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「リュウさんに対しては不思議と思う事ばかりです。私はある程度庶民の方とも交流がありますし、空島の学校でも多岐にわたる方と交流させていただきました。
庶民の間ではどうかはわかりませんが、皆様もご存じのように空島の学校には“魔力が少ない方”も数多く在籍しております」
「そうだな。僕も魔力が少ないのに……少ないからこその道具を発明する者がいて、興味を持ったんだ。その子は庶民……と言っても、商家の子だったけれど、僕には思いもよらないものを考えるからね。庶民の暮らしも興味あったしね」
「視野を広く持つこのはいいけど、その分俺やカルがとばっちりを食うんだよなぁ……」
フランさんの呟きに、ウォードさんは笑って流していた。
「商家の子であれば小さいうちから魔道具や魔法に接していた可能性もありますが、あまり接してこない子や、突発性で魔力が開花した方などは何をどうに扱えばいいのかわからないのです。何がわからないのかわからない状態を言えばいいのでしょうか。
魔法陣を前にして、どうに魔力を流すべきか、その魔法陣はどういった効果を生むのか、いくら言葉で説明しても実際にやってみないとわからないはずなんですよ、通常は」
例えば、スマホを渡されたとして、それで電話ができるよ、メールも送れるよ、ゲームもできるし、動画も見れるよって携帯を持ったことのない人に渡して口で説明してもなかなか伝わらない感じかな。
ここにあるイラストがアイコンで、ここをタップするとこうなって……とか、言葉と一緒にやって見せないとなかなか伝わらないもんね。
……今、おばあちゃんに電話の掛け方を教えたのを思い出したけど、今世には私にはおばあちゃんはいないし、そもそもスマホもないからこれは前世の記憶だな……。
スマホは何かを、ここの人達に口頭で説明しろって言われてもきっと伝わらないし、伝え方もわからないな……。
……ってことは、もしかして……。
「最初は髪を乾かす魔法陣の説明をしましたら、リュウさんはすぐに理解しました。あの魔方陣はそこそこ特殊なものにもかかわらずです。あの時はほぼ初対面でしたし、とりあえず頷いておこうって思ってるものだとばかり思ってましたから、シャワーが終わったころに様子を見に行こうと思っていたのですが、接客がありましてね。
そうしたら、リュウさんは着替えて、しっかりと髪を乾かした状態で来ました。少々驚きました。
その後も、魔道具や魔法陣は口頭で教えただけですぐに理解したのです。このお店にはかなり多くの魔道具や魔法陣があります。このお店にしかないものもあります。
けれど、どれもリュウさんは殆ど一回で覚えましたし、わからないものは一度やって見せるとすぐに理解できたのです。
魔法の使い方を知らないとわからないはずのものを自然と使えるのが、とても不自然でした」
ですよね!
さっき、行動も変に古めかしいって言われてたし、魔力は小さいのに魔法の使い方はわかるし……さぞ私は怪しまれたんだろうなぁって伝わってくるわ……。
なんだか喉が渇くので、紅茶を一口。
この紅茶は温かい時と冷えてくるときとで香りが違ってくる。温かい時に飲むのもおいしいけど、冷やして飲むものおいしい紅茶だ。
ちょっと紅茶に現実逃避。
「不自然でしたが、このお店は魔法陣や魔道具を使えないと仕事にならないことが多いので、仕事を教えるのはかなり楽でしたね」
「魔力は小さいし、魔道具や魔法陣にはあまり接してこなかったのに使い方がわかる……これだけ聞くとかなり怪しいな」
フランさん、私もステラさんの話を今聞いて客観的に怪しいなって思った。
「それに、彼女の所作は僕が知っている令嬢たちとも微妙に違うしね」
かなり私怪しいね!今初めて知ったけど、言葉だけを聞くと怪しいって自分でも思うよ!!
でも、いったいどれが怪しい所作とかなのかはさっぱりわからない。
所作に関しても私が知ってる所作をしてるし、ここの魔法陣や魔道具は私じゃない私が知ってるものばかりだし。何も不思議に思わなかったんだよね。
髪を乾かすのも「ドライヤーですね、わかります」ってかんじだったし。
魔法が展開する理論はわからないけれど、使い方は知ってる。
理論とかわからないから自分で作ることはできないけど、使い方は知ってるんだよ。
それはかなり周りから見たら不思議に映るのかもしれないけど……。
「しかもリュウさんは、それがリュウさんの中では当たり前のことで自然なので、自分が特殊なこともわかってない……」
「なんか……すみません……」
ふぅとため息をついたステラさんになんとなく謝っておいた。
いらない心労を負わせてしまったようだし。
「いえ、むしろそれで怪しんでしまって、貴方に内緒であなたを調べてしまったわ。ごめんなさいね」
「調べても何も出てこないと思うので、むしろありがたいです」
本当に何も怪しいものは出てこないから、調べるのにお金を使わせてしまってちょっと申し訳なく感じてしまう。
「何もなかったのか?」
ウォードさんはちょっと不思議そうにステラさんを見てる。
っていうか、何かあると思ったのかな、その口ぶりは!
