第 4話 出立
よろしくお願いします。
二年後
ミツヒ一五歳。
身長は一五〇㎝であまり伸びていない。
自身なりに、ちょっと悩んでいるのは秘密にしておく。
俺の強さは、父さん曰く、冒険者で言うD級の力量は付いてきている言ってくれたけど、俺にはその階級の意味もわからないのが現状だ。
一ヶ月前
夕食を食べながら、家族団らんのひと時に、サイルト父さんが俺に話しかけて来る。
「ミツヒ、もうすぐ一五歳になるだろ。いい頃合いだから、そろそろ旅に出て鍛えてこい。冒険するのもいいし、どこかの町で滞在して働くのもいい。村で身をうずめて生活するのは、まだまだ先の事で今考える事ではないからな」
隣で食べているティマル母さんも同調してくる。
「そうね、外の町や世の中を見て回ってきなさい。そして色々な事を調べ、覚え、身に付けて、もっと成長して強く優しいミツヒになって。辛くなって、ここに戻りたいと思ったら無理しないで帰って来てもいいのだからね」
「ミツヒの剣だけは俺と互角に近くなってきたから、そこそこ大丈夫だろ。ハッハッハッ」
「違うよ、全然互角に近くないし。今まで数十回は手合せしたけど、結局父さんの体に触れることも出来ずに、一度も勝てなかったしさ」
「大丈夫よミツヒ。毎回少しづつだけど強くなっているのがわかるくらいよ。でも、まだまだ強くなれる、素質、要素、力を内に秘めているようだから頑張ってきなさい」
「うん、それじゃ出発の準備をするよ」
一番近いルータの町
タモンの村から南に、濃い緑の森の中に一直線に続いている道を、歩いて六日ほどかかる。
準備した腰袋には、干し肉が六日分と小さな水袋が一つ。
そして母さんからもらった回復用と解毒用ポーションの小瓶が各一本。
それと父さんから貰った銀貨二〇枚を小袋に入れ、腰袋の一番下に仕舞い込んだ。
水が小量なのは、途中で補給できる小川や支流が、道脇にいくつもあるのであまり心配はないらしい。
装備は布の服の上に、昔もらった皮の胸当ての鎧に皮の靴、剣を握りやすくする皮の手袋とアイアンソード。
今回アイアンソードは、一度父さんに預けて手入れをしてもらい、父さん流に、しっかり研ぎ直してもらった。
その剣は何故だか母さんに渡る。
「ウフフ。磨くだけよ、大事にするようにね」
盾は色々な場面で邪魔になるのでは、と思い、置いて行く事にした。
出立当日
父さん母さんの他に村長、ラン、三年前に先に旅に出たダース、ラッタ、ティーナの両親と、年の離れた幼い妹や弟が見送りに来てくれた。
「こうなると早いものだな。強くなって帰ってきたら一緒にのタモン村を支えておくれよ」
「はい、村長」
「私は村から出る予定は無いからさ、たまには私を思い出してね」
「うん、ありがとうラン」
「私たちの子供たちに会ったら、連絡くらいしろって言ってね」
「わかりましたご両親の方々」
「ミツヒ兄ちゃん、俺たちも何年かしたら後から行くからな。その前にまずタモダンに入るよ」
「ミツヒ兄ちゃん、私たちもパーティ作って行くからね。いつの日かタモダンで修行するの」
「そうだな、みんなの出発は五年後くらいかな。先に行くけどどこかで会おうな。しかしその前にタモダンは気をつけろよ」
笑顔のサイルト父さんは、片手を出してきたので握手をする。
「強くなって帰ってこい。ミツヒ」
「うん、ありがとう父さん」
ティマル母さんも笑顔だったけど、眼に涙が溜まっていた。
そして優しく抱き寄せて来たので俺も優しく抱き返した。
「ミツヒ、体に気を付けてね。母さん……待ってるわ」
「うん。強くなって帰ってくるよ、母さん」
みんな笑顔で送ってくれたが、ランの眼から大粒の涙がこぼれ光りつたっていた。
母さんは笑顔を保っていたけれど、今になって釣られたのか止めどもなく涙が流れて出していた。
