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ウォードたちが帰って行った後、明日の準備をして店を閉める。
明日は午前中は忙しいけれど、午後は比較的落ち着く。午前中が勝負なところがあるので、明日の準備が大事なのだ。
その後は主に固定のお客さんが多く、たまに冒険者の人や貴族の人が来店するぐらいで、さほど忙しくない。
以前働いていた果物屋さんよりはまったりしている感じ。
一つ一つが果物屋さんよりだいぶ高いから、その分売る量は少なくても大丈夫みたい。
冒険者曰く、このお店の物は他より多少高い。
その分ちゃんとしたものだけれど、冒険者にとっては多少効果は落ちても安いものの方が喜ばれるんだとか。
ステラさんと一緒に店の奥へ行く。店主さんはウォードとの商談?のものはひと段落したのか、執務室で書類作業をしているので私もそれを手伝う。
アルが取り込んでくれた洗濯物の片づけはステラさんが向かった。
次にステラさんが来るのは二週間後なので、多分もふもふ補充してるんだと思う。
執務室の一つの時計が時刻を告げた。
音が出る時計は一つだけで、わざと十分進ませた時計。どういう仕組みかはわからないけれど、この音はお店の方にも聞こえる。
書類を片づけ、そんなにたたないうちにステラさんも戻って来る。
「ちょうどいい時間ですね。さて、なかなか渡せませんでしたが、リュウさん此方を」
そうに言ってステラさんが持ってきた服を広げた。薄浅葱色の仕事着だ。
「これは?」
「貴方の仕事着です。このお店に本採用になりましたしね。いつまでも私のお古というわけにもいかないでしょう。サイズが合っているかどうか試着をお願いします」
「……はい」
そのまま服を渡され、背を押された。
近くの空き部屋で着替える。
ステラさんのお古でも私にとってはかなり高級でいいものだから、このままでもいいと思うし、新しい仕事着必要なのかなぁと思ってしまう。
まぁ、さる令嬢はパーティの度にドレスを仕立て直すとか聞くし、貴族も来るこのお店では服装もチェックされているのかもしれないな。
ステラさんのお古も私には少し大きくて、やぼったく見えるのかもしれない。
店主さんはあまり表に出てこないし、ステラさんも月に数回しか来ない。
私がこの店の顔になってしまうのだから、私に合った服が必要なのかも……?
今着ている仕事着はメイド服というよりはどちらかというと看護婦の着ているものに近い。
新しい服に袖を通してみると、サラサラしてすごく気心地がいい。
ステラさんのお古も着心地が良かったけれど、それよりなんかちょっとしっくりくる感じ。
服の生地もちょっと硬めだ。
袖の長さはちょうどよく、スカートは今まで着ていたものより少し短くて動きやすい。
スカートは二層になっており、上の生地は無地で、下の方には刺繍が施してある。
刺繍はその他にも、袖口、襟にも施してある。
じっと刺繍を見ると、『防御』『汚れ防止』『形状記憶』と書いてあった。
……服に魔法陣が刺繍されてる!?この生地だけでも高価だと思うのに、さらにマジックアイテム化されているからさらに高価になってるよね!?
半年間研修?で本採用になって嬉しいけど、一つ一つの物が高価すぎて、私やっていけるのかって結構不安に陥るんだけど……。
でも、あと少しで私も成人。成人するのに働いたことがあまりないとか、このお店以外で雇ってもらうのはかなり難しいからここで頑張りたい……。
店主さんにはここが合わなかったら、別の所を紹介すると言ってもらえたけれど、ここよりいい職場はそうそう無いように思う。
服も化粧水も、お風呂もいただけて、仕事もかなりホワイト。
給料も高いし。
この仕事を逃すわけにはいかない!
このお店はこれが普通。郷に入っては郷に従え!!!
服を着替えただけだけど、気合を入れなおす。
着替え終わって、執務室に戻る。
「お待たせしました」
「動きづらいとかないかしら?」
「とても動きやすいです」
両手をぶんぶんと回す。
動きやすさを表現したつもりだったのだが、ステラさんはため息をついた。
そういえば、だいぶ前に仮縫いされた服をあわせたことがあった。
それはこの服を作るためだったのか。
「ならよかったわ。もう一着は脱衣所の棚に置いてあるから、二着を着まわして。足りなくなったら、今までと同じく私のお古を着なさい。今月中には揃えますから」
「え!?そんな何着もいりませんよ!?汚れ防止も形状記憶も刺繍されてましたし、すぐすぐ悪くなるようなことはなさそうですし!それに、私まだ育ちますし!」
特に胸とか!
