第10話 スマルクの町
よろしくお願いします。
翌日朝
いつもより少し遅くに起床する。
階段を下り食堂に行ったら、厨房にはエフィルさんがいた。
けれど、他は誰もいない。
周囲を見渡していると、俺に気が付いたエフィルさんが声を掛けてくれた。
「おはよう、ミツヒさん。他のお客さんは、朝早くに出て行ったわよ、普通、冒険者は夜、若しくは日も昇らない朝早くにギルドに行って掲示板に貼ってある割のいい依頼を探すからね」
「おはようございます、エフィルさん。そうなんですか」
「そうよ。はい朝食、卵炒め(スクランブルエッグ)とパンと果汁」
いただきます。と、一口を口に入れる。
おおっ、柔らかく、そして弾力もある食感で甘塩の加減が絶妙だ。
果汁も酸味があり甘酸っぱい。
とても美味しくいただきました。
食後は部屋に戻らないで、そのままマイウ亭を出てギルドに向かった。
広間に入れば、依頼を受けた冒険者は当然いない。
今いるのはあぶれてしまったような数人が椅子に座っているだけだった。
壁の求人を見たけど昨日と同様で目新しい募集広告は無かった。
――残念。
なら予定通り町中を散策しながら店を見て回ろう。
商店街を歩きながら眺めてしばらくすると武器屋があった。
初めて見たけど頑丈な造りだな。多分、防犯対策なのかもしれないな。
持って行かれたりしたら大事だからね。
窓越しに陳列してある剣を見ると、何本かの剣が並んでいる中で、大事そうに二本が丁寧に並べてあった。
ミスリルソード 「大剣」 金貨400枚
オリハルコンソード「小剣」 金貨1600枚
アダマンタイト 「入荷未定」
うわっ、高い! 絶対買えないよ。それにアダマンタイトって何? すごいの? 俺、初めて聞いたし知らないし。
武器屋を離れ、驚きながら更に進んで行くと、今度は防具屋があった。
多分高いのだろうから、覚悟して陳列してある防具を見る。
でも決して金額は見ない。
ミスリルの胸当 ミスリルの鎧 オリハルコンの
銀色に光って眼まいがしてきた。具合が悪くなるから他の店に行こう。
さらに歩いて回り一区画入った違う街区に行くと、小さな商店らしい店が建ち並んでいる。
魔法具が陳列してある店に入ってみて回ると、両手を前にもみながら店主であろう小太りのおじさんが、笑顔で奥から出てくる。
「いらっしゃい、何か探し物かい」
「いえ、初めてこの町に来て、こういった店に入るのも初めて見るのでよくわかりません」
「そうかい、それじゃこれなんかどうだ? 売れているよ」
手渡されたのは、手首や足首に着けるといい魔法具らしい。
身代わりのミサンガ 金貨1枚、と値札に書かれていた。
「ヘェ。身代わりしてくれる割には安いですね」
【偽物です】
え、偽物かよっ。
「いや、これはいらないです」
店主に返せば別な物を手渡して来た。
「残念だな。それじゃ、こっちはどうかな。これも売れて、品切れになりそうだよ」
手渡されたのは銀色の指輪だった。
魔法防御の指輪 金貨一枚、と書かれていた。
【偽物です】
これもかー。
【ここにある物、全部偽物です】
「すみません、帰ります」
店主に返し、踵を返して店から出ようとしたら後ろで、チッ、と聞こえてきた。
助かったよ、ありがとう。でも久しぶりだね。
【……】
元気だった?
