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15 とあるお屋敷にて

リュウではない人の話

 空島でもさらに一等地にそのお屋敷はあった。

 まるでお城のように大きなお屋敷は、絢爛豪華。

 限られた土地しかない空島で、広い庭も持っている。

 この国の宰相を務める、公爵の屋敷だ。

 公爵には、長男、二男、三男、長女、四男の五人の子供がいた。

 目を見張るほどの美しさはないものの、整った顔立ちをしている。

 長男と四男は三十歳、年が離れている。

 公爵が浮気をした子ではないかと一部で囁かれていたが、高齢の出産であったため、王家ゆかりの有名な産婆に取り上げられたので実子であることが証明されている


 五人兄弟の唯一の女の子である長女は、大切に大切に育てられた。

 大切に大切に育てられてしまったので、彼女は勘違いをしている子だった。

 世界は自分中心に回っていると勘違いするぐらいに、傲慢で、高飛車な子だった。

 余所の者たちからも、使用人にも強欲のお嬢様と蔑まれるほど。

 長女が悪目立ちをしているため、一番下の四男は全く話題に上がらない。


 五歳の時に、この国の第三王子に一目ぼれをし、駄々をこねて、こねまくって婚約者の地位を奪い取った。

 王妃教育もしっかり行っているが、第三王子の婚約者ということで、傲慢さに磨きがかかってしまった。自分の地位をかさにほぼすべての人を傲慢な態度で軽視していた。

 王子もそんな少女を避けるようになっていった。


 しかし、そんな少女に転機が訪れる。

 王子と婚約してから一年たった時、三番目の兄が妻を紹介しに来た。

 三番目の兄は成人すると同時に家を出て、騎士になった。そこで知り合った女性と結婚した。

 兄が惚れ込んで頼み込んで、フラれてもめげずにずっとアタックして射止めた女性。女性は仕事を辞めないことを条件に結婚を承諾した。ほだされたといっても過言ではない。


 少女は初めて三番目の兄の妻と会うことになった。

 背は兄より頭一個分低く、すっきりしたスタイルのドレスを着ている。どことなく中性的な容姿だが、すごく綺麗な女性だった。淡いクリーム色のストレートな髪がさらりと揺れて、意志の強い碧の瞳はまっすぐ少女を見た。

 あまりの綺麗さに、兄がもうアタックしたのも頷けた。

 が、その女性の一言目がひどかった。


「性格が悪いのが目に見えて分かるな」


 そうに言われたのだ。

 かわいい、かわいいと言われて生きてきた少女には最初何を言っているのかわからなかった。


「申し遅れた、私はライリー・サンダルフォン・シストア。あまりよろくしくしたく無いので忘れてもらっても構わない」

「……ライリー、もうちょっと言葉を……」


 あまりの失礼な態度に、真っ赤になって怒りでプルプル震えた。


「な、な、なんなんですの、あなた!!それが、義理の妹に対する態度ですの!?それに、その喋り方は一体なんですの!?まるで男性のような喋り方ですわね!品がありませんわ!!

 サンダルフォン伯爵家と言えば、過去の大戦で活躍した方ですが、南の土地に感化されておかしくなってしまったのではありませんか!?」


 まくしたてるように一気にはむかうと、ライリーは驚いた顔をしたのち口の端をあげた。


「ほう。甘やかして育てたのにしては、しっかりと勉強をしているのだな」

「当り前ですわ!第三王子の婚約者ですのよ!!」

「そうだな。しっかりわかっているのに、実に残念だ」

「お兄様!あなた、いったいどういう……」

「アラベア、今は私とあなたが話しをしているのだろう?」

「あなたに、名前を呼ぶことを許した覚えはありませんわ!」

「マナーもわかっているじゃないか」

「わかってますわ!」

「ではなぜ、使用人や他の貴族に……公爵家より下の階級のものに傲慢な態度を取るんだ?」

「傲慢?傲慢な態度など取っておりません!」


 ライリーはふぅとため息をつき、兄や父に目配せをした。頷きを返されれば、口を開く。


「ルトベイ家のお嬢さんのドレスをダメにしただろう?」


 少女、アラベアはライリーの言葉に数か月前のお茶会を思い出した。

 ルトベイ家のお嬢さんとは、アラベアより二つ上で、居合わせたお茶会に少しアレンジは変えてあったが、同じドレスを五度着てきていた。しかも流行おくれの古いドレス。

 アラベアは同じドレスを着るのはよくないものと聞かされていたので、彼女を注意(ほかの人から見ると叱責)した。それも同じドレスを着てきたので、そのドレスを着られないように色のついた飲み物をかけたのだ。

