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3 そしてギルドへ3

「なあ、ルクスよ。もっとおまえのことを話してみろ」

ベッドの上にちょこんと腰掛け、両足をぶらぶらと揺らしながらティアが言った。

「僕のこと?」

「うむ。わたしを本来の姿に戻すためにも、おまえのことをもっとよく知っておく必要があるだろう?」

「う……。そう言われると、いろいろと心苦しいです」

自分のせいで今の姿になってしまったのだから、そう言われると返す言葉もない。

ルクスが申し訳なさそうに頬を掻くと、ティアはふふんと得意げに鼻を鳴らした。


「まあ、ほれ。堅苦しい話は抜きだ」

そう言うと、ティアの身体が淡い光に包まれた。

次の瞬間、身にまとっていた衣服が光の粒となって消え、肌着一枚の姿へと変わる。

「へえ。魔族ってすごいんだね。そんなに簡単に服まで変えられるなんて」

「ふふん。魔素にちょいと魔力を練り込んでやれば、この程度は造作もないことよ」

ティアは得意げに胸を張った。

「ほれ、おまえも脱げ脱げ」

「えっ?」

「だから、堅苦しいのはなしだと言っただろう?」

「ちょ、ちょっと! いきなり剥かないでよ!」

ティアはルクスの抗議などお構いなしに、その服へと手を伸ばした。

「なんだ。わたしとおまえの仲ではないか」

「そういう問題じゃないって!」

「むう……」

不満そうに頬を膨らませるティア。

「もう、わかったから! 自分で脱ぐからさ」

ルクスは慌ててその手を払い、自分で上着を脱ぎ始めた。

まったく、この少女には羞恥心というものがないのだろうか。

そんなことを考えながら、ルクスは小さく息をついた。


「んーと……どこから話せばいいんだろう」

「そうだな。まずは小さい頃の話でも聞かせてみろ。どんな小僧だったのだ?」

ティアは興味津々といった様子で身を乗り出した。

ルクスは少し考えるように視線を上げ、それから静かに口を開いた。

「僕は戦争孤児だったんだ。それを教会に拾われたんだよ。真聖光教会っていうところにね」

「真聖光教会……」

ティアの表情がわずかに変わった。

「ああ、三国協定の後に設立された組織か」

「そうらしいね。僕もそう教えられているよ」

「ふむ……」

ティアは小さく頷いた。

「人族狩りによって滅亡寸前まで追い詰められた人族。奴隷として売買される者も後を絶たず、各地で人族の奴隷化が横行していた時代だな」

「うん……」

「だが、人族が完全に滅んでしまえば、今度は自分たちの利益も失われる。そう考えた三国が中心となり、人族の保護を目的とした条約を締結した。それが三国協定というわけだ」

