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こういう時に、前世の夢で解決策を教えてくれてもいいと思うのに、何の夢も見ない。
話し合ったように、リョウが近所の子に話をした。
リョウ曰く、みんなで共通の秘密ができるのが楽しそうだと言っていた。
内緒とか、秘密ってなんか嬉しいよね。
その後、近所の人たちを集めてねーちゃんが読めるということの危うさを大人たちに説明した。その時は兄妹でついて行って、私が謝ろうとしたら、この辺りの班長さん的な人がそれを止めた。
「リュウよ、謝罪はいらない。むしろ、リュウが子供たちに文字や計算を教えてくれたから、俺の子供は有利な就職ができた」
班長さんの子供は商家で事務職で働いているという。
養鶏場で働いていくおばさんも、
「そうね、子供たちが文字を教わって、それを私にも教えてくれるから私も簡単な文字が読めるようになったわ。私が文字を読めないからって、結構お金をだまされてたこともわかったし」
契約書に書いてある文字と、実際の買い取り値段が違うことがわかり、養鶏場の商品を買い取る商人と養鶏場の間に役人の人が入って、正規の値段でのやり取りをしてもらえることになったのだという。
その他にも、文字や計算がおぼえられてありがとうと言ってもらえた。
私は思わず泣いてしまった。
そんな私をねーちゃんが優しく抱きしめてくれた。
「子供たちにも話した方がいいでしょうね。内緒や秘密は最初は楽しいけれど、次第に誰かに言いたくて仕方がなくなるでしょうから」
「どうに話すかだな」
「頭ごなしに言うわけにもいかないし……」
あーでもない、こーでもないと話し合っていたが、結局ねーちゃんが話したように子供たちにも話すことになった。
貴族や商人に目を付けられないようにするしかない。
それに、就職した人達にも文字や計算を習ったのは、広場にある黒板に“皆で問題をかきあって知識を蓄えた”ということにしようとなった。
黒板にある問題は、わかる人がわからない人に教え、わかったらさらにわからない人に教える。わかる人は自分が難しかった問題を黒板に書いて、違う人に伝える。そうやって知識を身に着けたと。全て事実だから問題ないだろう。
最初に始めたのは私だけれど、そのことは黙っていようと。
そうして、文字の一件は落ち着くことになった。
いつもと同じ日々を送っていたけれど、十二月に入ってからリョウの様子が少しおかしい気がする。
何がどうにおかしいのかはわからないけれど、少し元気がないような気がする。
どうしたのかと聞くけれど、なんでもないよと返されてしまうし、その後はわざと元気にしているように見えてしまって何も聞けない。
先月の月末に少し体調を崩していたけれど、すぐによくなった。
夜中にねーちゃんとにーちゃんで何か話し合っているのも知っていた。
何かあれば話してくれるだろうから、それまでは私はおとなしくしていようと、気付かないふりをしている。
来月になれば私も成人になる。
そしたら、少しはねーちゃんとにーちゃんの役に立つようになるんだろうか。
未だにねーちゃんの仕事の話もしてもらってない。有名な人だってステラさんは言っていたけれど、ねーちゃんは一体どんな人なんだろうか?
私は家族の事について何も知らない。
なんだか、聞いてしまうと今の幸せが崩れていきそうで怖い。
店先を掃除しながらため息をつくと、白い息が出た。
「店先で何ため息ついてんだ?」
「ひゃっ!?」
突然かけられた声に驚いて、振り向くとそこには金髪で杖を持った美青年。
「いらっしゃい、ませ?」
ドキドキしながら、美青年……カルに言う。
「今日は客じゃないんだけど、じーちゃんいる?」
「店主さんは今日は朝から自室にこもったままです」
先月、ウォード、フランさん、カルでお店に来てから週に一回フランさんかカルが来る。ウォードは忙しいらしく、自分でこれないのでかわりにきているそうだ。
フランさんかカルさんが来た次の日は高確率で、店主さんは自室の研究室にこもる。
それでも、お昼には出てきてくれるし、私が帰る頃にも出てくるので、まだ店主さんが出てこない時の対処法は行っていない。
「そうか、少し待たせてもらっていいか?」
「大丈夫ですよ。お客さんも今日はもう来なさそうですし」
店先の落ち葉を拾い、袋に入れてお店の中に入る。
お店の中に入ると温かい。
カルは先にお店の中に入っていき、私は箒を片づけてから中に入る。
足の長い椅子に座り、奥のカウンター上に小さなバッグから本やら書類を出していた。
どう見てもそんな小さなバッグには入らない量の本。マジックバッグだ。
思わず、しげしげと見てしまう。
「なんだ?」
あ。見過ぎちゃった。
「それ、マジックバッグ?」
