第 8話 出立
よろしくお願いします。
金貨にして一六枚を受け取り袋に入れる。
するとセシルさんが、真面目な表情になって面と向かって話しかけてくる。
「ミツヒさん、薬草はあまり採れないのでありがたいのですが、この頻度、この量で毎日薬草が手に入ると値崩れが起こるかもしれません」
「あ、大丈夫ですセシルさん。俺、明日にはルータの町を出ていきますから」
「そうですか、それは残念って……え? え? なんですかミツヒさん。ルータの町を出て行かれるのですか? ここで生活しないのですか? 永住しないのですか?」
「はい、明日には南にあるスマルクの町に出立しようと考えています」
「そうですか、そうなのですか。ええ、わかりました。残念ですが仕方がない事ですね、ミツヒさんの事はちょっと、いえとても好意に思っていましたのに」
え? セシルさんが、何気なくさらりと何かを言っていたような……。
けど聞き流そう。
「この数日セシルさんにはお世話になり、いろいろとありがとうございました。戻って来たらまた寄らせてもらいます」
「是非こちらこそ、よろしくお願いしますね、ミツヒさん」
少し悲しい顔をしているセシルさんだったけど、決めた事だしまだまだ始まったばかりだ。
別れは少しの悲しみが伴うのは致し方の無い事だ。
そう思いながらセシルさんに感謝し、ギルドを出て商店に向かい、干し肉銀貨三枚分を購入してサリアの宿に帰った。
あれ? 俺って結構薄情なのか? いや、そんな事はないよ、うん……多分。
宿の部屋に戻り、明日からの準備も終えて、裏庭の井戸水で体を拭きながら考える。
手持ちの金も、金貨一六枚、銀貨七一枚になって大分楽になったし、スマルクの町でも当面は働き口が無くても心細くないな。
しかし、この町の薬草採取は良かったなぁ。
声の女の娘には本当に感謝するよ、ありがとう。
【……】
宿に入り、相変わらず厨房で働いているおじさんに、明日出立する事を話し、食事を貰う。
今日はロックバードの生姜焼きとのこと。
一口食べたら、美味いっ。
香辛料と生姜が肉に染み込んでいて、とても相性がいいな。
もっと味わえばよかったけど、空腹と美味しさが重なって、また夢中で食べてしまった。
満足して食べ終わった後、部屋に戻りベッドで横になり天井を見る。
スマルクの町までは歩いて三日、馬車で行くなら一日までは掛からない。と、セシルさんに聞いていた。
また走って行こう、と思う俺。
スマルクの町には、働きながら長期間滞在する予定でいる。
そして眠くなってきたので毛布にくるまり就寝した。
おやすみ。
【……】
翌日早朝
支度をして下に降り、井戸で水筒に水を入れ、背負い袋に入れる。
下に降りると厨房のおじさんが先に俺に気が付いていた。
出立する事を言っておいたから気に掛けてくれたのかな。
「飯は丁度出来てるよ」
おじさんが他の人の料理をしながらテーブルを指差す。
テーブルには、湯気が出ている出来立ての、柔らかそうで巨大な卵焼きが乗っていた。
この料理も美味しくいただいたことは言うまでもない。
朝食を終えた俺は立ち上がり、装備を身に付けておじさんに挨拶する。
「お世話になりました、食事美味しかったです。あ、部屋も」
「ああ、またよろしくな兄ちゃん。気を付けて行けよ」
「はい、ありがとうございます」
サリアの宿を出て南へ歩く。
ギルドにはもう用は無かったので、立ち寄らずにまっすぐ南の検問所に向かう。
あ、会っていなかったけど、セシルさんの言っていたギルドマスターってどんな人だったのかな。
でも薬草採取しかしていない俺じゃ会える訳なんてないしね。
ま、いつの期会か戻って来たら、セシルさんに聞いてみようかな。
南の検問所に着き、門番に証明書を見せルータの町を出る。
一度振り返りルータの町と外周壁を眺め、また向き直す。
「よし、行こうか」
そして元気に走り出す。
一路スマルクの町に向かって。
透き通るような青い空の下、いい天気の中をひたすら走る。
走っていて気が付いた事がある。
今走っているけれど、尋常では無い事に。
それも凄い、もの凄い速さなんだ。
人を避け馬車を避け、風のように、疾風のように走って行く。
そのすれ違う人や追い抜く人の一瞬の俺を見た人は、口を開けて何が起こったか分からないような人もいた。
何だ? 以前より、ルータの町に来た時より速くなっている? うん、確実に速くなっているな。
そしてもう一つ凄いことに気が付いた。
一度後ろを振り向いたら、路上に舞い上がるであろう砂埃が一つも舞っていない。
これはスキルの一種なのかな。
向上や上達すれば、これはこれで嬉しいんだけど……いいのだろうか。
【スキルです】
【何のスキルなの?】
【……】
だめか。ま、いいや。
考えながら力強く地面を蹴り走っていたら、昼には先にある高い外周壁が見えて来た。あれがスマルクの町だろう。
そしてスマルクの町の検問所に到着した。
検問所の入口には、ルータの町より多くの人たちの列が出来ていたので、同じように最後尾に並ぶ。
しばらく待っていると俺の順番が来て、門番に証明書を見せる。
「ルータの町からか……問題ないな、通ってよし」
「すみません。ギルドはどこですか?」
「入って右に行け、そこを出たら街道をまっすぐ二〇〇m程歩いて行けば右側にある」
「ありがとうございます」
入って行くと、行く手を遮るように石で出来た塀が建ててあった。
駆け抜けられないようにしているのか通路が左右に分かれている。
言われた通り右に曲がって歩いて行くと、その先に町に出る出口があった。
外に出たら、眼の前に大きい街道がまっすぐに伸びているのが見えた。
人や馬車の往来も多くて、田舎者の俺は何だか嬉しくなった。
「うーん、着いたー。」
一つ大きな伸びをする。
思ったよりも早く到着して良かったな。
これなら宿もゆっくり探せそうだ。
ルータの町より大きいし勉強になりそうな町だ。
よし、まずはギルドへ行くとしよう。
その足で、門番に教えてもらったスマルクの町のギルドに向かう。