 アラベアとしては、良きことをしたと思っての事だった。


「あのドレスはね、彼女のお母さまの形見だったんだよ」


 ルトベイ家の奥さまは三年前に儚くなったと聞かされている。

 しかし、アラベアが思うのは「だから?」だ。

 流行おくれのドレスを、何度も着てくる方がいけない。


「褒められたことではないけれど、まだ言葉で言うのならよかった。けれど、あなたはあのドレスを着れないようにしてしまった。公爵家が来るようなお茶会に着て行けるようなドレスはあの一着しか持っていなかったのにね」

「それならば、作ればいいだけですわ!」


 着られなくなったら新しいドレスを作ればいいのだ。ただそれだけのことだ。

 ライリーは残念な子を見るような目でアラベアを見た。


「うーん、これはどうやらだめだね。私も言葉が達者な方ではないからなぁ……しかし、この年にしてはかなり頭の回転も速いようだし……」


 ぶつぶつと呟くライリーをにらむように見ていたが、不意に、にっこりとアラベアに微笑んだ。

 アラベラは身の危険を感じ後ずさりをするが、その手をライリーが掴む。


「この子とじっくりお話をしたいんだが、いいかな?」

「なっ、私は貴方と話すことはございませんわ!!!」

「ああ。話してもらえるとありがたい」

「お父様!?」

「では、アラベア、あちらで私とお話をしようか」

「は?いやですわ。誰があなたなんかと!お父様!お兄様、止めて下さいまし!!お兄様!!!」


 ライリーに引きずられるように、アラベアは部屋から連れ出された。

 部屋に残ったのは男二人。

 この国の宰相である父親と、三番目の兄、ライリーの夫だ。


「甘やかしすぎてしまったのかもしれんな……」

「ライリーに任せれば大丈夫だと思いますよ。子供の扱いにもだいぶ慣れているようですし」

「……まだ続けているのか?」

「ええ。私にはまだ会わせてもらえてませんが。というか、会わせないでしょうね」

「……お前はそれでいいのか?」

「良いとは言い難いですが、愛する妻が壊れないでいてくれるためには許容するしかありません」

「………そうか……」


 わかるでしょう?と、言葉にしないまでも、伝わる。

 互いに苦虫を噛んだような顔で笑った。





=====



 しっかり、たっぷりライリーとアラベアは話をした。

 アラベアは今までこんなに自分と面と向かって話してもらったことがなかった。

 父親も母親も、兄も自分には可愛いかわいいと言ってくれる。わがままを言えば構ってくれる。わがままを言わなければあまり気にしてくれない。

 それに、一番上と二番目の兄に子供ができた。両親は孫がかわいくて仕方がないようで、アラベアに向ける時間が少なくなった。

 父親は一番上の兄に自分の仕事を引き継いでもらい、そろそろ自分は引退を考えているというのも耳に挟んだ。

 そのためか最近はあまりアラベアに構ってくれない。

 そういえば、一つ下に弟がいた気がするが気のせいだっただろうか……。


 アラベアは小さいながらにプライドだけは高く、甘えるということもできず、けれど寂しくていじけていただけだったのだ。その八つ当たりを周囲にしていた。

 周囲にとってはいい迷惑だったが……。

 そんな時に、アラベアはライリーに出会わせてもらった。

 結果的に、アラベアはライリーにそれはもう懐いた。

 ライリーは城壁の警備をする女性騎士だ。剣も魔法も一流に使いこなせる。

 そう聞けば、アラベアは護身用だと父と母を説き伏せ、魔法と剣も習った。

 ライリーが語学が堪能で、勉強もできると知れば、アラベアも勉強に精を出した。


 ふと思い立ち、一つ下の弟と一緒にやったら楽しいのではないかと思った。

