26 ねーちゃんの話
3日に上げたひとつ前の話、少し加筆してます。
十二月の月終わりに、売り上げなどの書類は提出した。
ステラさんも手伝ってくれたので定時より遅くなったけれど。
年越しはにーちゃんとリョウと三人で迎えることができた。
ねーちゃんは十二月の月終わりから一月の一週目の二日目まで帰ってこない。前世風に言うと、十二月三十一日から一月三日までは仕事に行っている。
これは毎年の事で、今年もいつも通り。
年末年始と言っても、紅組、白組に分かれての歌合戦があるわけでもないし、特別番組とかも特にはない。そもそもテレビが無いんだけど。
一月の月初めには、国王様と第一王位継承者の王子が祝辞を述べるぐらいだ。
各家にラジオとかテレビとかはないんだけれど、魔法での映像中継(テレビみたいな感じ)が中央の広場で行われるし、中央じゃないところは音声のみの中継もところどころで行われてる。
あとは、新聞とかにも乗るし、中継を聞いた人が聞いてない人に話をする感じ。
この話が出ると、年が明けたなぁって思う。
私はいつもは後から近所の人から聞いたり、落ちてる新聞を読んだりしてたけど、今年はにーちゃんとリョウと一緒に中央広場で話を聞いた。
新聞は白黒なので、国王様のカラーを初めて見た。
白黒で見るより若い。頭には王冠を乗せて、綺麗な金色の髪を後ろにまとめている。映像からもどこか威厳がある感じ。
王様の話が終わると、第一王子の言葉だ。こちらも王様と同じく綺麗な金髪。知的な感じのする青年だ。
そして、私は見つけた。第一王子と王様の後ろに並ぶ王族の人達の一人。
画面の端にぎりぎり入って、面倒くさそうなのを隠そうともしない見知った人。
ウォードって本当に王子様だったんだなぁ……。
お店に来る時と雰囲気もまったく違うけど、わかる人にはわかるとおもう。
そもそもお店に来る時も服装ぐらいしか変えてないし。服装でここまで雰囲気が変わるものかとも思ったけれど、お店であう時はいつも楽しそうにしてるから、あんなにつまんなそうにしている顔は初めて見たかもしれない。
ステラさんが殿下って何度も言いかけてたもんね。本当に殿下だったんだなぁ。
お店にはそういう人も来るかもしれないし、もうちょっと貴族とかそういう事もステラさんに教えてもらって勉強しておこう。
いつか知らなくてお店に迷惑かけちゃうのやだし。
そんなことを思っているうちに、映像中継は終わり、集まっていた人たちはそれぞれに散っていく。広場には屋台も出ていて、かなり繁盛している。おいしそうな匂いがするけれど、家に買えれば昨日作っておいたスープがあるので惹かれつつもその場から去った。
途中でパン屋さんでパンだけ買った。半分以上のお店が休みだったけれど、こうしてやってくれているお店があるのはありがたい。
にーちゃんも明日明後日は仕事だし、リョウも明後日は仕事なんだけどね。
年が明けてから五日目は、家族でお祝いをする。
私もにーちゃんも、リョウもねーちゃんに拾われたから誕生日はわからない。
最初はねーちゃんが拾ってくれた日を誕生日にしようとしていたみたいだけれど、気づいたら年が明けて五日目にまとめてお祝いをして、その日にみんな歳を重ねるようにした。
ねーちゃんが話してくれるのも、五日目になると思う。
何を話してくれるのか、私はまだ少し怖い。
すぐに五日目になった。
ねーちゃんは一日休んで、五日目の朝ご飯が終わった後に切り出した。
いつもと雰囲気が違うねーちゃんの顔は少し緊張しているよう。
それにつられて、私もリョウも緊張しながら席に着く。
「……何から、どうに話せばいいのか、私もまだ考えがまとまっていない。リュウは今年で成人だから、今年中には話さなければとは思っていたんだ。リョウには少し早い気もしたんだが、そうもいっていられなくなったからな」
私とリョウを見て、ねーちゃんは困ったように笑った。
「そうだな、まずは……私のことを話そうか。そこから順に話そう。リャウ、リュウ、リョウ……三人の話と、私の話を。
私の仕事の話はまだしてなかったな。私は城壁を警備する騎士の任を頂いている」
「え!?城壁って、この街をぐるって囲ってる?」
「ライねーちゃん騎士なの!?」
「そうだ。女性は少ないけれどね」
だから、ねーちゃん腹筋が割れてたり、手がごつごつしてたんだ。
リョウはキラキラした目をねーちゃんに送っている。
「ねーちゃんの旦那さんも、騎士様?」
ふと気になったので聞くと、ねーちゃんは困ったようにわたわたした。
これは聞いてはダメなことだったんだろうか……?
