第 3話 タモンの村
よろしくお願いします。
相手の攻撃方向が、来る前にわかっているから事前に簡単に回避する。
更に重量のある模擬剣で鍛えたからなのか、アイアンソードも軽い木の枝でも持っているように、速くて力強い攻撃で切り倒せる。
身体能力も以前に増して、格段に向上したのか回避行動も速く、走る速度もなぜだか普通の三倍にはなっているみたいだ。
タモダンに入ったまま、三階層に籠りきりの時もあったけど、厳しいなりにも強くなれると思うと、苦しいけどとても楽しかった。
鍛錬を終えて、タモダンの帰り道にはホーンラビットやレッドラージ、レッドボアも獲った。
魔物の攻撃だけでなく回避や逃げる方向も、先に文字となって浮かぶから先回りするように切り込み、簡単に獲れた。
ラビットやラージは小型の獣なので楽に持って帰れるけど、ボアは大型の上に、ちょっと大変な、と言うよりも面倒な作業があって、内臓をとってから血抜きをして持ち帰る。
村の近くといえど、それでもボアの重さは八〇キロはあるので、両肩に担いで持って帰った。
でも、これも鍛錬のためだと思えば、重くて息を切らし、とても苦しいがそれでも楽しかった。
村の門が見えてくれば、門番のケビンさんも俺を視認したようだ。
話しが聞こえる辺りで声を掛けて来た。
「お、またレッドボアか、最近調子がいいな、ミツヒ。また分けてくれよ」
「こんにちはケビンさん、母さんに分けてもらったら配りますよ」
「いつもありがとうなー」
今じゃ当たり前になったけど、初めてボアを担いで帰った時、門番のケビンさんはボアを両肩で担いだ格好で歩いてきた俺を見て、たまげてたのを覚えている。
そうそう、ケビンさんは五〇歳くらいのしっかりした体つきで、冒険者をやっていた時は剣士だったたしいけど、今では引退してタモンの村に帰ってきて就職し、門番をしている。
ミスリルのロングソードを装備していたので、以前、村長のズーロさんに聞いたら、引退前はB級の冒険者だったらしい。
やっぱり強くないと門番は務まらないのだろうね。
家が見えてくると、サイルト父さんは屋根を修理しているのが見えた。
家に着けば、ティマル母さんは炊事の最中みたいだ。
「父さん母さん、ただいまー」
両肩に乗せているボアを下ろし、肉の解体用の台に乗せる。
頭を傾け肩を叩いていたら、屋根の上から父さんの声が聞こえた。
「おう、おかえりミツヒ、最近は腕が上がったのか、よくレッドボアを獲ってくるな。もう俺の出る幕がなくなりそうだよ、ハッハッハッ」
見上げれば、サイルト父さんは修理の手を休めて笑っていた。
俺の声を聞いたのか、家の中からティマル母さんが出てきた。
「おかえりミツヒ。あらあら、また皆さんに配らないと」
ティマル母さんはさっそくボアを手際よく解体し始めた。
どこにそんな力があるのかわからないけど、小刀でいとも簡単に切り分け解体している。
装備を外した俺は、汗を流そうと風呂支度をし始めると、サイルト父さんが屋根から梯子を伝って降りてくる。
「ミツヒ、父さんと手合せしてみるか」
「え、大丈夫なの? 父さん」
「ミツヒには言ってなかったが、昔は一応、剣技は高かったんだぞ」
「へぇー、初めて聞いた、そうなの? 母さん」
既にボアの解体と、村の住民に配る肉の仕分けを終えて、笑顔で話す、自信満々な表情のティマル母さん。
「そうね、強かったわよ。ウフフ」
解体後の掃除を終えて、笑顔で話す自信満々な顔のティマル母さん。
「納屋に木剣があるから取ってきな。どれだけ強くなったか見てやる」
木剣を取ってきて父さんに渡すと、風切音をさせて素振りをするサイルト父さん。
父さん大丈夫かなぁ。
先に攻撃が読めるから多分俺が勝つだろうし。
けれど、父さんには怪我させたくないしどうしよう。
でも読まないと勝てないし……やるしかないか。
俺は父さんと相対し剣を構えた。
「よし、いつでもいいぞ、かかってこい」
「大丈夫よミツヒ、父さん強いから安心して」
安心? 本当に大丈夫なのかな。しかたがないからやってみよう。
「わかった、それじゃ行くよ」
俺から先に、剣を振り出そうとしたら、{右 回避}と出たのですぐに止め、すかさず下から右攻撃で薙ぎ払うと{飛 後退}と出たが追わなかった。
うわ、避けたよ、凄いな、父さん。
「よくかわす方向が読めたな。なるほど、まあまあ才能はあるようだ。それじゃちょっと本気を出してみようか。ミツヒ、行くぞ」
{攻左 直}すかさず右にかわすがすぐに{攻右 直}
うわっ! 早い! と思うと同時に{攻左 水平}
げえっ! 速すぎ! 何とか剣で受けてかわしたが一瞬で{攻前 直}と出たと同時に俺の頭が割られる。
その直前で父さんの剣が、慣性を、速さを無視したように瞬時に止まり、力なく尻餅をつくようにへたり込んだ。
「ハァハァ。何それ、強すぎるよ父さん、勝てると思ったのに全然無理。フゥ」
「それは残念だったなミツヒ。有頂天にならず上には上がいることを知ったほうがいいぞ。それと、動作はいいがもっと素早く動くと同時に打って出ないとな。素質はあるよミツヒ。繊細でいて強い動きを考えろ、常に無駄のない動きもだ。がんばれよ」
先に読めているのに避けられないって、なんて尋常じゃない速さなんだよ。
――父さんは凄かったんだな。
未熟な俺はまだまだ鍛錬しないといけないや。
「ウフフ、だから強いって言ったでしょ、ミツヒ」
初めから安心して笑顔で見ていた母さん。
父さんは何かを確かめるように剣を振っている。
「本当強いや。なんでそんなに父さんは強いの? 昔は冒険者だったの?」
「まあ、その、なんだ……いろいろとな」
「あらあら、ウフフ」
「うーん、なんだろう。ま、いいや。明日からまた頑張るよ」
それからは、更に自身に厳しくしてタモダンでの鍛錬と毎朝夕の素振り、畑の農作業と収穫と毎日を多忙に過ごしたことは言うまでもないな。
そして二年後
一五歳になった。




