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11 お試し期間

 今日もお日様が出て、風は穏やかでいい朝だ。

 朝食を食べた後は、洗濯物をして外に干しておく。

 今日は姉ちゃんが休みなので、洗濯物を取り込んでもらう様に頼んでおいた。


 九時の鐘と共に、ノックをして裏口からお店に。

 初日は洋服屋さんに寄りたかったのでそのまま帰ったが、二日目は表に回ってこのお店の外観を見た。

 街並みに溶け込んでいる外観で、思ったより大きくないような印象だった。

 看板がなければお店だとわからないとおもう。

 窓も大きな窓ではないし、外からお店の中を見るのには覗きこまないと見れないと思う。

 仕事終わりだったので、窓にはすべてカーテンがかかっていて覗けなかったけど。


 これまでと同じように、魔法陣で脱衣所に行きシャワーを浴びて服を着替えてから下に降りる。

 最初に面談した部屋にはステラさんも店主もいた。

 おじいさんと気軽に呼ぶことは憚れたので、店主さんと呼ぶようにしている。名前が覚えられなかったんだ……。ステラさんがあんなに連呼しているのにね。


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」


 挨拶をすると、二人から挨拶がかってくる。

 ステラさんの表情はよくわからないが、店主さんはにこにこしてる。

 席を進められ、店主さんとあい向かいになるように座る。ステラさんは人数分のお茶を出して、店主さんに言われて少し後方に座った。


「さて、お前さんが片付けてくれた書斎を二人で確認させてもらった」

「はい」

「あんなに片付いた書斎を見るのは何年振りか……」

「ワトレイノイズ様が読み終わった本を書斎に適当に放り込むからですよ」

「つい面倒でなぁ」


 ステラさんのツッコミに、店主さんが笑う。


「言語ごとにしっかり分けておったな。一見難しい、古代文字とサントワ文字もじゃ。まずは、書斎を片づけてくれたお礼じゃ」


 そうに言って、ステラさんが小さな袋を私の前に置く。


「ステラとも話し合ってな、まずは半年働いて働いてもらいたい」

「半年ですか?」

「ああ。この店は少々特殊らしくてな。お試し期間じゃな」

「ワトレイノイズ様、仕事内容についてお話してもよろしいですか?」

「そうじゃな。ワシはあっちで仕事をしておるよ」


 店主さんが席を立ち、衝立の奥に行った。

 かわるようにステラさんが私の向かいに座る。

 

「リュウさん。まずは片づけお疲れ様でした」

「は、はい」

「あなたが文字を読めるというのを多少疑っておりましたが、あなたは私より読める文字の幅が広いようです。それこそ、奥様に匹敵するのではないかと思いました。

 ただ、魔法が少ししか使えないというのは気になるところがありますので、半年のお試し期間をと提案させていただきました」


 お試し期間を提案したのはステラさんだったのか……。


「このお店には様々な方がいらっしゃいます。一番多いのは冒険者ですが、ワトレイノイズ様と奥様が有名ですので貴族の方もいらっしゃいます。私でさえ、貴族の方に馬鹿にされたことも多々ありますので、リュウさんにはさらにそういったことを言われる可能性があります」

「はい」


 ステラさんも貴族だよね。もっと高貴な人が来るってことなんだろうか……。


「仕事内容ですが、接客と品出し、掃除と、昼食づくりに書類作業です。まずは、品出し、掃除、昼食づくりあたりから始めましょう。商品も覚えていただかないとなりませんし。

 私は来月までは通常に来ますが、再来月からは週に一日~二日しか来れません。それまでに多くの事を覚えてください。

 時間は朝九時から夕方六時までが通常の勤務で、それ以上になることもあります。休みは月に五日。月初めと月終わりは休みを入れることはできません。

 仕事内容に関してはやりながら覚えていただくといった感じですね。よろしいでしょうか?」

「はい」

「ああ、あなたの場合は最初にシャワーを浴びていただきますので、九時には仕事が始められるようにしてください。帰りは掃除などで汚れない場合は入らなくて大丈夫です」

「わかりました」

「それと、一番大事なことですが、あなたはここで働きたいですか?」


 ステラさんにそうに聞かれて、少し考えてしまった。

 今の私はどこでもいいから働きたいという気持ちが大きい。それを見透かされたのかと。

 このお店はステラさんにとってすごく働きたい場所なんだろう。それなのに、家庭の事情か何かで辞めなければならなくなったのだと思う。

 私はまだこのお店の事を知らない。

 ワトレイノイズ様に、見たことのない奥様。有名だというけれど、私は知らない。

 知らないことだらけだけど、ここはいい職場、だと思う。直観だけど。


「働きたいです」


 私がそうに返答すると、ステラさんは私をじっと見て、わかりましたと言った。


「仕事着は私のお古ですが、数着あるのでそれを着まわしてください。置き場所も案内します。ああ、仕事内容ですが、洗濯物を取り込むのも仕事にはいります。洗って干すまではやってもらうので」

