」
「……相談?」
ねーちゃんとにーちゃんは思い当たる節があるのか神妙な面持ちでリョウを見ている。
私には見当がつかないので、質問してしまった。
リョウはこくりと一つ頷く。
このあたりは難産………orz




