第 6話 ルータの町
よろしくお願いします。
セシルさんから説明を受けてから、薬草の種類などを知りたい、と聞いてみた。
それであれば、銀貨一枚かかるが、奥にある書館で調べることが出来るそうなので、さっそく銀貨一枚支払って書館に入る。
沢山の本が並んでいる書棚から、一冊の本を見つけ閲覧用の机に乗せる。
本には、薬草大全集、と書かれていたので、一通り調べられそうだ。
椅子に座ってじっくり薬草の種類を調べ始める。
回復草、「下位回復は赤色草、上位回復は紫色草」
治癒草、「下位治癒は青色草、上位治癒は緑色草」
毒消草、「毒消草」
麻痺消草、「毒消草の根」
回復と治癒の中位が無いのは、上位種を作って残った薬草で出来ると書いてある。
上位の薬草と毒消草は雑草と見分けが難しい上に、中々難易度が高い。
生い茂った雑草の中に紛れて小さく生えているから、一日中掻き分けて探しても一株、よくても三株くらいが限度のようだ。
下位の薬草はそこそこ採れるけれど、一〇株単位の買い取りなのでそれも大変だろうな。
薬草については大よそ理解した。
なので、ついでとばかりに他の本を眺めていたら魔石の本があったので、また机に戻り調べる。
魔物からドロップされる魔石が書かれている文を調べると、ある程度の強い魔物からドロップするようだ。
タモダンのゴブリンやオーク、オーガでは魔石が出たことは無かった。
その上位種であるオークキングやオーガキングは魔石が出る、と書いてある。
更に上位種であるロード級は貴重な魔石もドロップする時もある、と書かれていた。
そんなの倒せるわけないじゃん。と思いながら読み進めていたら、ある程度の強い魔物からは、時折小さい魔石がドロップされる、とも書かれていた。
俺が出来るとすれば、この辺だな。
書簡を出てカウンターに戻り、セシルさんに薬草の買取り金額と採取できる場所を聞いてみることにする。
セシルさん曰く、ルータの町の東側は、草原が森と隣接してあり、薬草が自生していて、その草原で採取出来る。
薬草の買取り金額は次の通り。
赤色草と青色草は一〇株 銀貨一枚
紫色草と緑色草は 一株 銀貨二枚
毒消草は 一株 銀貨四枚
ただし、一日の労働対価にして、割に合わない事もしばしばあるので、自身でよく考えるように。との事だった。
うーん、大変そうだけど、大丈夫だろうか。
【薬草採取が最適です】
そうか。うん、やってみるよ。
【……】
まだ昼には早い時間だったので、一度東の草原地帯に行ってみる事にした。
南の検問所に向かい、門番に証明書を見せて出る。
左に曲がり東に向かって歩くこと三〇分ほどで広い草原に出た。
セシルさんが言っていた通り草原の左前方には、緑の濃い森も眼に入って来た。
柔らかそうな草原に一歩踏み出せば、足首まである雑草が……ではなく、膝まである雑草がびっしりと生えている。
これが草原なのか? だとしたら俺の想像を超えていたのは確かだった。
折角来たのだから、どうやって探そうかと周囲を見渡す。
【右に三〇歩前進です】
え? 右? わかった。一・二……三〇。
【左下、足元です】
言われた通りに左下の足元の雑草を優しく掻き分けると、本に載っていた通りの上位である紫色草が生えていた。
そして運よく一株のすぐ横に並んでもう一株を見つけた。
おぉ、やった。凄い凄い、さっそく銀貨四枚分だよ。
優しく採取して袋に入れる。
【直進七二歩です】
了解。一・二……七二。
【二歩直進です】
一・二。
【右足元です】
今度も紫色草が生えていて、採取する。
【左に五六歩前進です】
一・二……五六。
【二歩後退です】
一・二。
【足元です】
今度は毒消草が一株。
この薬草は根も一緒に採取しないとね。
こんな具合で声に従って採取したら、昼過ぎには小さな袋ではあったけれど、袋が薬草で一杯になった。
これって簡単すぎじゃないのか? 本には難しいって書いてあったのに、こんなんで大丈夫なのか? このまま順調すぎたら今後は、ちょっと怖い気がするけど……。
【薬草採取が最適です】
何だか、エッヘン、みたいな口調になっているし。