こんなどこにでもいる一般人なのに……。
「ええ。夫のつてを使った調査だったのでかなり情報は正確かと。何も怪しいものはなかったですね。リュウさんから最初に聞かせてもらっていた、お姉さまに拾われた以前の記憶がないということも本当のようですし、その頃に貴族の中でも行方不明になった令嬢もおりません。
それに、リュウさんのお姉さまのことですから犯罪に加担することはまずないですね」
「リュウの姉上は信頼のおけるものなのか」
「はい。かなり」
「え、ねーちゃんと会ったんですか?有名なんですか?」
私が聞くと、ハッとステラさんが私を見て、ゆるく笑った。
「そうですね。お姉さまとは直接お話もさせていただきました。その件に関しましては、お姉さまがじきに話すでしょう。私の口から話すようなことではありません」
「そう……ですか……」
ねーちゃんのこと本当に知らないからなぁ。
でも、貴族の間でも結構有名なのかな?
気になるけど、じきにってことは近いうちにねーちゃんが話してくれるはず。
「リュウの姉上の事も気になってきたな」
「坊ちゃん、好奇心は猫をも殺すってご存知ですか?」
「知らないままでいるより、知っていた方がいいだろう?ステラ、僕にはあとで教えてくれ」
「はい、了解しました」
私には教えないけど、ウォードさんには教えるのか……。もしかして、ねーちゃんから口止めされているのかもしれない。
「じゃぁ、その記憶がないって頃に魔法によく触れていたんじゃね?」
「その可能性はありますね」
「お前は何か覚えてねぇの?」
カルさんが私を見て聞いてきたので、私は首を横に振った。
「まったく覚えてないです。私が覚えている記憶はねーちゃんとにーちゃんと暮らし始めた時が始めですし、それにその記憶がなくても何も不自由はなかったので」
ふと、言葉を区切り、カルさんを見る。
「すみません。私はリュウです。名乗ってませんでした。……って、あれ、貴族には下の者から名乗っちゃダメでしたっけ……」
今更だけどね!
なんか、そんなようなマナーがあったような気がする。
「ここはそういう格式ばったところじゃないからね。気にしなくて大丈夫だよ。僕としてはリュウと友達になりたいから、呼び捨てでも一向に構わないよ」
「さすがにそれは……」
ウォードさんが笑って言ってくれるけど、何度か殿下ってステラさん言ってたし、呼び捨てとかできない……。
「最初にウォードがここは友人と気軽に話す感じにしたいって言ってたしな。俺はキャルヴィン・アウグスティン・ワトレイノイズ。この店の主人とは血縁関係だな。カルでいい」
「よろしくお願いします、カルさん」
私がそうに呼ぶと、カルさんがめちゃくちゃ眉間に皺を寄せた。
え、私なんか変なこと言っただろうか……。
「俺の事を“カルさん”って呼ぶのは、ステラか怒った時のばあちゃんだからやめてくれ。カルでいい」
「……えっと、じゃぁ、カル……」
本当に呼ばれるのが嫌みたいなので、お言葉に甘えることにする。
カルを呼び捨てにしたことで、ウォードさんが僕の事も呼び捨てでと言ってきたので断っていたのだけれど、結局推しにまけて呼び捨てにすることを承諾した。
「皆さんはこうやってお茶をすることとかあったんですか?」
気になっていたので聞いてみると、みんな首を横に振った。
「僕がここを訪れる時はメイワナ夫人は休みの時だね」
「ええ。私もここでウォード様にお会いするのは初めてです」
「確かに、俺も坊ちゃんについて何度かこの店に来たけどいなかったな」
「エクルが気を利かせた……いや、エクルは僕をからかって遊びたかったから、メイワナ夫人をあえてメイワナ夫人を休みにしたんだろう。
エクルはメイワナ夫人を可愛がっていたからね」
「エクル様が?」
「ああ。幻滅されたくなかったんだろう」
「そんな幻滅だなんて……」
「って、そうだ。じぃちゃんとばぁちゃんは?」
カルが少し会話に間ができたところを見計らって声を出した。
「ワトレイノイズ様は自室に行ってると思います。エクル様は旅立たれました」
「は!?」
ガタッとカルが立ち上がる。
「旅立った?」
「ええ。一昨年の春先に」
「なんで、言わない!?」
「そうに騒ぐからです」
「カル、僕もさっき知ったんだよ」
「俺もだな。冒険者の間でもエクルが旅立ったなんて話題に出てないから、まだ知ってるのは一部だろう」
カルが睨むように他のメンツに視線を向けると、ウォードもフランさんも知っていないと主張した。
「エクルの力を借りるような事態に陥ってないから知らない人が多いんだろうね。最近隣国が少しきな臭いから、アウグスティンまで連れて行かなくて良かったよ」
「……わかったよ」
「うん。カルもだんだんわかってきたね」
ウォードは暗にエクルさんの後を追うなよってカルに言ったんだと思う。
カルが椅子に座りなおすと、満足げに紅茶を飲んでいた。
その後は当たり障りのない話をして解散となった。




