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私達の最良の時/私達は幸いなる少数  作者: MV E.Satow maru
第2章 千切れる糸
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2020年8月(1)

古城こじょうミフユ


 私達5人は送られてきたグリーン券を持って、10時台の新神戸駅発ののぞみ号で東京へと向かった。


 ふーちゃん宛てに届いたレコード会社から送られてきたチケットは6席分。ティエンフェイは5人なのに。


「なんで?」


思わずみんなふーちゃんに突っ込んだ。


「それがねえ。こんな紙が入ってて」


 それは送ってくれた映画の音楽制作担当のレコード会社の事務の方のメモだった。

「楽器を置くのに必要だろうからと琴乃さんの指示で1席足してあります」


流石は琴乃さん。万全の配慮だった。


 新幹線新大阪駅のプラットホームでは中谷ちゅうやちゃんなんか修学旅行状態だった。


「グリーン車、グリーン車」

「あんまり浮かれ騒がない!金出せば乗れるしポイント貯めてもアップグレードできる。別にこれからだって機会はあるでしょうに」


 朱里しゅり先輩が教育的指導を中谷ちゅうやちゃんに与えていた。お手上げのポーズの摩耶まーや。それを見て苦笑しているふーちゃんと私。

入線してきた新大阪駅始発の『のぞみ』号。中谷ちゅうやちゃん、浮かれて乗り込んだけどグリーン車の空気を見た朱里しゅり先輩が改めて釘を刺したため流石に静かになった。


 私は北側窓際席に座った摩耶まーやの隣、通路側の席に座った。


「やっぱり山側でしょ」


 摩耶まーやは私の方を見ながらそんな事を言う。


「富士山側?」


 たまに聞くけどよくわからない言い方だなあと思って聞き返して見た。


「冬ちゃん、神奈川の人だったから分かんないか」

「そう、たまにこっちの人の言う事は謎がある。わかんない」


 摩耶まーやはお里自慢を説明してくれた。


「神戸って山が見えたら北だし、海が見えたら南だから、山側、海側って言っちゃうのよね。私って神戸っ子だからさ」

「出た。兵庫県民じゃなくて神戸っ子アピール」

「冬ちゃんはそう言うけど、神奈川県の横浜市の人だってハマっ子って言うんでしょ」

「私の実家は川崎市だから横浜なんて神奈川県じゃないぐらいに思ってるけど?」

「うわあ。関東でもそういうねじれた意識があるのね」

「ははは。言われたら同じかな。でも西宮の人とか、摩耶まーやに言われたくないと思うけどな」

「マミさんならきりかえしてきそう」


 私が受験時に知り合った、こちらで最初に出来た友人でたまにティエンフェイの音楽を聞きに来てくれるようになった大井マミちゃんは西宮っ子なのだ。


摩耶まーやは今回の話はどう思ってるの?私は音楽はみんなに引っ張ってもらって始めたからピンとこなくて」

「歌の通りかな。Finest hour。人生振り返ってこんな機会が来ただなんて奇跡、人生最良の時だって振り返るんじゃない?」

「こんな機会、たしかに人生の一つのマイルストーンだけどもっと凄い事もあるんじゃないの?」

「そりゃあね。でも人生なんてわかんないよ。今が常に後の世から見たら最良の時だというつもりで頑張って楽しまなっきゃって思うから」


 彼女はそういうと乗車前にコンビニで買っておいたコーヒーボトル缶を飲んだ。彼女の強さ、前向きさを垣間見た気がした。


 東京駅には昼過ぎに着いた。ホームにはレコード会社の人が迎えに来てくれていた。オーディションの時にも対応してくれた若手の人だった。今日は半袖ワイシャツ、ネクタイで「神戸総合大学深江キャンパス軽音楽部様」という紙を持って待っていてくれた。


「こんにちは。お世話になります」


とみんなで挨拶した。


「お疲れ様でした。まずはおめでとうと言わせて下さい。……スタジオまで車を用意しているので案内しますから着いて来て下さいね」

『はーい』


 みんなで一斉に答えると荷物を担いだり引っ張ったりしながら駐車場へ向かった。

 駐車場で待っていたのはマイクロバスだった。2席で1人ぐらいの割合で席につくとバスはスタジオへと向かった。マイクでレコード会社の人が次の予定を説明してくれた。


「このままスタジオに行きます。終わったらホテルまでこの車で送るので貴重品や演奏関係の機材以外は車内に置いてもらっていいですから」


 演奏楽曲自体は琴乃さんとの間でやり取りをしていたので学校の練習スタジオでも練習はしていたし、その録音データを琴乃さんに聞いてもらったりもしていた関係でよくビデオチャットで話はしていた。


「まずティエンフェイの録音を先に済ませます。その後、作画用のビデオ撮影になるけど、通し演奏のものと演奏の手などの動きを撮るものと分けて細かく撮っていくので大変だけど協力してね。もう一つの管弦楽インストバンドを交えた録音、録画は休み明けにやる予定」


 こんな話を琴乃さんからは先に言われていた。なのでスタジオに着くとすぐ琴乃さんも入ってのリハーサルとなった。


 今回のスタジオセッションは1ヶ月近いの録音・録画日程が組まれていた。長かったのは通常の演奏録音、楽器演奏の参考映像収録の他に劇中の練習風景の音楽テイク録音のためでもあった。各自楽器が練習していたりといろいろとバリエーションが多かった。そして琴乃さんも想定し切れてなかったけど、白山監督がきめ細かく注文をしていて膨大なテイクが発生した。


「えーとね。ここはドラムの子が主人公とギターの子が喧嘩してうんざりして一発キック入れるところなんだ。で、ついでに軽く鳴らして溜息を吐く所なので」


監督が調整室から「演技指導」をしてくる。中谷ちゅうやちゃんはにっこりと返す。


「白山監督。そういうつもりでやってますけど。何が不味いです?」


 白山監督のマイクがOFFになった。調整室では琴乃さんが間に入って白山監督と意見調整しているのが見える。そして再び白山監督のマイクがONになった。


「キック一発入れて2人の喧嘩を止める。2人がこちらを向くから一呼吸置いてから即興でドラムやシンバルを鳴らしてほしい。い・い・か・げ・ん・に・し・ろ。こんな感じで。で、止めて溜息を吐いて。さっきのだと即興が短くて尺が足りないんだ」

「了解。じゃあ、リテイクしてもらっていいですか?」


 調整室の録音エンジニアがOKサインを出して来た。白山監督も手元のストップウォッチを見つめている。

 中谷ちゅうやちゃんがキックを入れて即興で「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ」とリズミカルにドラムを叩いて最後にシンバルを一発鳴らして音を止めた。白山監督はその瞬間に止めたストップウオッチを見てからOKを出した。


 こんな感じ。お互い何が必要か最初感覚が掴めなかったせいだった。これはビデオコンテに口でメロディやリズムを入れた上で音楽台本が作られて琴乃さんがチェックしたものが録音される事になって徐々にペースアップしていった。

ヴォーカルは大丈夫かなあと思っていたら、楽器のような録画はさほどされなかったけど、演技演奏としての歌唱はあったので、この点はさほど変わりなくビデオコンテと音楽台本を読み込んで臨む事になった。


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