【……】
大丈夫そうだし、まあ、いいか。
その後は、昼も食べずに町を散策したが、着替えの服を買っただけで、収穫は無かった。
帰りにもう一度、念のため、もしかしたら、奇跡の一枚が、等と期待しながらギルドの張り紙を見に行ったがやはり無かった。
俺が肩を落としたそのときに、カウンターから立ち上がり歩み寄って来た受付嬢のミレアさんから声をかけられた。
あ、やはり思った通りスタイルがいい。と感じてしまった。
両手を後ろに組んで話してくる笑顔のミレアさん。
「何か見つかりましたか、ミツヒさん」
「いえ、全然だめでした。明日からまた探します」
「そうですか、残念でしたね。でも、ミツヒさん。求人が無くても直接聞いてみたらどうですか? 例えば、マイウ亭とか、マイウ亭とか」
「え? 二度言いました? マイウ亭って。マイウ亭って俺が泊まっている?」
「例えばですよ、例えば。聞いてみてはいかがかな。と思いました」
「そうですか、そういうのもありなんですね。ありがとうございます、帰って聞いてみます」
「例えばですよ、内緒ですよ、ミツヒさん、ダメでしたらすみません」
「いい事を聞きました。では失礼します」
ギルドを出るとき振り返ったら、ミレアさんが、笑顔で小さく手を振っていた。
ミレアさんはいい人だな。それに綺麗だしスタイルいいし。
【滅べばいいのです】
え? 何で? ダメでしょ。
【……】
まただ。
日も沈み辺りは暗くなり始め、遅くなっていたので、マイウ亭に帰る。
一度部屋に戻り、裏のシャワーで体を洗って食堂兼酒場に行く。
もうこの時間から昨日と同じで賑やかで、厨房も忙しそうだ。
リリにも言われていないけれど、大丈夫かな、と思い、昨日と同じカウンターの隅に座る。
リリが俺を見て、可愛い笑顔で厨房まで届く大きな声を上げ、食事一人前! カウンター! と注文を入れてくれた。
よく気が付くな、と感心する。
今日はレッドグリズリーの焼肉とのこと。
肉を薄く切って何枚も重ねてあり、肉の間には玉ねぎの輪切りが挟んである。
その上からタレが掛けてあり、いい匂いも一緒になって食欲が湧く。
一口食べると肉にタレが染み込んでいて、肉もとても柔らかくて美味い。
間の玉ねぎも良い味出しているし。
今日は昼も忘れて抜いていたので夢中で美味しく食べてしまった。
今は二人共、調理中でとても忙しそうなので、一度部屋に戻り、出直すことにする。
しかし、出直して覗いても夜の賑わいは遅くまで続いていたので、明日にしようとベッドに潜り込み就寝。
翌日朝、昨日よりも遅く、宿泊も二泊目が終わり、荷造りをして下に降りる。
エフィルさんに朝食の、卵焼きとパンと牛乳を出してもらい美味しくいただいた。
ゴルドアさんは厨房にいて、リリはまだ寝ているようでいない。
頃合いを見て、片付けているエフィルさんに声をかけた。
「すみません、エフィルさん。ちょっといいですか」
エフィルさんは、手を止め笑顔で振り返る。
「なんでしょう、ミツヒさん」
「あのー、実はお願いがあるのですが。安くてもいいです、夜のお店だけでいいので、ここで働かせてもらえませんか?」
「あらあら、それは急ね、どうしましょう。ちょっと待ってね」
エフィルさんがカウンター越しにゴルドアさんに話しかけた。
「父さんっ、ミツヒさんがうちの酒場で働きたいって言っているけれど……」
「間に合っている、いらねえよ」
背中を向けて仕事をしている。
「ごめんね、ミツヒさん。主人がああ言ってるし」
「いえ、いいんです。無理にお願いしたのは俺ですから。朝食美味しかったです、ご馳走様でした」
別の宿にするのも面倒だと思い、宿泊を延長しようとしていたのだけれど、これでは、ばつが悪いので止めることにする。
宿を出るため、席を立ち背負い袋を背負って剣を装備していると、エフィルさんが何を考えているか分からないけれど、何かが気になるのか、俺をじっくり見つめながら聞いてきた。
「そういえばミツヒさんは、どこから来たのかしら」
「最北にあるタモンの村です。一五歳になったので、両親が旅に出てこい、と家を出してもらいました。そしてルータの町からこのスマルクの町へ来ました」
奥でガタン、と何かが倒れる音がして、重く大きな床音をさせてゴルドアさんが厨房から出てきた。
「おまえ、両親の名前は?」
「え? 父さんはサイルト、母さんはティマルです」
エフィルさんが何を思い出したのか、ハッ、と俺を見て口に手を当てたかと思ったら、急にあわてて厨房へ入って行った。
初めて会ったから何も無いと思うけど、すぐに厨房の奥からエフィルさんの嗚咽に似た声が聞こえる。
そして、突如ゴルドアさんが俺に向かって言い放った。
「今日から酒場で働け、住込み二食付、一日銀貨一枚。部屋は泊まっていた部屋の二つ奥だ」
「え? え? どうしたんですか? いきなり。え?」
「気が変わらないうちに早くしろ。いやなら止めておけ。」
「は、はい。よろしくお願いします」
さらにゴルドアさんの声が大きくなる。
こ、怖い。
「自分の家のように使っていいから、荷解きして準備が出来たら降りてこい」
「は、はい」
急な採用で訳がわからずにゴルドアさんに言われた部屋で荷を解く。
この部屋は泊まっていた部屋と同じくらいだが、服の棚や小棚が設置してあり住むのに十分な部屋。
荷解きも大した物はないから、すぐに終わったので下に降りる。
食堂にはゴルドアさんとエフィルさんがテーブル席の椅子で、俺を待っているかのように座っている。
で、今はその隣にリリも座っている。
……何だかちょっと怖い。
緊張しながら俺は、三人に相対し、正面の椅子に座る形になる。




