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「その声は、坊ちゃん!?」


 フランさんの横から、顔を出すのは人形のように綺麗な人だった。

 サラサラの金の髪をゆるく後ろでひとまとめにし、上等な服を着ている。フランさんの肩に置かれた手もとても綺麗な手をしていた。

 貴族か、裕福な商家の息子っぽい。

 私より、少し年上のような感じ。

 その人は私を観察するように見ている。


「坊ちゃん、次の休みは娘と遠乗りする約束をしているんだ……」

「それは残念だね」


 フランさんの言葉に、坊ちゃんはにこりと微笑んだ。


「そこのお嬢さんを連れ去ろうとしていると思われて、通報されかけたんだよ?僕がその前に防いだけれど」

「それは、感謝しますけどね」


 やっぱり、通報されかけていたのか……。

 フランさんはなんだか苦虫をかみつぶしたような顔をしている。大分悪人面だ。

 こんな裕福そうな人の騎士を務めているのだから、フランさんも裕福な家柄の人なのかもしれない。冒険者を志していたので、三男とか四男……もしくは、庶子なのかもしれない。

 この場から立ち去るのも、失礼かと思い二人の話を聞き流しながら別の事を考えていると、翡翠色の目が私もとらえた。


「で、君はフランの知り合い?それとも、本当に連れ去られそうになってたの?」


 私は勢いよく首を左右に振った。


「違います!」

「フランの知り合いじゃないってこと?」

「そっちではなくて、えっと……フランさんに会うのは二回目です。でも、連れ去られそうになっていたわけではありません」


 坊ちゃんは答える私を見て、びっくりしたような顔をした後、にこにこしている。


「うん。なかなかよさそうな子だね。僕と友達になろう!」

「なんで!?」


 思わず突っ込みを入れてしまった。

 口元を抑えるが、それには面白そうに笑うだけ。

 今の会話からなんでそうなった!?

 坊ちゃんの横にいるフランさんは、あっけにとられている感じだ。


「とりあえずは、ご飯食べようか。お店の前で大分邪魔になっているしね?」


 その時、十二時の鐘が鳴った。


「ちょうどいい時間だね。今を過ぎると途端に混みだしてしまう」

「あ、ちょっと待ってください」

「なんだい?」


 今十二時の鐘が鳴っている、ここからお店に戻るのには三十分はかかる。

 ご飯屋さんに入って、注文してご飯を食べてってなると三十分ではできない気がする……。

 富裕民の誘いを断るのは、人によっては罰を与えられる可能性もあるけれど、この人達なら大丈夫だと思う。

 友達になろうって言ってくれているような人だし……?


