十話 職業体験
教室に入るとやっぱりというか、案の定というか、僕しか来ていなかった。
「まあ、当たり前だよね」
そもそも誰もいないような時間を狙って来たようなものだし。
「でも、若干寂しい・・・」
一人の教室で一人で呟く。
より惨めだ。
やめよう。
「そういえば、そろそろ提出期限だったな、アレ」
そう言って僕は学校カバンからあるプリントを出した。
「職業体験」
そう。
一週間後に実施されるのだ。
このイベントが。
内容は至って簡単。
自分が希望する会社などの職場に見学、体験をしに行けるのだ。
「どこにしようかな~」
当然、社長でもある僕がこれを逃すことはない。
せっかくの普段は見ることのできない現場の空気なのだ。
従業員じゃないと分からない部分を体験したい。
「せっかくだから僕の立場じゃ体験できないところがいいな~」
僕がうんうん悩んでいると登校してきたクラスメイトが教室に入って来た。
どうやらもうそんな時間らしい。
「おはよー」
僕があいさつすると向こうもあいさつし返してくれる。
まあ、若干この時間帯に僕がいることが珍しそうにしていたけど。
さらに少し時間が経つと秋山さんが登校してきた。
「高波君、おはよー」
「あ、おはよー」
「ねえ、ちょっといい?」
「?」
そう言って秋山さんは僕に近づいてくる。
「な、なに?」
「いや、校門にあなたとこの前レストランに来てた人がいたんだけど、何かあったの?」
まだいたのか・・・。
学校はどうしたんだ?
まさか、休んだのか?
今回は休んでもいいように手は回してないぞ?
「ちょっとケンカしたんだ」
「そうなの?」
「うん。だから気にしないで。ちゃんと仲直りはするから」
「まあ、本人がそう言うなら部外者は黙るけど」
「ありがと」
「ううん。こっちこそ入り込んだこと聞いてごめんね」
そう言って秋山さんは自分の席についた。
そうこうしていると授業が始まった。
ちなみに山田はギリギリに登校してきた。
教師に苦い顔されていたよ。
・・・
ホームルームの時間。
「出来れば今日で職業体験の紙を提出してくれー」
とのことなので早速出しますかね。
僕が選んだのは個人経営の喫茶店だ。
個人経営は会社経営している僕にとっては気になる職場の一つだからな。
これなら僕の知らないことや現場の空気ってものも知ることが出来るだろう。
紙を先生のところまで出しに行こうと席から立ち、歩いていると急に教室のドアが開いた。
「ちょっと待ったー!」
入って来たのは実咲。
まあ、僕のいる教室にこんな突入してくるのは実咲ぐらいしか思い浮かばないけど・・・。
「ど、どうかしたの?」
「ちょっとそれ見せなさい!」
そう言うと僕の職業体験の紙を奪い取る。
「な、何なの?」
「・・・やっぱり」
「?」
何か呟いたと思ったら急に僕の提出の紙に書き出した。
「はい!」
そして書き終わったのか、僕に渡してくる。
「?」
僕は何を書かれたのだろうかと思って見てみると、そこには
「HWM社・・・」
そう。
僕の会社の名前が体験先のところに書かれていた。
「ちょっ⁉」
これ、僕が行ったら色々面倒になるじゃん!
「消せないようにボールペンで書いたから」
「うそ⁉」
改めて見ると本当にボールペンで書いてある。
僕がそれにガクッと項垂れる。
「ちなみに、書き直そうと新しい紙を貰おうとしても無駄だから」
「なんで?」
「私が全部預かった!」
おおふ。
僕の職業体験先が決定した瞬間だった。
読んでくれて感謝です。
次の話もよろしくお願いします。