こんな時に力は使わないほうがいいな、見る必要ないし。
見送られることに感謝しないとね。
「それじゃ皆さん、行ってきまーす」
「「「「「 いってらっしゃーーい 」」」」」
皆に手を振り、踵を返し歩き出せば、まだ声援が続いているので一度振り返る。
何だか見られているのが妙に恥ずかしくなり、いきなり力強く、全速力でして走り去ってしまった。
あっ、という間に見えなくなっている俺。
また一度振り返ったらもうタモンの村も見えない場所まで来ていた。
それから数時間後
「ハァハァ、結構走ったな。なんだか既に一日分進んだ?」
以前よりさらに、身体能力が向上しているようだ。
道端の木陰に入り支流で水をすくって飲んで少し休憩する。
ほどなくして立ち上がり歩き出し、これからのことを考える。
まず、またスキル? が覚醒? 進化? していたのだ。
走っているときにまた、ピーン、と頭の中で音が鳴っていたので、何が変わったのか確かめるべく、走りながら運よく遠くにいたホワイトラビットに使って見た。
また一段と凄い変化が起きていたよ。
それはもう色ではない。そして文字でもない。
女性? 少女? の綺麗な澄んだ声で頭の中に語りかけてくる。
【兎、敵意ありません。こちらに反応ありません】
君は誰?
【……】
おーい。
【……】
念話と言った方がいいのか、それも一言たまに二言。
話しかけても会話はできず、常に一方通行。しかも以前は眼に力を入れたりしたけれど、勝手に話しだす事もある。なんだか変な気分だ。
気にしていても仕方がないので、とりあえず、目的地であるルータの町に向かってまた走り出した。
声の事もあったけれど、その後は話しかけてこなかったので順調に走り、日も沈み闇が降りてきたころ、歩きながら俺は辺りを見回す。
「ここらで野宿だな。あの木にするか」
森に入ってすぐの場所に立つ太い木の、四mくらい上の太く二つに分かれた木の枝へ勢いを付けて駆け上る。
そして座り心地を確認して、腰袋から干し肉を取り出し食べながら考える。
「うん、いいね、順調だ。この調子で走れば明日の夕方にはルータに着くんじゃないかな。でも何でこんなに速く走れるんだろう。それに苦しいけど走り続けられるし。これも何かのスキルかな」
父さんと母さんに教えてもらった途中の目印や、現在位置を確認する山立てをしてみたら、俺はルータの町まで約半分の距離に進んでいることがわかった。
普通歩いて六日とはいえ、走ってもそこまでいかない。
走る速さが人並の三倍、いやそれ以上で走っていたのは確実だな。
「考えても仕方がないか。明日も早いから寝よう」
【周囲、動く生命反応ありません】
「ありがとう、おやすみ」
【……】
小枝の葉を体にかぶせ、木の枝にもたれかかって、すぐに深い眠りについた。
翌朝、まだ薄暗い朝早くに起床、干し肉を食べ、水を飲み、軽い準備体操をしてさっそく走り出す。
しばらく走っていると、あの綺麗な澄んだ声が聞こえた。
【三〇〇m先、道右側森の中にオーガが三体】
え?
【気づいていません】
また声だ。
見えるの?
【……】
おーい。
【……】
ま、いいか。
この速さで走り抜ければ大丈夫だろう。
オーガに気づかれる前に走って、もし気が付かれてもその時は逃げ切れるだろうし、戦うのも面倒だしね。
さらに走り進んで行く。
【二〇〇m先、道左側森の中にゴブリンが五体】
また?
【気づいていません】
こんな調子で順調? に走り進んだ。
あ、そうそう。
すれ違う人に会わないのは、タモンの村とルータの町だけをつなぐ道なので、商人が一〇日に一回通るくらいのあまり使われていない道だから。
なので俺も未だに誰ともすれ違っていなかった。
まあ走っているからすれ違っても一瞬だし、気にする事では何のだけれどね。