「すみません。一時にはお店に戻らなければならないので、お店に入ってご飯食べている時間がありません」

「お店?」

「はい、私の働いているお店です。ここから三十分ほどかかるので……」

「そうか、では君が働いているお店に行こうか」

「え? 食べ物屋さんではないですよ?」

「なら、君は昼食をどうするんだい?」

「屋台で何か買って、食べ歩きかな、と」

「それも面白そうだな。食べ歩きもしてみたいと思っていたんだ」

「ここのお店に来るのが目的と、フランさんからお聞きしましたが……」

「君と話す方が面白そうだからな」


 あー……これは断っても、何かしら理由を突けて結局一緒についてくる系のやつだ……。


「坊ちゃんは言い出したら聞かないからなぁ……」


 フランさんが小さくつぶやいている。

 一つため息をついてから、坊ちゃんを見る。


「わかりました。それでは、行きましょう」

「ああ。頼む」


 お店には珍しいものがあるから、もしかしたらたくさん買って売り上げにつながるのかもしれないしね。

 なんてことを思いつつ、屋台で歩きながらでも食べれる、ミートパイのようなものを購入し歩きながら食べる。

 フランさんが坊ちゃんに食べ方を教えていたりする姿はなんだか微笑ましい。

 まったく似てないけれど、兄弟みたいだ。それこそ、兄ちゃんとリョウみたいな。


「なかなかうまいな。毎日は食べたくはないが」

「俺は毎日でも大丈夫だな」

「脂っこいですからね。私もたまに食べるのは好きです。これ結構高い分類の方なので、毎日なんて食べれませんけど」

「そうなのか?君はよい仕立ての服を着ているだろう?」


 ああ、そうか。よい仕立ての服を着ているから、私も裕福な人だと思われたから友達になりたいと言ってきたのか。

 そうだよね、そうじゃなきゃ、庶民と友達になり隊なんて言う人はめったにいないしね。

 だとしたら、最初に言っておいた方がいい。

 あとで庶民だとわかったら、突然態度を変えられたりする方がきついし。

 ステラさんも店主さんも貴族だけど、そんなに偉ぶってないし、庶民の私にも優しくしてくれるいい人だ。けど、そういう人の方が稀だ。

 貴族のお手伝いさんがたまに買いに来ることがあるけれど、その時は結構バカにされているような感じがする。一部の間で、庶民の子を雇ったって噂されているみたいだし。

 貴族の人が直接買いに来ることは少ないけれど、貴族のお手伝いさんがこの態度ということは貴族もそういう態度をしている人なんだろうと思ってしまう。

 仕事着が上等な服なので、多分庶民だとは思われて無いと思うけれどね。

 今みたいに勘違いしている人が多いんだろうなぁ。

 そう思うと、服って大事だ。


「いえ、私は貧乏寄りの庶民ですよ。焼きたてのパンは週に一回ぐらいは食べれるので、そこまで貧乏ではないですが。この服は、お店の支給品で私がふだん着ている服は、結構ぼろぼろの服ですね」


 十字路で立ち止まる。

 坊ちゃんもフランさんも立ち止り、私を見た。


「申し遅れました。私は、リュウと申します」


 仕事着のスカートの部分を片手だけ摘まんで、腰を折る。

 もう片手には荷物を持っているので両手ではできない。

 実は、ステラさんからカーテシーとかも教わってる。前世の記憶があるから、二回目には完ぺきなカーテシーができるぐらいにはなっているのだ!

 まぁ、披露する場所なんてないんですけど。ステラさんがもしもの為にって教えてくれたんだけどね。


「ああ。本当はこちらから名乗らねばならなかったな。僕の事はウォードと」

「ウォード様」

「ウォードでいいよ」

「では、ウォードさん。ちょっと気になることがあったのですがいいですか?」

「まぁ、いいか。なんだい?」


 ちらりと、フランさんを見る。私の視線の意味を理解していないようだ……。


「先ほど、フランさんから聞いたのですが、もう一人護衛の方がいるのでは?」


 私の言葉に、二人は、あっ…っていう顔をした。


 もしかしなくても完全に忘れ去られてたっぽいな……。

 あきらめたようにウォードさんがため息をついた。


「連絡をするよ」

「とうとう、カルも坊ちゃんにまかれたか……」

「まくのもだいぶ苦労したよ。多分次の時にまくのは無理かもしれない」

「できればまかないでほしいんですがね!?」

「仕方ないだろう?フランと一緒だと、話し相手が怖がってしまうのだから」

「俺を巻く理由はなんとなくわかりますが、なぜカルまで?」

「面白いからだな!」


 カルという人が、もう一人の護衛の人なんだろう。

 面白いと言い切るウォードさんはいっそ清々しい。


「リュウ、君のお店の名前を教えてくれるかい?」

「はい。“魔法の薬屋さん”です」

「そのお店なら、カルもよく知ってるから大丈夫だね」


 ウォードさんはギュッと両手を自分の前で握りしめ、開くと手の間から鳥が飛んで行った。

 手品!……じゃなくて、魔法だ!!

 鳥はどこかに飛んで行った。

 やはり、富裕民には魔力が備わっている人が多いんだなぁ。

 ウォードさんは、商家の息子とかじゃなくて、貴族なのかもしれない。

 ただ、名前……多分愛称……しか教えないということは、貴族としてふるまいたくないっていう事なのかもしれない。


「私はお店の裏から入らなければならないので、こちらの道を着ますが、お二人は表から入ってください」

「わかった」

「お店の場所は……」

「“魔法の薬屋さん”だろう?何度か行っているからわかる」


 私がいるときには見かけたことがなかったから、一年ぐらい前に来たのか、もしくは私が休みの時にきたのか……。

 この人たちが誰なのか、店主さんやステラさんならわかるかもしれないな。

 一応お店についたら、話しておこう。


 ただ、ウォードさんもフランさんも私が庶民だって言ったのに、変な顔とかしなかった。

 それには、そっと胸をなでおろした。

 フランさんは冒険者としても活動しているみたいだから、そういうのはあんまり気にしないのかもしれない。ウォードさんもそんなフランさんの主人だからおおらかなのかなぁ?

 人の話はあんまり聞かないし、なかなか強引な主従だけど……。

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