 弟もアラベアと同じくかなりいじけて、引きこもりになっていた。引きこもっていたのであれば、一緒の家に住んでいるのに見かけないはずだ。

 何度ドアを叩いても反応もないし、出てくる気配もない。

 そこで、アラベアは、ライリーに手紙を書いた。勉強したように丁寧な文面で、綺麗な文字で書いた手紙の返信は、一言。


『引きずり出せ』


 残念ながら、ライリーは脳筋の気があった。アラベアはライリーではなく他の人に相談すべきだったのだ。

 だが、すでに時は遅し。


 ドアを叩いても反応がない。

 その時、屋敷が揺れた。

 音と揺れに、慌てて駆け付けたものが見たものは、破壊されたドア。


「アルフィ、一緒にライリーお義姉様を目指しましょう!!」


 色々ツッコミを入れたかったが、あっけにとられ誰もツッコミを入れることができなかった。

 一つ下の弟、アルフィは逆らうと命の危険があると感じ、最初はしぶしぶアラベアに付き合っていたが今では率先して魔法を使い剣を扱う。

 弟も仲良くなれたことで、嬉しくなりライリーに手紙を送った。アラベアは月に一回ライリーに長い手紙を送る。ライリーの返事は短いが必ずもらえる。


 アラベアの周りは着々と変わっていった。

 もともとアラベアのスペックは高い。

 アラベアに色々教えてくれた人は一方の偏った意見だということに気づき、他の人とも話をするようになった。

 他の人の話もしっかり聞くようになってから、いかに自分の視野が狭かったかを思い知った。

 そしてドレスをダメにしてしまった、ルトベイ家のお嬢さん、ダルシーには謝罪し、今では友達になった。

 当初はアラベアの変わりように怪訝な目を向けていたが、良い方に変わっているので受け入れるのも早かった。



=====



 今日はアラベアの八歳の誕生日だ。

 去年の誕生日はアラベアに媚を売るものばかりだったが、今は違う。

 王子もお祝いに来てくれたし、友人たちには心からお祝いを言われいるのがわかる。

 王子からは今日のお祝いにと私の為のドレスを作って下さった。避けられていたころとは違い、かなり友好な関係を築けている。

 アラベアは、色々な人にお祝いを言われる中、目的の人物を探す。


「お義姉さま!」


 飾りっけはないシンプルなドレスだが、それが逆にライリーの美しさを際立たせている。

 お兄様は、少し先で友人と話をしているようだ。


「アラベア、お誕生日おめでとう。素敵な挨拶だったね。プレゼントは部屋に届けさせたよ」

「ありがとうございます」


 ドレスをつまみ、ちょこんと挨拶をする。


「おや、もしかしてそのドレスは“アヤメ”かい?」

「はい。殿下が贈って下さったのですわ」

「仲がよさそうで何よりだね」

「すべて、お義姉さまのおかげですわ」

「私がしたのは切っ掛けに過ぎない、その後頑張ったのはアラベアの力だよ」

「ですが、切っ掛けをいただけなければ私はいつまで経っても子供のままでしたわ」

「まだまだ子供だろう?」

「お義姉さまからしたらそうですけれど」


 話をしていると、アラベアを呼ぶ声が聞こえる。

 アラベアを呼びに来たのは弟のアルフィだ。殿下が探していると言いに来たらしい。


「ふふ、いっておいでアラベア。殿下に失礼のないようにね。それと、挨拶は大事だからしっかりするんだよ」

「わかっておりますわ。それでは、また後程。失礼いたしますわ」


 ライリーに挨拶をして、弟につれられるように歩きだす。

 その様子を見送り、ライリーもまた夫の元へと歩きだした。

もっといろいろ含めたかったので、後で書きなおすかもしれません…

かきなおさない確率の方が高いですが…!

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