第 5話 ルータの町
順調に道を走り続ければ、日も傾きかけ、そして赤い夕陽が沈む頃。
進むその先に、ティマル母さんが教えてくれた通りのルータの町の外周壁と入口が見えてきた。
「ハァハァ。やっと着いた。あれがルータの町かぁ」
北に向いているこちら側の入口は、タモン村用と言っても過言では無い入口なので小さい門とタモンの村同様に一人の門番しかいない。
「止まれ、タモンの村から来たのか。ギルドカードか村の証明書はあるか」
「ギルドカードはありませんが、これがあります。村長に書いてもらいました」
門番に手渡す。
「よし、ちょっと待て、これは村の証明書だな……本物だと確認した。よしいいぞ、通ってよし、それとギルドには冒険者登録するのか? 証明書は登録時の保証にもなるからな」
手渡される。
「いえギルドには登録しません、働きます」
「冒険者登録しなくても、この町の証明書が必要だから、どっちにしてもギルドには行くように。村の証明書はここだけしか通用しないから、タモン村の者は、この町で作り直してから他の町に行けるからな。ちなみにギルドはここを通ってまっすぐ行った先の左側にある建物がそうだ」
「はい、わかりました、ありがとうございます」
ルータの町に入って、歩きながら辺りを、街並みを見回した。
「タモンの村とは全然ちがうなぁ。それに人も多くて活気があるし。タモンの村もこれくらい大きくなればいいなぁ……よし、ギルドに行くか」
ルータの町
タモンの村の外周壁よりも高く、更にしっかりした外周壁だ囲まれてある。
むき出しの木造二階建てが道の左右に立ち並んでいる街並みだ。
町の中央の南北に大きな道がまっすぐに伸びている。その道を基準として、左右に道が何本も分かれている、一〇〇〇人ほどが生活している綺麗に整った町。
「左側、左側、あ、あれかな」
左を眺めながら歩くと、二階に貼られたギルドの看板を見つけ、その下の入口を入った。
入るとそこは広間になっていて、夕方だからなのか二〇人程の冒険者らしき人たちがごった返していた。
剣士、魔術師、召喚士、ごついメイスを持った男や筋肉質の女性剣士、パーティと見られるグループも何組か話をしている。
その奥にカウンターがあり、受付が見えた。
さっそく最後尾に並び順番を待ったら、しばらくして俺の順番が来た。
受付の女性 黒いメイド服のようで首には赤くお洒落な首巻を着けている。
「いらっしゃいませ、ご用件は何でしょうか」
「はい、初めてこの町に入ったので登録をお願いします」
「ギルドの登録ですか? それとも冒険者の登録ですか?」
「いえ、働きに来たので証明の登録をお願いします」
「はい、わかりました。登録証明書は銀貨二枚になります、無くされたら再発行は銀貨五枚になりますので、くれぐれも無くさないようにお願いします。では、この町に入って来たときの証明書をお出しください」
「これが村の証明書です」
「お預かりします……ミツヒさんですね、畏まりました。では、しばらくお待ちください」
セシルさんという名前らしい。
とても礼儀正しい人だな。
清楚で茶髪のセミロングの切れ長の碧眼でスタイルもいいし、綺麗だ。
でもちょっと、あの碧眼で睨まれたら、怖くて冷たそうに感じるけどね。
「あの。なにか変なこと考えてません?」
「え? いえ、な、何も考えていません」
ウオッ。セシルさんは人の心も読めるのか? 受付って大変なんだな。
【まったく読めていません】
そ、そうなの?
