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 今日はねーちゃんも早く家に帰っていて、家族で夕飯を食べた。

 リョウが楽しげに今日あったことを話す。

 久しぶりにねーちゃんも一緒に夕飯を食べているせいか、いつもよりテンションが高い。

 朝ご飯は結構一緒に食べれるけれど、朝ってなんであんなに時間がないのかわからない。

 同じ一時間でも違うんだよね……。

 あとは寝るだけ、と落ち着いてから、みんなに座ってもらい話し出す。


「今日さ、店主さんとステラさんに言われたんだけどね、魔法陣に書かれている文字は読まないほうがいいって」


 私が切り出すと、三人とも頭にはてなマークを浮かべていた。

 どうに説明すればいいのか……と、机の端に置いてある黒板に文字を書く。

 店主さんが裏口に書いてある文字。

 ステラさんが裏口に設置した魔法陣の文字。

 新しい仕事着に刺繍してあった文字。


「これ、読める?」


 三人に見えるように黒板を見せる。


「よめる!『さみだれを』[あつめてはやし]〈もがみがわ〉……って?」

「なんか思い浮かんだ言葉だから気にしないで」


 リョウは私の書いた文字を正確に読んだ。

 ここには、五月雨という言葉もないし、最上川もないから誰にもわからないんだけどね。


「私も読めるな。リュウまでとはいかないまでも私も色々な文字を知っているしな」

「俺は、一番上の文字は読めるな。というか、その文字はリュウが文字を覚えるときに無理矢理俺にも覚えさせただろう?それに黒板の伝言の文字もその文字が多しな」


 昔私がなかなかこの国で使う一般的な文字が覚えられなくて、にーちゃんにあきれられたときがあった。私はそれがちょっと悔しくて、にーちゃんにこの文字を覚えさせたのだ。

 この文字は昔の私に言わせると、ひらがなという文字だ。張り紙には漢字も使われていたけれど、漢字の方はほとんど教えてない。

 この文字は普段から使っている文字だから、ステラさんと店主さんに驚かれた理由がよくわからなかった。それに、お店の在庫のラベルはほとんど日本語が使われている。

 働いているうちに何となく察していったんだけどね、ひらがなは空島の学校でもちょっと習うらしいんだよね。

 ステラさんは空島で教えてもらっている文字以外にも自分でかなり勉強したから色々読めるみたい。


「それがどうかしたのか?」

「んーとね、上の二つの文字は空島の学校とかでも習う文字で、真ん中の文字は魔法陣によく使われている文字なんだよね。だから、まぁ……読めても大丈夫みたいなんだけど、一番下の文字は読めたら結構危険みたいなんだよね」

「危険なの?」

「うん」


 リョウはきょとんとして私に聞き返した。私もいまいちよくわかってないから、どうに言ったものか……。


「あ、待って、違う。魔法陣に書かれている文字を読めるってことを知られないほうがいいみたい。読めても大丈夫なんだけど、読めるって知られるのがまずいみたい?」


 そういって、ねーちゃんの方を見る。

 ねーちゃんはちょっと考えているようだった。


「確かにそうだな。私も、私の職場の人間も三つ目の文字はともかく、上の二つの文字は普通に読める。読めるのが普通だからそれが普通じゃないということがわからなかったな……ましてや文字の話は日常会話ではあまりしないしな……」

「うん。私もなんでこんなに文字を知っているのかわからないけど、たくさん文字知ってたし、ねーちゃんもほとんど文字を知ってたからわかんなかったんだけどね……」

「……そもそもが、この街の庶民は文字を読めないやつも結構いるしな」


 にーちゃんの言葉にハッとした。

 そうだよ、この街の人たちで文字を読めない人もざらにいる。

 それはわかっていたはずなのに、私も私の周りも読めるから普通がおかしくなっているのかもしれない。いや、かもじゃなくて、なってるのか……。


「リャウの言うとおりだな。リュウの青空教室とか言って、この辺の子たちに文字と計算を教えたりして、この国の文字は読めるし、あらかた理解もできる。それがこの辺では普通だが、改めて考えるとそれは普通ではないな」

