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髪と口に布を巻いて、午後の作業開始。
掃除用具入れから、綺麗めの布を拝借。掃除用具入れに入っていたので雑巾なんだろうけど、私はこの布で作った服をよそいきにするだろうなと思う。生地としては大分くたびれていたけど。私の着ている服よりいい布だし……。
その布で、本の埃をぬぐいながら仕分けしていく。
言語ごとにまとめればいいというので大分作業が楽になる。
分類ごとだとすると、内容もちょっと確認しながらだから時間かかるんだよね。
まずは、言語ごとに本を分けて、本を分けてから、本棚を掃除して本を入れる……かな?
とりあえず、それで行こう。
作業スペースを作るときに積み上げた本は、なんとなく言語ごとに分けていた。その延長という形で分けてまとめていく。
本を掘るようにして作業をする。本を本棚に入れていくだけでも数日かかりそう。
黙々と本を分けていく。
「しまったな……」
本を分けて行ったら、作業スペースがなくなってしまった。
入ってきたよりもだいぶ足の踏み場はあるけど、さっきまであった自分が座れるぐらいの作業スペースはもうない。
真ん中に作業スペースを作って分けていくんじゃなくて、真ん中に本があって壁側に本を分けていった方が良かったかもしれない。
今から変えていくとさらに時間がかかるよね。
それに、壁側にも本が結構積みあがってるし……となると、やっぱり中央にスペースを作ったのがよかったのかな?
うーん……掃除は得意な方ではないので、どうにした方が効率がいいのかわからない。
できれば今日中に言語ごとに本を分けたかったけど、ちょっと無理かも。
考えつつも、本は分けていく。作業していればいつかは終わる。多分。
トントントン
書斎の扉がノックされる。
はい、と返事を返すが、布のせいでくぐもった声になっているので扉の向こうまでは聞こえないかもしれない。
え、もう五時!?
窓から差し込む光を見るが、まだ夕方にはなってない気がする。
本を避けながら扉に向かい、開ける。
「はい」
扉を開けると、ステラさんがいた。
「もう、五時ですか?」
「いいえ、小休憩はどうしますか?」
お昼は一時間ぐらいもらって、さらに小休憩ももらえるんだ。
お昼以外はないところが多いんだけど、流石上流階級の職場だ……。
小休憩を取ったら期限内にこの書斎が片付かない気がする。
「あの、小休憩なしで仕事をしても迷惑になりませんか?」
決められたときに休まないと、逆に迷惑になることがあるのでそうに聞くと、ステラさんは軽く頷いた。
「大丈夫です。私も忙しいときは小休憩は取れませんから。今は比較的お客さんが少ない時ですし、先ほど聞くのを忘れてしまったので」
「そうだったんですね。ありがとうございます。問題なければ、小休憩なしで片づけをしたいです」
ステラさんは私の後ろの書斎を見て、わかりましたと去って行った。
やはり、ステラさんはそんなに意地悪な人ではないみたいだ。
昨日はつんけんしてて、嫌な人だなと思ったけれど、お昼も呼びに来てくれようとしたり、小休憩の話もしに来てくれた。
まぁ、まだどんな人かはわからないけどね。
改めて作業を開始する。
小休憩は大体三時ぐらいに取るところが多い。今も多分三時ぐらい。
後二時間でどうにかなるだろうか……。
トントントン
扉がノックされる。
はい、と返事をするが、やはり聞こえないのだろうか。
書斎は入口から、左右と真ん中に行けるように道のようなものを作っておいた。
これでいくらか移動が楽になる。
扉を開けるとステラさん。
なんか、何度も来てもらっていて申し訳ない……。
「五時を少し過ぎてしまいましたが、終わりにしてください」
「はい」
「お風呂に入ってから帰りなさい。服は脱衣所のかごの中に入れておいてください」
「わかりました」
書斎の奥の少しだけあけた窓をして、書斎の中で自分の埃を払う。
頭と口の布とエプロンを取って、それを持ちながらお風呂場に。
布はどうするか迷ったけど、かごの横に置いて、服はかごの中に入れる。
シャワーを浴びて埃や汚れを落とし、体を拭いて髪を乾かす。
まさか、一日に二回もシャワーを浴びれるとは思わなかった。
これから数日間は一日二回のシャワー。肌が乾燥しそうだなぁ……。
私が脱いだ服は洗濯されて畳んでおいてある。
これって、ステラさんがやってくれたのかな?お礼を言わないと。
私が持ってきた荷物は、朝おいておいた場所と同じところに置いてある。
朝来た時と同じ格好で、魔法陣に乗る。
一階に降りたことを確認して、昨日面談した扉をノック。返事が返ってきたので扉を開ける。
「今日は、これで帰らせていただきます。明日も今日と同じ時間でいいのでしょうか?」
「ええ。そうして頂戴。明日の朝は挨拶は特に必要ないです。今日と同じように、シャワーを浴びて着替えてから、そのまま作業に入ってください」
「わかりました。あの、服を洗って下さってありがとうございます」
「ああ。私が洗ったわけではないわ。畳んだのは私ですが」
洗濯のお手伝いさんがいるんだろうか?