ティアは指を折りながら続ける。

「中心となったのは獣族、ドワーフ族、エルフ族だったな」

「ずいぶん昔の話らしいけど、ティアは詳しいね」

「当然だ。わたしが生きてきた年月を考えれば、つい昨日のことのようなものだがな」

ティアはふふんと鼻を鳴らした。

長命な魔族にとっては、歴史の教科書に載るような出来事も、彼女にとっては遠い昔の思い出程度なのかもしれない。


「それで、教会の話に戻るんだけど……」

ルクスは話を続けた。

「実は僕、神父になる適性がなかったんだよね」

「適性?」

「うん。神父って、神の力を借りて奇跡を起こしたり、いろんな問題を解決したりするでしょ?」

「まあ、そうだな」

「でも、うちの教会の場合、その手段がどうにも物理的というか……」

「物理的?」

「なんというか……暴力的? かな。あはは……」

「…………」

ティアは怪訝そうに眉をひそめた。

「大丈夫なのか、そこの神父は」

「う、うん。たぶん……」

ルクスは曖昧に笑った。

どうやら、あまり深く追及されたくない話題らしい。

「それでね。僕には珍しく、光魔術の素養が少しだけあったんだ」

「ほう。それで冒険者になったというわけか」

「そういうこと。神父にはなれなかったけど、せっかくの力を活かしたかったからね」

「なるほどな。それで冒険者になり、ダンジョンに潜って死にかけたと」

「うっ……。なかなか痛いところを突くね、ティア」

「ふん。まったく、世話の焼ける男だ」

ティアは呆れたように腕を組んだ。

「もっと感謝されてもよいと思うのだがなあ。わたしは」

「うん。それについては、本当に感謝しています。はい」

「うむ。よい」

ティアは満足げに頷いた。

どうやら、ルクスを救った功績については、まだまだ恩を着せるつもりらしい。


「それで……教会には、家族みたいに一緒に暮らしていた姉や妹がいてさ」

ルクスの表情が、ふっと柔らかくなった。

「血のつながりはないんだけど、みんな本当の家族みたいで……」

「ふうん?」

「姉さんは昔からしっかり者で、妹はいつも元気いっぱいでね。僕が冒険者になったときも、ずいぶん心配してくれたんだ」

「…………」

「今頃、どうしてるかな……」

懐かしそうに微笑むルクス。

けれど、さっきからティアの相づちがない。

「……ティア?」

隣に目を向けると、そこにはベッドの上で丸くなった少女の姿があった。

「すぅ……すぅ……」

「…………」

どうやら、眠ってしまったらしい。

先ほどまであれほど興味津々に質問していたというのに、肝心の話を聞き始めたところでこれである。

「……寝ちゃったか」

ルクスは苦笑した。

小さな寝息を立てるその姿は、つい先ほどまで高圧的な態度を取っていた吸血鬼とは思えない。

「ふふ……」

思わず頬が緩む。


「こうして見ると、ただの可愛い女の子なんだけどなあ……」

そう呟くと、ルクスはティアにそっと毛布を掛けてやった。

すると、ティアが小さく身じろぎする。

「……ん」

「起こしちゃったかな?」

しかし、目を覚ます様子はない。

ルクスはその寝顔をもう一度眺めると、自分もベッドの端に横になった。

「今日は、本当にいろんなことがあったな……」

死にかけたと思えば、自身に奇跡のような現象が起き、挙げ句の果てには吸血鬼まで少女の姿に変えてしまった。

おまけに、今ではその本人と同じ部屋で過ごしている。

少し前までの自分に話しても、きっと信じてもらえないだろう。

そんなことを考えているうちに、ルクスの意識も次第にまどろんでいく。

やがて部屋には、二人の穏やかな寝息だけが残された。


* * *


「ルクスさーん! おはようございまっす!」

翌朝。

勢いよく部屋の扉を開けたのは、ギルド職員のダリアだった。

「そろそろ昨日の報告の続きを聞かせてもらおうと思いまして――あれ? まだ寝てるのかなあ?」

返事はない。

ダリアは不思議そうに首を傾げた。

「まったく、朝ですよー。ルクスさーん?」

扉の前で呼びかけてみるが、やはり反応はない。

仕方なく、そっとドアノブに手をかけた。

「あれ。鍵が開いてる。不用心ですねえ」

そう呟きながら、ダリアは遠慮がちに扉を開いた。

すると――。


「……ん。ティア……。朝からそんな……」

寝ぼけたルクスの声が聞こえてきた。

「よいではないか。わたしとおまえの仲であろう?」

「ん……でも……」

ちうちう。

「…………」

ダリアの動きが、ぴたりと止まった。

今の声は……?

まさか。

恐る恐る、ベッドのほうへ視線を向ける。

そこには、ルクスの首元にかぶりついている小さな少女の姿があった。

白銀の髪を揺らしながら、夢中になって何かをしている。

しかも、ルクスはというと、寝ぼけたまま抵抗する様子もない。

「…………な」

ダリアの顔が、みるみるうちに引きつっていく。

「な、な……」

状況を理解した瞬間、彼女の顔が真っ赤になった。

そして――。

「え、えっちなことは禁止ですけどー!?」

朝のギルドに、ダリアの絶叫が響き渡った。


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