第11話 スマルクの町
よろしくお願いします。
椅子に座るとゴルドアさんが話し始める。
「ミツヒ。だったか? そうか、お前が」
ゴルドアさんがまじまじと俺を見る。
「うん、似ているわ、面影もあるし」
エフィルさんが優しい眼で俺を見る。
「なんなの? よくわからないわ」
リリが訳の分からない眼で俺を見る。
「な、何なのでしょうか」
リリ同様にまったく理解不能に陥っている俺がいる。
すると、まあ聞け、とゴルドアさんが話し始めた
「実はな、ミツヒの両親と俺たちは昔、冒険者としてパーティを組んでいたんだ、信頼し合えるな。それもかなり有名なパーティだった」
「そうね、懐かしいわ、あの時が」
ゴルドアさん曰く
依頼を受け、各所を回り、難易度もかなり高い討伐依頼も受け、強かったが更に強くなって周囲の冒険者やギルドから一目も二目も置かれるようになった。
そして数年後、最後の仕事になったのが、王都に襲来してくる魔物の大軍団が攻めてきたときに、俺たちのパーティが中心になって他のパーティと一緒に撃滅し、撃退したんだ。
多少犠牲は出たがな。
そして討伐の褒章を受けたのち、俺たちのパーティは解散になった。
サイルトとティマルが、二人で生まれ故郷のタモンの村で暮らすと言ってな。
それは俺たちも納得して別れたんだ。
別れた後、俺とエフィルは一年ほどだが冒険者を続けて依頼を受けていたがな。
どこかに二人がいない、という少し寂しさがあってな。
エフィルと話し合い二人で引退してこの宿を始めたんだ。
そしてしばらくしてリリが生まれた。
別れてしばらくは二人の事を思い出してはいたが、働いているうちに徐々に薄れて行ったよ、子育て中のリリもいるからな。
そして今になる。
長い間忘れていたが先日、ミツヒ、お前がここへ入って来た時にまず見たのが黒髪と黒瞳だ。
ふと、サイルトを思い出したが、まさかな。と思って気にしなかったんだ。
んでな、今日、ミツヒが、タモンの村から来た、というのを聞いてな。
すぐに思い出したんだ。二人と別れるとき、ティマルの言葉をな。
《ねぇ、ゴルドア、エフィル。将来に、もし、私たちの子供が来たり何処かで出会ったりしたら、無理にとは言わないけど、少しでいいから力になってあげてほしいな》
てな。
んでな、今一度おまえを見たら、似ていると思ったよ、二人にな。
「だから、今日から此処で働け、ミツヒ。いや、働いてほしい。サイルトとティマルの子供が来たんだ。ここで力になってやらないと、タモンの村にいるあいつらに申し訳が立たん」
テーブルに両手をつき、俺に頭を下げた。
「あの二人は昔から、頼みごとなんか無かったわ。唯一の頼みごとがそれだったのよ。私も思い出したわ。」
その横で、エフィルさんが昔を思い出したようにこぼれる涙を拭いていた。
「あ、そんな、頭を上げてください、ゴルドアさん。ありがとうございます、エフィルさん。こちらこそ、よろしくお願いします。そうだったんですか、昔の話は、何度か聞いたことがあったんですけど、聞いても全く教えてくれなかったので、初めて知りました」
リリは頬杖しているけど、何かを発見した表情だ。
「へぇー、私も知らなかったなー、父さんと母さんが冒険者だったなんてさー」
「それはな、解散する時にな、みんなで話し合って決めたんだ。このことはずっと黙っていようとな。だから当時の王都や各ギルド、他の冒険者には解散後、俺たちの事を一切触れまわることのないように、話に出さないように釘を刺しておいたからな。始めは無理だと言ってはいたが、ティマルとエフィルが前に出たら、渋々承諾していたよ」
「そうね、私たちを怒らせたら大変でしたからね、ウフフ」
