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お気に入り、誤字報告ありがとうございます。
ゆっくり展開ですが、少しでも楽しんでいただけたらうれしいです。
カルさんは何か少し怯えたように、ステラさんを見た。
ステラさんは笑顔だ。その笑顔は完全に貴族の仮面をつけたような笑顔……。
「お客さんがいたり誰かが見ていたらどうするんですか?貴方は仮にも殿下の近衛なのですよ?」
「別に、俺が望んだわけじゃ……」
「貴方が承諾したのでしょう?」
「そうだけど……」
「貴方の行動は、貴方の主人につながるんですよ。大体カルさんは……」
ステラさんはとうとう、カウンターから出て、カルさんを叱りだした。
“今度会った時に言おうと思ってた”ことが沢山あるみたいで、声を荒げているわけではないのにステラさんの声がよく聞こえるし、私が言われているわけではないのに私もちょっと怖い。
カルさんはいつの間にかその場に正座してるし。
それに、ステラさんさらっと殿下って言った?いや、言ってなよね。私の聞き間違いだよね。
私が知っていい事じゃないような気がするし。
仕事をしよう。仕事。
えーと、センブル商会にドダーミを二十個……。
できるだけ後ろの言葉を聞かないようにしつつ、仕事を進めた。
自分の任された仕訳を終え、ステラさんの方の書類を見たら、ほとんど仕分けが終わっていた。
私が役所に行っている間にかなり進んでたようだ。
先月受けた注文の仕分けが終わったところで、植物室からウォードさんとフランさんが出てきた。
「なんだか、面白いことになってるね」
「ウォード!」
その声にすぐにカルさんが立ち上がって、ウォードさんのもとに行く。まさに救世主といった感じなんだろうな。
カルさんがちょっと涙声なのはきっと気のせい。
「まだ話が終わってませんよ」
「メイワナ夫人、今回はこのくらいで許してやってくれ」
「……ウォード様が言うのであれば仕方ないですね」
ステラさんがため息をつき、カルさんは安堵の息をついた。
「良い話ができたようですね」
「嗚呼。アウグスティンは素晴らしいな。また家で勤めてほしいがそうもいかないのが残念だ」
心底残念そうにウォードさんが言えば、ステラさんは苦笑を返していた。
ウォードさんはそのまま私を見る。
「リュウ、メイワナ夫人、お茶にしよう。アウグスティンから許可はいただいたよ。ああ、仕事の方は大丈夫かい?」
ステラさんからも私の方に視線を送られたので、私は頷いた。
「はい、大丈夫です。それに、でん……ウォード様のお誘いに、ワトレイノイズ様に許可を頂いているのであれば断ることもできませんしね。皆さんは応接室でよろしいですか?」
「ああ。問題ない」
「では、ウォード様とフランはまた戻っていただくことになりますが、よろしくお願いします。カルさんはお茶のお手伝いを。リュウさんは看板を反してから応接室へ」
「わかった」
「わかりました」
返事をして、各々に動く。
応接室。
椅子はあるけれど、どうに座るのかが問題だった。
二人かけのソファーは二脚しかない。店主さんは準備があるとかで席を外しており、残るは五人。
ウォードさんはソファーに座るとしてもどうに座るべきか……。
椅子を一脚出してそこに私が座った方がいいかな。みんな知り合いだろうし。
そんなことを考えながら応接室に入ると、ウォードさんとフランさん、カルさんが部屋の端の方に立っている。
「ウォード、これはどういう趣旨だ?」
「友人と気軽に話す感じにしたいんだ」
「わかった」
お茶菓子を片手に持ったカルさんが、杖を振る。
杖の先からキラキラした光が椅子や机にまとわりつき、勝手に動き出す。
四角のローテーブルは丸いテーブルになり、ソファーは部屋の端へ。
一人がけの椅子が五脚、丸いテーブルの周りに均等に配置された。
丸いテーブルの上には浅黄色のテーブルクロスまでかかっている。
いやいや、なんで四角いテーブルが丸くなるの!?
それに無詠唱!?杖振っただけ!?
ステラさんもよく重いものとか運ぶときは魔法を使うけど、何時も短い詠唱はしてるのに!