「この国の文字だけじゃなくて、他の文字もちょこっと教えちゃったんだよね……」

「そうなのか?」

「うん。一番下の文字って絵のようできれいな文字だから、ちょこっと教えちゃった……リョウにはガッツリ教えちゃったけど」

「……僕もリュウねーちゃんに教わった文字で、綺麗だったりかっこいい文字は教えたりしてた……」


 二人でしょんぼりしてると、ねーちゃんが私とリョウの頭を軽く叩いた。


「リュウの中では文字が読めるのが普通だったからな。私も他の子にも文字が読めればいいと思っていたから止めなかったし」

「変な文字は魔法関係でしか使われないんだろう?」

「多分……わかんないけど」

「今まで何も起こらなかったしなぁ。リュウの店主さんも文字が読めることで驚きはしたんだろうけど、何も言ってなかったんだろう?」

「うん」

「働き出して半年もたつのにな」


 そうに言われてみれば、ステラさんは作ったという魔法陣の文字を読んだ時も、脱衣所の魔法陣の文字を読んだ時も何も言われなかった。

 あの文字は読んでも大丈夫な文字だった?確か、古がつく文字が読めると面倒事に巻き込まれると言ってた?でも、珍しい文字だからそんなに目にしない……


「あ」

「ん?どうした?」

「貴族の間で最近服に魔法陣を刺繍するのが流行ってるって言ってた」


 にーちゃんとリョウはぴんとこないようだけれど、ねーちゃんは思いついたようだ。


「そういう事か……私は貴族のおしゃれについてはかなり疎いからな……確かにそれは面倒事になりそうだ」

「どういうこと?」


 ねーちゃんは、一度水でのどを潤してから、話し出す。


「今までは魔法陣を目にする事はそんなになかっただろう?基本的に魔法陣は消えないように保護される形で内側の見えないところに刻まれることがほとんどだったからな。

 けれど、貴族が服に魔法陣を刺繍するのが流行りだしたということは、その魔法陣は凝った魔法陣にするだろう。さっき二人が言ったように、綺麗な文字、かっこいい文字の魔法陣をつかうだろうな。

 そこでだ、その刺繍を見てリュウやリョウ、この辺りの子たちがうっかり声に出して読んでしまったら……空島でも習わないような文字を、それもとても裕福には見えない子が読めたとしたら……貴族に連れていかれるだろうな。

 貴族でなくとも、商人か、研究している人、人攫いもされる可能性がある」

「なんで、連れて行かれるの?」

「貴族は自分だけの魔法陣、刺繍が作れるかもしれないと思うし、商人はその文字を使って金儲けにも使えるだろう。研究している人は研究対象として。そして、空島で授業を受けたわけでもないから働けたとしてもかなりの低級賃金で働かせられるだろうね。

 まだ、そういう人達ならましだと思うけれど、人攫いにさらわれてしまったら、貴族なんかに売られて監禁なんてことも考えられる。勿論、この国でそういう事はご法度だ。ご法度だけれど、無いことはないからね。

 さらに……」

「これだけでも面倒だと思ってるのに、まだあるのか……」


 にーちゃんの顔が険しくなってる。


「ああ。むしろ、ここからが関係してくるんだ。魔法陣の文字を読めることが知れたとしたら、誰に、どこで教わったかと聞かれるだろう。そして、教えたのは……」


 ねーちゃんが私とリョウを見る。

 私はキュッと自分の手を握った。


「……リュウとリョウが一番危険があるのか……」

「そういうこと。リュウのとこの店主も、ステラもそこまでの文字が読めると思わなかったのだろうな。読めても近隣の国の文字だと思うだろうしな。古精霊語は失われた言語と最近まで言われ、魔法書でもない限り使われない文字だから……その文字をなぜリュウが知っていたのかはわからないけれどね」


 それには私は何も答えられない。家族にも前世の記憶があるとはいってない。

 前世の記憶を思い出しても、夢で見ることが多いから、おかしな夢を見たっていうていで話してるし。


「ライねーちゃんも文字読めるよね?」

「ああ。私は勉強したからね。リュウほどはしらないが、リュウのこれまでかきだした文字はほとんど知ってる。まぁ、私は師匠に血をはかされながら教わったがな……」


 リョウの言葉にねーちゃんが遠い目をした。

 私が教えてしまったばかりになんだか、ことが大きくなりそうで申し訳なくなってきた。 

 うつむいていると、にーちゃんが私の頭を撫でた。


「ねーちゃんの方で何とかできないのか?」

「何も問題は起きなかったら大丈夫だが、金と権力のあるやつが相手になる場合は武力行使も難しいな……それにわたしは、こういうことは苦手なんだ……」

「じゃあさ、僕明日休みだから“この文字を余所で見かけても知ってるって知られたらダメ”って言ってみる。僕より上の人には、ライねーちゃんから後で説明しますって言っておけばいいでしょ?」


 リョウが賢い!

 思わず、目を瞬いてしまった。

 ねーちゃんもリュウの言葉に満足したのか、笑顔で頷いた。

 

「そうだな、私が子供たちに言うより、リョウが言ったほうがいいな。大人には私が明日の夜に説明するよ」

「私も何か……」

「とりあえず、リュウは何もせずそのままでいい。広場にある黒板にも問題をかいたりして大丈夫。文字が読めることは強いんだ。知らないよりもずっと。教えないほうが良かったなんてことはないんだからね」


 ねーちゃんにまっすぐみられながら話される。

 教えないほうが良かったことはないと言われて、少しだけ心が軽くなった。


「それにしても、ずいぶんと私たちの普通と一般的な普通はずれているようだな……」

「今頃気づいたのか?俺は働きながら結構ずれてるなって思ってたよ」

「そうに思ってるなら、なぜそう思った時に言わない!?」

「なんか面倒そうだったから」


 にーちゃんのさっぱりした言葉にため息をつき、ねーちゃんは「こういうやつだったな、私の弟は……」となんだかあきらめた感じの言葉を呟いていた。


「ということは、食堂で働いているリャウとリョウが一番“一般の普通”の情報が得やすい。その辺り調べておいてくれ。私も仕事仲間に聞いてくるよ」

「わかった」


 話し合いが終わり、四人で眠りについた。

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