【大丈夫です。問題ありません】
いつもの声なのに、なんだか棘のある口調だ。
「おまたせしました、ミツヒさん。これが証明書になります。これは世界共通の証明書です。先ほども言った通り、再発行も費用は掛かりますが各ギルドで出来ます。以上ですけど他には何かご用件はございますか?」
「あの、宿に泊まりたいのですが、何処にあるか教えていただけませんか」
「それでしたらこの先にある、サリアの店があります。食事、宿泊が出来ます」
「ありがとうございます。これから行ってみます」
「それでは、お気をつけて」
ギルドを出て、セシルさんに言われた通りに宿屋に向かう。
すると、サリアの店、と書いてある木で出来た看板があった。
一階が食堂と受付のようだったので、二階が部屋になっていて泊まれるのかな。
ギルドの推薦みたいだし、さっそく入ってみよう。
中に入ると丸いテーブルが、食堂に合わせるように五つ並んでいて、その奥のカウンターに、髭を蓄えた貫禄ありそうだけど、人の良さそうなおじさんが立っていた。
「いらっしゃい、食事かい?」
「いえ、宿泊をお願いします」
「一泊、銀貨一枚、食事は一食、銅貨三〇枚だけど、どうする?」
「じゃ、三泊と朝晩の食事六回分お願いします」
「それじゃ前金で銀貨五枚払ってもらおうか。食事は宿泊者価格に変更しておくよ。部屋は二階の奥右側だよ。今晩の食事は付いていないけど、どうする? 特別無料だ」
「本当ですか? あ、ありがとうございます、今食べます。よろしくお願いします」
俺は腰袋から小袋を取り出し、銀貨五枚を支払う。
「そうかい、そこに座ってくれよ。今作るから、もうちょっと待ってな」
丸いテーブル席に座り、食事を待っていたら分厚くて美味そうなステーキが出てきた。
ロックバードと言う大型の魔物らしいがとてもいい匂いだ。
ステーキの下には炒めた玉ねぎの薄輪切りが敷いてあり、さっそく一口食べたら肉が柔らかく、ロックバードの肉って初めて食べたけど、肉汁が溢れるように出て美味い。
旅先での初めての食事でもあり、一気に食べて堪能した。
料理を堪能してから部屋に入ると、簡素な部屋ではあったけど六畳ほどの広さで、ベッドが一つあるが、俺には十分で居心地もよさそうだ。
ただ風呂が付いていなかったけれど、道中走りっぱなしで疲れていたこともあり、仕方なくそのままベッドに潜り込み深い眠りについた。
翌朝、日も昇る頃に起床して一つ伸びをする。
「うーん。フゥー。よく寝たな」
ベッドを下り、階段を伝って下に行けば、厨房にいたおじさんに声を掛ける。
「おはようございます」
「ん? 飯かい?」
「はい、お願いします」
待つこと少々。
大きな目玉焼きと牛乳と焼いたパンが出てきた。
しかし大きいとは言ったけど、この目玉焼きがとにかく巨大だ。
ロックバードの卵らしいが、黄身の直径が一〇センチはある。
でも、塩を降って食べたらこれがまた濃厚な味で美味かった。
食べながらおじさんに、体を洗う水が欲しいと聞いたら、裏に井戸があるから勝手に汲んで使っていいとのこと。
なので、食後に裏庭の井戸に行き、タモンの村を出てから初めて体を拭いた。
風呂は無いけれど、それだけでも気持ち良かったよ。
物価が高いのか、路銀が少なくなってきたから心細いぞ。
これからどうするかな。
【薬草採取が最適です】
あ、声だ。
うん、そうしてみるよ。ありがとう。
【……】
一応、腰袋に別の袋を入れてあるから、万が一薬草を採取出来ても大丈夫だな。
宿を出立してその足でギルドに出向く。
中は少し混んでいたけれど、奥の左のカウンターにはセシルさんが座っていたので歩み寄る。
あ、俺に気が付いたようだ。
「おはようございます、あら、昨日登録された……ミツヒさん、ですね、今日はどのようなご用件ですか?」
「あの、ギルドに冒険者登録していなくても、薬草などの買取りはしてもらえるのでしょうか」
「はい、大丈夫ですよ。薬草を始め魔物を倒した時に時折落ちるドロップ品や魔石などは、このギルドで買取りしています。特に制限もありません。ただし、商店に売買するなどの商売は、ギルドに行商登録していないと重罪で罰せられます。また、ギルドの掲示板に貼り出してある依頼も同じ、と考えた方が安全です。ご注意ください」
セシルさんから、釘を刺されたように厳しく言われた。
右も左も分からない俺に、心配してくれたようなセシルさんは、優しい、と感じてしまった。
確かにそうだよな。
今後は気を付けよう。