「ねーちゃんの旦那さんも騎士だよ」
代わりににーちゃんが答え、にーちゃんがねーちゃんを見る。
「ねーちゃん、全部話そうって決めたんだろう?俺は、このまま話さないでいる方がねーちゃんも、リュウもリョウも後悔すると思う」
にーちゃんはねーちゃんの事を知ってる。
にーちゃんとねーちゃんで夜中話しているのも知ってる。話の内容はわからないけれど。
私とリョウは先の話を待ち、ねーちゃんはしばらく悩んでから、自分を納得させるように何度か頷いていた。
そして、私とリョウを見ると頭を下げた。
「すまない。リュウとリョウを信頼してないから話さなかったわけではないんだ。いずれ話すつもりではあったし、話すことで私たちの関係が、家族が壊れてしまうような気がした。臆病者だったんだ」
ねーちゃんが頭を下げたことに驚き、二人でねーちゃんの頭をまずは上げさせた。
「まだねーちゃんの職業の話しか聞いてないから、何に対して言ってるのかわかんないよ」
「それもそうだな……」
「それに、ライねーちゃんも、にーちゃんも、リュウねーちゃんも僕の家族だよ。これからもずっと」
「ああ……」
リョウの言葉に私は頷いた。
ねーちゃんは安堵の表情を見せたのでちょっと安心する。
「……本当は隠せるならずっと隠しておきたかったんだが、私の名前はライ……ライリー・サンダルフォン・シストア。ここから南に領地があるサンダルフォン伯爵の娘で、シストア公爵の三男と結婚している。
シストア公爵は宰相だな。宰相は長男が継ぐことが決まっていて、次男はその補佐。私の旦那である三男は騎士だが、子爵を貰っている。
つまりは……貴族だ」
うかがうように私に視線を向ける。
私は貴族が嫌いだと今のお店で働くまでさんざん言っていた。それまで貴族にいい思い出が全くなかったから。
でも、今のお店で働くようになってから、店主さんやステラさん、お店に来るお客さん、昔の記憶で貴族にもいろいろいるって知ってる。
「ライねーちゃん、貴族なの?」
「そうだ。だが、その……リャウ、リュウ、リョウ……私はお前たちを家族として思っているが私の養子にはなっていない。書類上の話だが私たちは家族としては……」
「うん。大丈夫。そもそも貴族だけだもの。家族を書類で管理してるのは」
庶民はある意味書類はあるんだけど、教会とか組合とかでざっくり管理はしてる。
ざっくりとした管理なので、隣の家の子供は女の子なのに男だってなってたし、年齢も三歳ぐらい違ってたりする。
おおらかというかなんというか……。多分、庶民の子たちは大人になれない子も多いし、学校にもほとんど行かないからあんまり必要ないのかもしれない。
ただ、働くときには年齢が重要になってくるから、ごまかせないように魔法具で確認するんだけど、それもざっくりとした感じ。
七歳以上か、七歳以下かっていうだけの判別する魔法具だし。
「私は、ここでは貴族のライリーではなく、ライでいたい。私の我儘にお前たちを巻き込んでしまってすまないのだが……」
「むしろ、貴族ってなった方がいやだなぁ」
「私も。なんか、貴族って堅苦しそうだし」
リュウと私が言うと、ねーちゃんが笑った。
「そうだな。確かに堅苦しい。そうなんだ。堅苦しくてな。私の旦那も旦那の家も、私を大事にしてくれるから、普通の貴族よりは堅苦しくはないんだろうが……。逆にそれが辛い時もあるんだ」
小さくため息をつき、視線を落とす。
「私の祖先にはエルフが混じっている。なぜか私はエルフの血が出てしまったんだ」
「ねーちゃん綺麗だもんね。エルフの血が混じってるっていうのも納得」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。魔法の力も結構強くてね。剣はそんなに得意ではないんだが、魔法の扱いは器用にできたから騎士になることができた。
魔法が使えることはよかったんだが、エルフは魔法の扱いに長けていて、長寿だ。長寿ゆえに子供ができにくい。子供ができても、出産まではかなり難しいとされているんだ」
長寿だから子供ができにくい、この話をどこかで聞いたことがあるが、いつどこで聞いたのかはわからない。
ねーちゃんの視線は落ちたまま、テーブルの上で組んだ自分の手を見ている。
「……十五年前、私は旦那との間に子供ができたんだが、流産してしまった。子供ができ辛い体だということは知っていたがショックだった。
旦那も……私の家族も、旦那の家族も私を責めることはしなかったけれど、『次がある』と励ましの言葉がすごく辛くてな。体調も崩して、精神も病んでいった。精神はなかなか戻らなかったが、体調が戻ってすぐに家出をしたんだ」
「家出……」