店主さんは杖も詠唱もないけど、それは特別ってステラさんが毎日のように説明してくれたものの、カルさんって私と同い年ぐらいだしそんなすごそうな人には見えない……。
このお店にはいろんな魔法があふれているけど、それは前世で機械がやっているみたいなことばかりで、机の形を変えたり、一気にいろんなものを動かしたりとかこんな魔法っぽい魔法は初めて見た……。
私はぽかーんとその様子を見ていた。
カルさんはテーブルの中央に持ってきたお菓子を置く。
「どうした?」
応接室の入り口で止まっている私にカルさんが声をかけてきたので、我に返る。
「カルの魔法を見て驚いてるんじゃないか?」
「別に、こんなの誰でもできるだろ?」
フランさんの言葉にカルさんがさも当然のような言葉を返した。
これが、誰にでもできる……?
「ああ、そうか。うーん。カルはもうちょっと視野を広く持てって僕は言ってるよね?」
「魔法使えるやつなら、できるだろ?フランだって、ウォードだって、ステラだってできるだろ?」
「残念ながら、僕もフランも特殊だし、メイワナ夫人は首席卒業の魔力の持ち主だしね。それに、リュウは魔法あんまり使えないんじゃないかな?」
私は首を上下に振る。
「お前、魔法使えないの?ここで働いてるんだろ?」
「ここで働かせてもらってますが、魔力は小さいです。小さい明かりを少しだけ出せるぐらいで……」
「は?」
カルさんの出した声が低かったので、びくっと体が震えた。
「本当に?」
「はい」
「じいちゃんとばあちゃんにステラは何を考えてんだろうな……ウォード、やっぱり俺はこの店を……」
「まだお説教が足りませんか?」
「ひぃ!」
お茶の用意をしてきたステラさんが入ってきた。
カルさんはステラさんに頭が上がらないらしい。
「カルさんはこのお店の中の人ではないので、いくら血縁だからとお店の中の事に口出しはしてはいけません」
ステラさんが着たことで、最初にウォードさんが、ウォードさんの両隣にフランさんとカルさん。
私はステラさんのお茶出しを手伝ってから、フランさんの隣に座る。ステラさんは私とカルさんの間。
最初ステラさんが座るのを拒否していたのだけれど、ウォードさんが「この場では気軽な関係でいてほしい」と説得した。
そして話は、お茶を出すために遮られた続きだ。
「リュウさんは魔法が使えなくても問題ないんですよ。魔法が使えなくても、魔法の使い方がわかっているので」
「ほほう、メイワナ夫人それは興味深いね」
「ウォードがこんなに興味を持つのは珍しいな……こいつにそんな魅力あるのか?」
「嬢ちゃんにとっては迷惑そうだけどな」
私はよくわからないので、首をかしげるばかり。
そんなに興味を持つような人間じゃないと思うんだけどな。
ちょっと昔の記憶があるから不思議な行動を知らないうちにしちゃってるのかもしれないけど……。自分でもわからないし、ねーちゃんにもにーちゃんにも、近所の人にも何も言われなかったけどなぁ。
庶民と貴族の違いなのかもしれない?
ウォードさんは面白そうに、カルさんは怪訝そうに、フランさんは同情するように私に視線を向ける。
「カルは魔法を使えるから、魔法の使い方はわかるだろう?もちろん、僕もカルほどではないにしろある程度魔法を使えるし、フランだってずっと魔法に接してきたし、それなりに魔力はある。けれど、リュウは身近に魔法があったわけではないのに、使い方がわかるんだろう?」
「ウォード様の言う通りですね」
「……ああ、そうか。俺たちにとっては当たり前にあった魔法の道具や、魔法の使い方でも、嬢ちゃんは魔力も小さければ、魔道具があるわけでもないということか?それとも、嬢ちゃんの家には魔道具がたくさんあるのか?」
私首を横に振った。
「いえ、うちにある魔道具は時計と、小さな明かりがつくやつだけですね。自身の魔力をあまり必要とせず、小さな魔石に魔力を留めておく魔道具です。安価で庶民でも買えるようなものしかありません。あとは、共同お風呂にはいるとき、水を温める魔石ぐらいです」
「ふむ。それでは確かに不思議だな」
……えっと、何が不思議なんだろう?
私はわかることしかわかんないし……。
「わからないって顔をしてるね。うーん、僕が話すとどうしても憶測になってしまうから、メイワナ夫人からその不思議を説明してほしいんだけれど、いいかな?」
「了解しました」
視線をステラさんに向けると、少し考えるように間をおいてから話し出す。