拳を作って言えば、二人とも驚いた顔をした。
「リュウは魔法陣の文字も読めるのじゃったな。どれ、少しワシに見せてくれ」
店主さんが笑って言うので、私は袖口を見せた。
「ふむふむ。古精霊文字かの?綺麗に刺繍されておるな。これを魔法陣だとわかる者のはそんなにおらんだろうな」
「ええ。古精霊文字は文字が綺麗なので、飾り刺繍だと思われるような魔方陣にしたのですが、リュウさんは読めてしまうんでしたね」
……もしかして、普通読めないものだった?
私には普通に読めてしまうから、どれが一般の人でも比較的に読める文字で、読めない文字かわからない。
「リュウ、おぬしがこの文字まで読めるとは思わなんだ。もし、おぬしの家族も文字が読めるのであれば、魔法陣の文字を読めても口に出さぬことじゃな」
「……はい?」
「私が裏口に敷いた魔法陣、それにこのお店に施している魔法陣類のほとんどは精霊文字と、自然文字がほとんどなのです。学校で習う魔法陣に使う文字もほぼこの二つの文字です。他にも魔法陣に使われる文字は全部で五十種あると言われておりますが、それを扱うのも読むのも特別な魔法使い以外にはおりません。
特に、“古”がつく文字は未だに解読ができていない文字が多い。たまたま刺繍した文字があなたに読める文字だった可能性もありますが、読めると知られてしまいますと面倒なことに巻き込まれかねません」
今までいろんな文字を読んでもそんなこと言われなかったのに、この文字は重要な文字だったようだ。
「最近、貴族の中では服に魔法陣を解らないように刺繍するのが流行っております。ですので、お客様のお召し物に読める刺繍があっても口にしないように」
「はい」
いつになく、ステラさんが真剣に話す。
「この店にいる限りは、ワシがおるからの。ワシの保護下故大丈夫だと思うが、この店を出た後が問題じゃな。まぁ、何かあればカルにでもなんとかさせようかの」
「カルさんは今の仕事があるでしょう。もう学生ではないのですから」
家に帰ったら、みんなに話そう。
ねーちゃんとにーちゃんはわからないけど、リョウには私の知っている文字結構教えちゃったし……ぁ。近所の子たちにも教えちゃってるのもあるけど大丈夫かな……。
リョウほどは教えてないし、単語がいくつかだけだから大丈夫かな?
ねーちゃんに帰ったら相談しよう。ねーちゃん今日帰ってきますように。
店主さんとステラさんが話している間、私は頭の中で考えた。
「なに、リュウの姉上も手練れじゃし、そんなに心配せずとも大丈夫じゃよ」
店主さんが私の様子に気づいて、安心するように言ってくれる。
「ありがとうございます」
と、返したところで、疑問が出た。
「けれど、なぜそんな文字をこの服に刺繍したのですか?」
もしかして私はまたステラさんに試されたのだろうか?
試されたにしては、驚いていたし、真面目に注意してくれたようなきがするけど。
ステラさんを見ると、なぜかそっぽを向いていた。
「ははは。ステラはな、おぬしを心配しておったのじゃよ」
「心配ですか?」
「ああ。ワシはちいとばかし名が通っておってな、十年ぐらい前かのう?腕試しと言って、やんちゃな子が挑んできてな。目にしたステラに攻撃魔法を放ったんじゃ」
「攻撃魔法!?」
「そうじゃ。ステラが魔法を反し、こてんぱんに叩きのめした後、エクルとステラで説教をしてその場は収まったんじゃ。その後は店の部分に攻撃魔法弱体の魔法陣を張ったから大丈夫だとは思うんじゃが、心配だったんじゃろう?」
それで、防御の魔法陣も刺繍されていたんだ……。
「ステラさん、ありがとうございます」
「……この店の為ですからね。それに、服制作の御代はワトレイノイズ様より“アヤメ”に頂いております」
「!?これ、アヤメの服なんですか!?」
幸せになれるとうわさのアヤメの服!?
「そうですよ。私の夫が“アヤメ”のデザイナー兼職人だと申しましたでしょう?私の服、貴方の着ていたお古に、ワトレイノイズ様の服もほとんどランディー……夫が手がけたものです」
「魔法陣の刺繍はステラじゃがの」
「ワトレイノイズ様!」
店主さんの補足に、ステラさんが珍しく声を荒げた。
楽しそうに笑った後、店主さんは私にペンダントを差し出す。
「さて、これがリュウの身分証じゃ」
ペンダントを受け取ると、碧い宝石を使った綺麗な細工のしてあるものだった。大きさは二センチ程度。
「綺麗ですね」
果物屋さんの身分証は木の板に小さな宝石を嵌めたものだった。
今渡されたものは宝石店で売ってそうなほど洗練されたものだ。
「そういってもらえるとうれしいのう。久方ぶりに頑張ったんじゃ」
店主さんとステラさんに改めてお礼を言う。
本当にいいお店に雇ってもらったのだと、今更ながら実感した。