「かなり幼稚な行動だったとは思うのだけれど、どうしても家にいたくなかった。街の中で親子を見るのも嫌で、城壁から外に出て、あてもなくふらふらして、そこで……リャウを拾った。リャウは本当にかわいげのない子供だったよ。
親は?と聞けば、口減らしで捨てられたと、何かを悟ったように話したからな」
「仕方ないだろう。田舎から銅貨十枚だけ握らされて追い出され、ようやく王都についたものの中に入れずに、このまま死ぬのかと諦めていたからな」
にーちゃんは腕を組んでる。にーちゃんの小さい時の話を聞くのは初めてだからなんだか嬉しい。
内容は世知辛い内容だけど。
「リャウの諦めたような目がな、自分と重なってな。放っておけなかった。名前は?と聞けば、無いと答えたから、リャウと名付け、家族になった」
「……半ば無理矢理だったんだぞ。突然見ず知らずの女に、腕をつかまれ『今日から、私とお前は兄弟だ』とか言われるのは怖かった。しかも、女なのに力強いし……」
「そりゃぁ、鍛えているからな。子供のなんかには今でも負けないぞ」
「あの時はまだねーちゃん力加減もわかってなかっただろう?つかまれた腕が思いっきり青あざになってて、ねーちゃんかなり驚いてたからな」
「私も必死だったんだよ」
ねーちゃんの言葉に、にーちゃんが補足をする。
その時の情景が目に浮かぶようだ。
「私に拾われてよかっただろう?」
「感謝してるよ」
ねーちゃんがにーちゃんをうかがい見れば、にーちゃんは少し照れくさそうに言った。
「リャウを拾って、私と旦那の家に行けるわけもないから、とりあえず城壁の中に入ってこの家を借りたんだ。二人で色々四苦八苦しながら、どうにか信頼関係を築きつつ生活をしていった。リャウと暮らすことで、私はだんだん精神的に安定していったんだ。
しばらく暮らしていて、リャウに私が貴族だとばれたときは大ゲンカしたな」
「そりゃそうだ。こっちは必死に生きてるのに、貴族の遊びで拾われたと思ったからな。それに俺はまた捨てられるのかと思ったし。
……ああ、そうか。俺とのその一件があるから、リュウとリョウにはなかなか言わなかったのか」
思い出したように言えば、ねーちゃんは小さく頷いた。
「あの時は、リャウを失ってしまうような気がしてしまったんだ。それが怖くなってしまってな。元をたどれば、家出をしたまま、家に連絡を入れ無かった私が悪いんだけどな」
「そのせいで、ゲンさんがここに住むことになってるしな……」
「ゲンさんって、大工の?」
「共有の風呂場を作ってくれた大工のゲンさん。もとは伯爵家の使用人だったんだよ」
「……みえない……」
貴族と関係があるようには全く見えない。
「ゲンさんが、ライねーちゃんの見張りなの?」
「……最初は多分そうだったと思う。今はわからないが。私が数日家を空けるときは仕事の時もあるが、貴族として社交界に出ている時もあるし、たまにあっちの家に帰ってる時もあるから、もう見張りはいらないんだけどな……」
「すごい楽しそうに働いてるゲンさんしか知らないわ……」
「楽しそうだから、放っておいてるというのもある」
ゲンさんを思い出しながら、なんとも言えない気持ちになる。
無精ひげを生やして、木材を運んだりしてるイメージしかない。
「話はそれたが、ここで庶民として暮らしながら、騎士をして貴族をするという生活をずっとしてるんだ。旦那にも許可を得ている」
「にーちゃんはねーちゃんの旦那さんに会ったことある?」
「ないな。それに、ねーちゃんは俺たちにあわせる気はないだろう」
会わせる気が無い?なんでだろう……。
食器だって、五人分あるのに。
「……今は会わせる気が無いだけだ。そのうち……いつか……会わせようかなぁとは思っている」
歯切れの悪い返答だ。
これは多分会わせるつもりはなさそうだ。
「それよりも、だ。リャウと暮らしながら、そんな日常が過ぎて行ったときの話だ。
その日は曇り空でな。一雨来そうだと思っていた。たまたまその日は城壁の外の見回りの日だった。
見回りは基本的に二人以上で行動するんだが、何かの理由でバラバラに行動した。
私の目の前に魔法の揺らぎができたんだ。魔物か、はたまた魔族が魔法で揺らいだところから出てくると思い、私が身構えると、ローブをかぶった人があらわれた。
その人は、私を見つけると、聞いたことのない言葉で何かを必死に伝えようとしているのはわかったが、どこの言葉かはわからない。さらに、かかえていたものを私に押しつけてきた。
敵意がないのも、必死なのも伝わってきたから何だろうと視線を移し、子供だと確認して驚いて視線を戻すとそこには何もなかった。
魔法の揺らぎも痕跡も残さず、子供を置いて消えていた」