「そうだよ。このバッグは本とか書類とか、すぐ出すものしか入れないから、拡張と重さ軽減だけで時間止めはかかってないから比較的簡単に作れる」
「自分で作ったの!?」
「突然大声出すなよ……」
「ご、ごめん、驚いて……」
そうだよね、マジックバッグこのお店でも小さいサイズの物(許容量とか)だったら売ってるし、売ってるってことは作ってる人がいるわけで……。
「外側は俺は作ってないけどな」
「それでも、すごいよ。魔法ってすごいね」
思わず笑顔で言うと、カルはなんか微妙な顔をしていた。
カルにとっては魔法は当たり前の物なのかもしれない。
私にとって文字が読めるのと同じぐらい当たり前の物。文字の一件で私は大分普通とずれているというのを認識したけれど、カルはその辺解ってないのかもしれない。
空島の学校を出たんだろうし、空島の学校は主に魔力が多い人ばかりだし、そうでなくても魔法を解っている人達ばかりで、魔法があるのが普通だから。
まぁ、今の私も魔法陣や魔法具も使い方わかっちゃうし、割と普通からずれている気はするけど。
カウンターの中に入り、お茶を入れて、カルに出す。ついでに私のも。
ちらっと執務室ものぞいたけれど、店主さんはいなかったので、張り紙をしておいた。絶対に気づくところに貼ったので、読んだら来てくれるはず。
カルは書類と本をにらめっこしながら何かかき進めている。
私は私で在庫確認や薬草のチェックをする。
「じーちゃんは何時ぐらいにきそう?」
「五時頃には来ると思うけど、時間大丈夫?もしならで直した方がいいかもしれない」
「そうか、まぁ今日と明日は時間があるからな。出てこなかったら今日は泊まらせてもらおうとおもう」
「ここが実家なんだっけ?」
「いや、俺の実家は別の所だよ。親と意見が対立してな。その間居候させてもらってたんだ」
「そうなんだ」
「ああ。じーちゃんとばーちゃんのおかげで、どうにかなったけどな。今でも両親とはギクシャクはしてるがそれは仕方ない」
カルも貴族だろうから色々あるんだろう。
あまり突っ込んで聞いたところで、私はどうしようもできないし、今は落ち着いているようだから私が口出すことでもない。
見事にこのお店で働くようになってから周りが貴族ばかりになっているのよね。
貴族ばかりだけれど、このお店で働いているおかげか、店主さんのおかげなのか果物屋で働いてた時とは違ってあまり嫌な思いはしていない。
カルはカウンターに向かって、本をめくりながら何かをかいては消し、書いては悩んでいる。その姿が何だか、カフェに居る学生のような雰囲気だ。前世でこういう人をよく見かけた気がする。
お客さんがいるときは奥にある接待室とかで待っててもらうのだけれど、今日は本当にお客さんが来ない。
今までこんなに暇だった日が無いぐらい今日は暇だ。
あとでしわ寄せがきそうで怖い。
「リュウはどうやって、じーちゃんとステラさんを納得させたんだ?」
「一生懸命働いた!」
私が答えると、カルはこけた。
「俺だって、本当はこの店を継ぎたいって一生懸命言ったんだぞ!」
「ウォードに仕えているのは嫌なの?」
「……ありがたいと思ってるし、ウォードの事は尊敬している」
尊敬できる人に仕えれるのはいいことだと思うんだけどなぁ。
カルは多分私を認めてないってことだよね。魔法も使えないような者が、魔法溢れるお店にいるのだから。
「私は多分店主さんに面白がられてるんだと思うんだよね。働きたくて、何件もお店に直談判しに行ったんだけど、全部断られたのよね。私。店主さんに面白がられてるんだとしても、お仕事もらえたから御の字だけど」
「じーちゃんにもステラさんにも気に入られているのに、働き場所が見つからなかったのか?それに面白がられてる?」
「うん。いろいろあって、何年も働いてなかったしね」
苦笑し、続く質問には、カルに近寄り書類と本を見る。
新たな魔法陣を組んでいるようだ。
“古”文字を使ってのトラップ?
「この魔方陣は?」
「ああ。ウォードに頼まれているトラップ系の魔法陣だ。うまくいかなくて、じーちゃんに助言をもらおうと思ってきたんだ」
じっとその魔法陣を覗きこむ。
古精霊文字に間の読めないのはただの模様かな。魔法陣には模様が書かれていることが多い。文字ではないのでその模様が何を意味するのか私にはわからないけれど。
これをパッと見ればきれいな模様だ。やはり、古精霊文字は綺麗だ。
「風系の魔法陣よね?古精霊文字を使いたいんだと思うんだけど、色々文字が間違ってる。これだと魔法陣は完成しないね」
黒板を取り出し、古精霊文字を書きだす。
「まずはこの文字。これが“纏う”魔法陣に書いてあるのは“放つ”だよ。それにこの文字は古精霊語には無い文字で、多分書きたい文字は“捕縛”かな?ちなみにこうに書くんだけど」
「は?」
「魔法陣は組めないけど、魔法陣の文字は読めるんだよね、私。だから店主さんに面白がられてるの」