でも、そうだね。君の声が無ければ採取できなかったからさ。
お礼を言わないとね、ありがとう。
【……】
草原を出たら、小腹が減ったので腰袋から取り出した干し肉をかじりながら帰り、出てきた町の南の検問所から戻り、ギルドに向かう。
中に入れば誰もいない広間だったので、始めて来た時よりもやけに広く感じた。
冒険者たちの、この時間帯は依頼を受けたり働いていたりしているからいないのだろう。
カウンターまで歩き座っていたセシルさんに、採取した薬草の買い取りをお願いした。
何故か少し驚いた表情だったけど、すぐに冷静な表情に戻った。
聞くところによると、買取り場所はカウンターの横にある扉の向こうの部屋にあり、言われた通り扉を開き中に入る。
すると後ろからセシルさんが同行してくる。
部屋は換金所のような作りだった。
テーブル越しに座ったセシルさんに、採取した薬草をテーブルに出すように言われて、小袋から薬草を取り出し並べて乗せはじめる。
何だかセシルさんの眼の色が、徐々に変わるように見開いてきたのがわかった。
赤色草一〇株 青色草一〇株 銀貨 二枚
紫色草 八株 緑色草一一株 銀貨三八枚
毒消草 六株 銀貨二四枚 合計六四枚
あ、椅子からセシルさんがズッコケた、派手にズッコケた。
――あ、足が。
いや何でも無い、そう、ひっくり返っただけ、うん、黒いスカートの中に、清楚で白い何かが見えたことは黙っておこう。
【殺意が湧きそうです】
え? 何? どうしたの、大丈夫かな?
【……】
なんだろう、棘のある声だったけれど……いや、気にしないでおこう。
セシルさんは立ち上がり、埃でも落とすようにスカートを軽く叩いて冷静に戻ったようで座り直した。
「ミツヒさん、どうやったらこんなに探せるのですか? 午前中に出て行ったのに、まだ夕方でもないのに、それでこんなに沢山の薬草を、それも希少種をこれだけ」
「偶然ですよ、セシルさん、運が良かっただけです」
「いえ、偶然で採取は出来ません。何か秘訣でもあるのですね。こちらとしてはありがたいことですし。いえいえ、しかたがないですね、秘訣は聞きませんが、凄いですよミツヒさん」
セシルさんは薬草を束ねて持って一度奥に行って、少しして戻って来た。
そこで銀貨六四枚を受け取り小袋に入れ、セシルさんに挨拶してギルドを出る。
小袋の中は、手持ちの銀貨一二枚と合わせて七六枚になった。これで金銭面に関しては何日かは安心だ。
なので、まず向かったのは商店。腰袋じゃ心細いので背負い袋を購入する事を決めた。
セシルさんに聞いた通りすぐ近くに商店があった。
「いらっしゃい、兄ちゃん、何か物入りかい?」
「背負い袋が欲しいんだけど」
「それじゃこれなんかどうだ? 両脇にポーション入れと皮の水筒入れが付いているよ」
「うん、中身も手ごろだな。うん、これにする」
「銀貨二枚だよ、そのかわり皮の水筒をサービスするから」
うん? 何だかうまく丸め込まれたような。
商売上手な人だな。
でも持っている水入れは木の筒だから皮の方が収納しやすいな。
ポーションも並べて収納出来るし。
何しろ背負いやすいのが一番の決め手だった。
店員さんに銀貨二枚を支払い購入し、今日はサリアの宿へ帰る事にする。
まだ夕方にもなっていないので、裏の井戸で体を拭いて部屋に入る。
これからの事を考えないと。
今のところの考えは、今晩を含めてあと二泊でルータの町を出る予定で、行先はさらに南にあるスマルクの町だ。
その町で仕事を見つけてしばらく滞在する。
この町での滞在は明日だけから、もう一日薬草採取して資金を増やすことにしよう。
夜になり、下に降りるといい匂いがしてきた。夕食をお願いしてテーブル席に着く。
――待つこと少し。
今晩もステーキだったけど、香ばしい香りが食欲をそそる。今回はブラックボアのステーキだ。
初めて食べたがレッドボアよりも肉汁が多いかな。
どちらも負けず劣らず美味いな。余りに美味しくて夢中で食べてしまった。
食後は部屋に戻り、ベッドに潜り込み就寝してしっかり寝る。
「おやすみ」
【……】
こうして夜も更けていく。