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 お店にも、仕事にもだいぶ慣れてきた。

 私が慣れてくると、ステラさんがお店に来る日数も減った。今月は週に一回来てくれるが、問題なさそうであれば、来月からは月に三回しか来なくなる。

 ステラさんにはいろいろと教わった。

 半年はお試し期間だと言われたが、つい先日、店主さんとステラさんに今後もここで働く気はあるかと再度聞かれて、私は「働かせてください」と答えた。

 本決定となるので、月初めに書類を渡すことにする。その時に、身分証を渡すと言われた。


 今日はステラさんと一緒の仕事の日だ。

 朝、シャワーを浴び終わると、脱衣所の扉をノックされたので返事をする。


「リュウさん、大丈夫かしら?」

「まだ、服は着てないですが、下着は着てます」

「ちょうどよかった」


 そういって、中に入ってきたステラさんは服を持っているようだった。


「これを着ていただける?」


 渡された服は、服とするには随分と縫い目が荒く、ゆるかった。

 これは、仮縫いしてある服ってことかな?

 ステラさんは何か印をつけて、つけ終わると、服を回収して去っていった。

 一体何なんだろう?


 私がつける化粧水は、いろいろ試した結果、一つに落ち着いた。

 姉ちゃんも私と同じもので、兄ちゃんは別。リョウも別物。

 化粧水の料金は私の給料からひかれる。

 家族からはなくてもいいって言われたんだけど、やっぱり、化粧水をつけるのに慣れてしまうと、化粧水をつけないとお肌が突っ張るような感じがする。

 それに、お店に置くよりもだいぶ安くしてくれているので私の給料からひかれても、問題ない。そもそも、もらっているお金が多いし……。


 この化粧水も、何種類か店頭に置いている。

 貴族が使うものは花の香がついているらしいが、店頭に置いてある化粧水はあえてにおいはつけていない。

 その分安く販売できる。庶民でも普通に買うことができる価格。

 香りもなく(薬草の香は残っているけど)、安いということで冒険者の女性にかなり人気。


 化粧水も結構色々作っていたみたいだけれど、私に合う化粧水ができたら、店主さんはパタッと試作品を作るのをやめてしまった。

 ステラさん曰く、飽きたんだろうとのこと。


 そういえば、このお店が空島と街とつながっているのは、魔法で扉をつなぐ指定をかけたと言っていた。魔法にはいろいろ指定と条件なんかが必要で、それをなんやかんやするらしい。

 三回ぐらい説明されたけど、まったくわからなかったので、そういうものだと思うようにした。

 店主さん的には街だけの営業にしたかったみたいなのだけれど、空島の人たちの強い希望から扉をつなぐようにしたと言っていた。

 そういえば、ステラさんから、「ワトレイノイズ様は本当にとてもすごい人なんですよ!」って

耳にタコができるぐらい聞かされた。


 最初私に冷たい態度をとっていたのも、数年前にステラさん一人で店を回すのは大変ということで、街の少年を雇った。

 その少年は、人のいない時を見計らってお金を盗み、それが店主さんに見つかると、店主さんを殴ったのだという。

 店主さんのことが大好きなステラさんにはそれが許せなかった。それから、庶民に対する態度が厳しくなったと言っていた。


「リュウさんで良かったです。まじめですしね」


 そうつぶやいたステラさんの言葉は本当の言葉だったと思う。

 ずいぶん柔らかく接してもらえるようになった。


 ステラさんがお店を近いうちにやめる理由も聞いたら、旦那さんとの間に子供を作るためだと言っていた。

 子供ができたら、お店には来れなくなってしまうが、それまでは月に三回は来ると言ってくれたので、私的には安心だ。

 やっぱり、貴族のお客さんが怖い時があるし。




 ちりりんと鈴が鳴る。

 この鈴は空島のほうのお客さんだ。


「いらっしゃいま……」

「君が、リュウかい?」


 滑らかな動作でお店の入り口から一気にカウンターまで距離を詰めてきた。

 豪華な服に身を包み、きらびやかな帽子をかぶって、さわやかな笑顔を浮かべ、優雅な動作で私に聞いてきた。


 ……なんかすごい人が来たなぁ……


「はい。リュウと申します。失礼ですが、どこかでお会いいたしましたか?」

「あったことはないが、私は君を知っているよ!話は聞いていたが、一度会ってみたかったんだ。よく言うだろう?百聞は一見に如かず、とね!!」

「……は、はぁ……」


 もしかして、この店に庶民の私が店番をしているというのが貴族の間で話題に上がったりしたんだろうか?

 お客さんは私をじろじろと見てくる。

 回ってみてと言われて、よくわからないがその場でくるりと回った。

 無理難題を言われるなら、店主さんを呼ぶがそれ以外は自分で何とかしなければならないし、それにはあまり貴族には逆らわない方がいい。

 ステラさんはこんな時に限って、洗濯物を畳に行ってしまった。

 なんかよくわからないポーズの注文をされて、その指示道理に動く。


 ステラさぁああんん!早く帰ってきてぇえええー!!!!!


 こんなお客さんは初めてだ。

 新しいお客さんも来ないし、どうすればいいんだろうか……。

 困惑していると、後ろの扉が開く。


「え、なにしてるの!?」

「ステラ!!!なに、一度実物を見ないとと思ってね!」

「今日の朝何も言ってなかったじゃない!」

「ふふ、何事にも驚きは必要だろう?」

「いらない驚きだわ」


 ステラさんの知り合いらしい。

 長い溜息の後に、ステラさんが私に向き直る。


「私の夫のランディーよ。ランディー、こちらがリュウさんよ」


 紹介されて、改めて挨拶をする。

 ステラさんの旦那さんなんだ。ちょっと意外……。


「ランディー、気が済んだでしょう?もう帰りなさい。どうせ仕事の途中で抜けてきたのでしょう?」

「息抜きって大事だろう?」

「……キーオンに怒られたくなかったら、早く戻ることね」

「ぐっ……別に、キーオンが怖いわけではないが、そろそろ戻ることにしよう」


 そうに言って、お店を出ていった。

 嵐のような人だったなぁ……。


「ごめんなさいね、騒がしい人で」


 謝るステラさんに私は首を横に振った。


「いえ、楽しい人でした。お仕事はお店とか、領地とかですか?」

「あら、言ってなかったかしら?“アヤメ”のデザイナー兼、職人なのよ」

「“アヤメ”って、あの!?」

「それがどれを指すかわかりませんけれど。多分あってるわね」


 “アヤメ”と言ったら、庶民でも知ってるぐらい有名なファッションブランドだ。

 美しくて斬新なドレスを作ることで脚光を浴びたが、一番の特徴は、その女性に合った最高のドレスを作ってくれること。

 刺繍もレースも一切の妥協はなく、ドレス自体が芸術品。通常そういうドレスはドレスに着られている感が否めないのだが、“アヤメ”のドレスは女性を美しくしてくれる。

 更に“アヤメ”のドレスを着た人は幸せになるという噂もあり、だれもが手に入れたいドレスなのだ。

 貴族でも頼んで作ってもらうのには随分苦労するらしい。

 それほど人気で、有名なブランドだ。


「……すごい人なんですね……」

「いろんな意味でね……」


 その後は通常に仕事をし、帰宅した家族に、“アヤメ”の人にあったという話をした。

 兄ちゃんとリョウは興味なさそうにしていたが、姉ちゃんとは話が盛り上がり、いつか着て見たーいと夢を膨らませたのだった。


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