「他にも誰かいるのですか?」

「……それも、みてもらった方が早いですね……」


 少しだけ悩ましげにしてから言われた。


「ワトレイノイズ様、口頭での説明は終わりました」

「うむ、そうか」


 ステラさんが立ち上がったので、一緒に立ちあがる。

 衝立から、店主さんが紙を持って出てくる。


「では、これが契約書じゃ。お試し期間はこの金額でよいかの?」


 紙を受け取って、金額を確認する。


「えっ!?」

「少ないかの?」


 首を左右に振る。


「違います、逆です!」


 私がそうに言うと、ステラさんも金額を見る。


「お試し……というか見習い期間の平均的な金額より少し少ないぐらいですよ?」

「え!?」


 もう一度金額を見る。やっぱり、銀貨40枚って書いてある……。

 働き始めはお店によって異なるけど、大体銀貨10枚だったと思う。

 私が勤めていたところも、リョウが働き出してもらったお給料も銀貨10枚だったし……。

 一体なんの見習い期間の金額なんだろう……。


 今現在家族四人の一カ月分の生活費が銀貨40枚と言ったら、なんとなく銀貨40枚が庶民にとっては高額だということがわかると思う。

 毎月、姉ちゃんと兄ちゃんからあわせて銀貨50枚受け取ってやりくりしていた。

 40枚は確実に出ていくお金だから、もしもの時の為に銀貨10枚は貯金していたのだ。リョウが熱を出してお医者さんにかかったり、生活に必要なものが壊れたりしたら使っていたので結局貯金はできてなかったけど……。


 ステラさんの方が何かに気づいたらしく、ハッとした。


「その金額は許容範囲内ですから大丈夫です。その金額に見合う仕事をしてください。それに奥様がいたら、金貨を出してきますから……」


 そうに言ってステラさんが遠くを見た。

 多分、金貨を出されたのかな。


「問題はないということでよいかの?」


 もらい過ぎのような気もするけど、金貨とか言われたら本当に怖いのでサインをする。

 サインをした紙を店主さんは受け取り、衝立の向こうに片付けた。


「あの、奥様への挨拶は……」

「奥様は旅立ってしまいました」

「ワシも一緒に行きたかったんだがのう」

「ワトレイノイズ様も一緒に行ってしまったら困ります」

「残念じゃ」


 店主さんは笑い、ステラさんは困ったようにため息をついた。


 旅立ってしまったのか……。

 この話題はなるべく私からはしないようにしよう。


「では、リュウさん、この前説明し切れてない場所を説明します。午後はお店をあけますので」

「わかりました」






 このお店は思ったよりも広かった。

 二階は書斎とお風呂の他に、客間が四つ。物置部屋とリネン室。それにベランダ。

 三階は店主さんの部屋に、奥様の部屋。開けるなと言われた部屋が一つと、空き部屋が二つ。

 空き部屋の一つは息子さんが使っていた部屋だという。随分前に出て行ってからは空き部屋にしており、家に帰れない時は空き部屋のどちらかで寝ていいと言われた。


「開けるなと言った部屋ですが、あそこには洗濯や掃除をしてくれるものが住んでいます」

「洗濯や掃除をしていただいている人ですか?」

「………まぁ、なんというか、洗濯や掃除をしているものですね……」


 どういうことだろう?


「掃除は廊下と空き部屋等は掃除してもらえるので、その他は私たちで掃除しなければなりません。私たちが掃除する場所は、店舗回りとキッチン周りだけです」

「お風呂は大丈夫なんですか?」

「ええ、お風呂掃除が一番楽しそうにしてますから。洗濯は取り込むまでしてくれるのですが、畳むことはしておりませんので、畳んで片付けるのも仕事です。忙しいときは後回しで。

 掃除も書斎を後回しにしているうちにあそこまでなってしまったので、時々書斎もお願いします」

「わかりました」


 歩きながら説明を受け、そのままベランダへと行くと、洗濯物が干されていた。

 洗濯ものの間を何かが動いている。


「アル、ちょっといいかしら?」


 ステラさんが声をかけると洗濯物の間から小さな影が現れた。

 大きさは私の腰ぐらいまで。全身毛むくじゃらで、手先と足先、目元の毛は黒い。鼻と口は尖っていて頭には三角の耳がピンと立っていた。尻尾はもふもふしている。


 ――アライグマ!?


 待って、この世界にアライグマはいない。これは前世の記憶からかな。

 でも、アライグマが二足歩行でエプロンしてるようにしか見えない。


「リュウさん、大丈夫よ。アルは魔物ではないから、襲ってきたりしないわ。どちらかというと精霊よりらしいわ」


 私が固まっているのを、怖がっているものと勘違いしたらしい。


「アル、今日から一緒に働くことになるリュウさんよ。リュウさんは魔力が少ないらしいから、魔力を食べてはダメですからね」

「キュー」


 アルと呼ばれている、アライグマ……精霊?は、ステラさんの言葉を聞き頷く。


「リュウです。よろしくお願いします」

「キュー」


 ぺこりを頭を下げると、アルさんも頭を下げてくれた。

 挨拶が終わるとキッチンへ行く。

 パンは一か月分のパンを月初めに注文済みで、代金も月初めに払っているので毎日六個届くのだという。パンの種類はお店にお任せしているらしい。

 野菜と肉は1週間分配達される。足りなくなったら近くに買いに行く。


 一緒に料理をしているのだが、ステラさんの手つきがちょっと怖いので、野菜の皮むきや刻むのは私にやらせてもらった。

 何年も昼食を作っているのに未だにうまく扱えないと隣から呟きが聞こえた気がした。

通貨的な補足


銅貨10,000枚=銀貨100枚=金貨1枚

金貨100枚=金板1本


黒パン1個  銅貨2枚

白パン1個  銅貨10枚


リャウの食堂のランチ 1食 銅貨20枚~


冒険者の宿 1食付 1人につき

 一般的な宿 銀貨10枚~



だいたいこんな感じ。

説明にも書いてありますが、ふわっとした設定です。

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