会ったらお礼を言おう。
「あの、店主さんは?」
「作業中です。一カ月のうち中二週間は作業に入ってしまうので、お昼ぐらいしか会えないと思って下さい」
「わかりました。お先に失礼します」
ぺこりと頭を下げて、帰路につく。
途中で服屋さんに寄ろうと寄ったのだが、残念ながら定休日だった。
家についたのは六時の鐘がすっかり鳴り終わってから。
既に兄ちゃんとリョウは夕食を食べた後だった。
兄ちゃんの作った夕飯を食べ、二人をお風呂へ見送ると、姉ちゃんが帰ってきた。
夕飯は済ませてきたらしい。
リョウが寝てから、姉ちゃんに働き場所が見つかりそうで、今お試し期間だと伝えた。
そして、帰りは六時を過ぎてしまうこともあるからもしかしたら作れないかもと。
姉ちゃんも兄ちゃんも頑張れと、無理するなよと言われた。
兄ちゃんにしてみると、昨日の話から大分心配してくれてたみたい。
二日目は、言われたとおりにシャワーを浴びてから書斎に向かった。
今日も本の分類分けをする。
お昼は店主さんとステラさん、三人でサンドイッチを食べる。今日の具はホロロ肉だった。ホロロ鳥のお肉。
言語わけが終わり、本の中から片手サイズの置時計と脚立を発掘した。
他の人が見たら完全に散らかってるままの書斎。本棚に入れるまではどうしても散らかってる感じになっちゃうよね。部屋の中は大分動きやすくなってる。
ステラさんが五時過ぎに呼びに来てくれたときに、置時計を見せると明日までに調整しておいてくれると言うのでお願いした。
帰り際に、ステラさんに「新しい服を買おうとか思っていたら、買わなくて大丈夫です」と言われてしまった。
やっぱり、ステラさん的には私が働くのは反対なのかもしれない。
三日目の掃除も順調。
置時計は時間もあわせてくれて、しっかりと動いている。
掃除用具入れから雑巾とバケツを持ってきて、まずは濡れてない雑巾で高いところから順に埃を落とす。脚立はしっかりした作りだったので怖くない。
しばらくは埃が舞っていると思うので、その間に本を入れる本棚の前に移動させておく。
本の言語は七種類もあった。うち二種類はそんなに冊数は多くない。
埃が落ち着いてきたところで、今度は本棚を水拭きしていく。水拭きした後はすぐに乾拭き。二種類の雑巾を常に持ちながら掃除。よく見ると本棚には綺麗な装飾もついていて、壊さないように慎重になる。
本棚が終わると、ついでに窓の縁も拭いておく。
時計はそろそろ五時だ。窓を閉めて、バケツと雑巾を持ちベランダへ。書斎で埃を払っていたが、掃除をしたのでベランダで埃を払う。
四日目は本棚に本を入れていく。
本棚は四つなのだが、真ん中で区切られていて、八つ分の本棚の収納スペースがある。
一番多いこの辺りで使われる言語の本から取り掛かる。図鑑のような重くて厚い本は下に置き、上に行くにつれて軽い本になるように入れる。
何となく分類分けもしておこう。
本を入れるときに汚れているところは布で吹く。分けるときに拭いたけど、また埃がついているのが多かった。
五日目も同じく本棚に本を入れていく作業。
軽く分類に分けているため、一つ一つタイトルはしっかり読んでいるので時間がかかる。分類わけじゃなくて良かった……。
タイトルを読んでいるだけでも結構時間がかかるのに、分類分けしたら少し中も読まなきゃだから大分時間がかかるところだった。
重い厚い本はジャンルに限らず下段に置き、あとの本は、物語系、実用系、専門書系、魔法系の四つに分けてる。
全部タイトルで判断してるから、若干間違いはあるかもしれないけど。
六日目の午前中にどうにか本棚に本を入れる作業が終わった。
ずいぶん本があって、本棚に全部入りきらないと思ったけど、そんなことなかった。
もしかしたらこの本棚にも魔法がかかっているのかもしれない。
私が拭いたところには何もなかったので、本棚の後ろとかに魔法陣が合ったりするのかも?
昨日、本棚に対して本が多い気がしたので「入りきらなかった本はどうしますか?」と聞いたら、「本はすべてはいるじゃろう」って返されたし。
午後は書斎の床や壁の掃除。壁にも何か汚れ?埃?がはりついたりしてたしね。
掃除が終わり、時計を見ると五時を少し過ぎていた。
「ステラさん、掃除終わりました」
一階に降りて、ステラさんに報告する。
少し驚いた顔をしてから、すぐにいつもの表情に戻る。
「わかりました。明日、確認します。貴女は今日と同じように来てください」
「はい」
いつもと同じようにシャワーを浴びて着替えてお店を出た。
最初は期限内終わるかわからなかったけど、間に合った。
ここは、一週間が七日で、ひと月に四週ある。その他に月初めと月終わりに一日づつ足して一カ月は三十日だ。一年は十二カ月。
掃除は綺麗にできたと思う。
これでダメだったら仕方ないから次の職場を探そう。
ここ一週間のあのお店のように、お昼のサンドイッチとスープを毎日出してもらえるようなところは探しても見つからない思うけど。サンドイッチもスープも毎回おいしかった。シャワーも毎日浴びれたし、贅沢な時間だった。
明日行くのはちょっとドキドキするなぁ。