「ただ、誰から聞いたのか、今もそれを知っている者もいるが、皆、黙っているのさ」
「そんなに凄いパーティだったんですか。是非教えてください、俺の知らない父さんや母さんのことも知りたいです」
「それじゃ少しだけだぞ、今後、村に帰る事があっても、あの二人には絶対に黙っておけよ。絶対だぞ」
「はい、約束します」
「ティマルは、怒らせると私より怖いからねえ。ウフフ」
ゴルドアさん曰く
パーティの名は、獄炎。命名は、ティマルとエフィル。
俺と同じ年で冒険者になり、依頼を受けた旅先で二人と知り合った。
意気投合してパーティを結成して、依頼、討伐をこなして強くなっていった。
剣士がサイルト、メイスが俺ゴルドアで二人とも魔法も使える、階級はS級 。
回復魔法がティマルとエフィルで剣技も出来る、階級はA級でS級に近かった。
戦闘内容も、完璧なパーティだった。
「凄かったんですね、だから試合をしても、父さんには一度も触れられず、全く太刀打ちできなかったんだ」
「サイルトに一太刀当てるなんざ、ミツヒはまだまだ未熟だよ。もっと強くなれ」
「はい。で、獄炎、という名前も凄いですが、二つ名が何故、破壊、なんですか?」
あれ? 何かを思いだしたように、テヘペロッとエフィルさんが厨房に入って行った。
「あー、それはだな、俺とサイルトは剣技がメインで、そこそこの攻撃魔法ぐらいなんだが、ティマルとエフィルは回復魔法をメインにしていると言うのは表向き、建前でな。
普段はその体系で戦うんだが、大きめの討伐や範囲魔法が多い戦いのときになるとな、戦闘が始まるとあの二人が、冷たい笑顔を浮かべながら攻撃魔法を連打してな。
その二人の攻撃魔法がまた、手加減なんて全くするつもりも無く巨大過ぎてな。森でも草原でも鬼神の如く片っ端から焼き尽くしたり、クレーターの穴だらけにするもんだからな、その名がついた。
またな、いつだか大きい討伐のあとに宴があって酒を飲んでな、ティマルとエフィルが調子に乗って酔っぱらって、どっちが強いかと口喧嘩になってな。
二人が外に出て行って討伐跡で一晩中、炎魔法や爆裂魔法なんかの魔法攻撃で戦ってな。
朝迎えに行ったら虫一匹いなくなった荒れ地で、二人ともボロボロの服で大の字で寝ていたんだ。結果は引き分けだと。その後は、さらに仲良くなったけどな」
あ、だからパーティの名前も破壊なのか。
すると、ゴルドアさんが前のめりになって、手を口に丸めるように当てて小声で話しかけて来る。
「あの二人は怒らせるなよ、ほんと怖いぞ限度を知らんからな。俺やサイルトなんか可愛いもんだ」
「はい、わかりました」
俺が言っている傍でリリが、大きな声を出す。
「お母さーーん、父さんが怖いってさーー」
あ、奥でバキッて音が聞こえたぞ。あ、ゴルドアさんがビクッてなった。
「ま、だからこの話はここまでだ、他言無用だぞ」
「両親の事を知ることが出来て良かったです、ありがとうございました」
そそくさと厨房へ戻るゴルドアさん。
奥でエフィルさんが待ち受けていたかのように、余計なことを、とか、言わなくても、とか冷たい声で言ってる。
平手で叩かれている背中を向けて頷いているゴルドアさん。
あ、エフィルさんの怖さがちょっとだけ理解した気がした。
でも、母さんが怖いなんて理解不能だったことは、心の奥にしまっておこうと思う。
「ミツヒは一五歳かぁ、私は一三歳だから二つ下だね、よろしくね」
「うん、よろしくね、リリ」
奥からゴルドアさんが大声で「リリには手をだすなよ!!」って言ってるし。
聞こえない振りしたら、その横でエフィルさんは、あらあら、と優しい笑顔が戻っていた。




