↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に倒されるチュートリアルの中ボスに転生したので、毎回ちゃんと負けてあげます ~死んだはずの俺、正体を隠して勇者に剣を教えています~  作者: おはぎだんご
第4章 作者の負け方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/81

第52話 【リオ視点】つながる

 宿の部屋の床に、全部並べてみた。


 ランプの明かりの下で、一つずつ。

 ノエルとボルドさんは隣の部屋で眠っていて、ミレイユさんは、たぶん、まだ起きている。壁の向こうから、ときどき本をめくる音がする。


 一つ目。黒い金属のかけら。


 廃砦の帰り道、岩喰いのトロルが見えない斬撃で真っ二つにされたとき、残骸の上にひらりと落ちてきたもの。

 僕が聖剣で割った、魔将の兜のかけら。


 二つ目。黒い削りかす。


 白霧の神殿で、氷の巨人が砕け散ったあと、氷の山の中から掘り出したもの。

 爪の先ほどの大きさしかない。でも、ランプにかざすと、かけらと同じ黒が同じように鈍く光る。


 ――氷の巨人の中に、黒い鉄でできた何かが、入っていた。


 三つ目は、物じゃない。言葉だ。


 ザハルの闘技場で、ガルムさんが言った。

 ヴァルガスと、同じことをする。


 僕の受け流し方を見て。

 その受け流し方を教えてくれたのは、先生だ。

 何度も、先生に聞こうとした。でも、聞けなかった。先生が何と答えるのかが、怖かったから。


***


 四つ目。銀色の髪。


 ザハルで、ボルドさんの傷を冷やしてくれた、砂色のフードの旅の人。

 布の隙間から、一筋だけ銀色の髪がこぼれていた。


 白霧の神殿で氷の巨人を纏う前に、僕に「全力で来なさい」と言った人と、同じ色。


 あの人は、氷の巨人と一緒に砕け散ったはずだった。

 でも、砕けた氷の山の中から、あの人の体は見つからなかった。


 見つかったのは、黒い削りかすだけ。


 そして、あの人は、決闘の前に言った。

 ――あなたの先生が、それを望んでいるから。


 あのときは、意味が分からなかった。

 氷の魔将が、どうして、僕の先生のことを知っているのか。


***


 五つ目。ミレイユさん。


 ザハルの闘技場で先生の兜が割れたとき、ミレイユさんは、ずっと先生の顔を見ていた。

 僕は力を使い果たして倒れていたから、先生の顔は見ていない。目を覚ましたときには、もう布が巻かれていた。


 でも、ミレイユさんの顔は、覚えている。

 何かを、確かめ終えたような顔をしていた。


 それから、ミレイユさんは先生のことを、黒騎士さんと呼ばずに、あの人、と呼ぶようになった。


 六つ目。ボルドさん。


 ボルドさんは、先生のことを、何も言わない。

 怪しいとも、信じられるとも。ブランシュで初めて会ったときから、ずっと。


 でも、ボルドさんは、昔、兵士だった。魔王軍と戦ったことがあると言っていた。

 ボルドさんが何も言わないのは、何も知らないからじゃない気がする。


***


 七つ目。先生の、教え方。


 ――重心が踵に乗っておるわ! 剣とは、足で振るものと知れ!


 廃砦で、魔将が怒鳴った言葉。

 僕に、生まれて初めて、剣の振り方を教えてくれた言葉。


 ――右の肘だ。振り下ろす瞬間に、右の肘が外に開く。


 ブランシュの河原で、先生が教えてくれた言葉。


 どっちも、まず、僕の足元を見てから言った。

 重心がどこにあるのか、真っ先に確かめてから。


 怒鳴り方は、違った。でも、見ている場所は、同じ。


***


 並べ終えて、床に座ったまま、しばらく動けなかった。


 ランプの炎が、小さく揺れている。


 分かっていた。

 本当は、もっと前から。たぶん、白霧の神殿で、黒い削りかすを拾ったときから。


 分かっていて、つなげないようにしていた。

 つなげてしまったら、先生が、先生じゃなくなる気がしたから。


 先生は、廃砦の魔将だ。

 僕が兜を割った、黒鎧のヴァルガス。


 ――違う。順番が、逆だ。


 廃砦の魔将が、僕の先生だったんだ。

 最初から。あの日、震えている僕に、怒鳴りながら剣の振り方を教えてくれたときから。


 膝を抱える。


 怒ればいいのか、悲しめばいいのか、分からなかった。


 ヒュドラを倒したのは、僕の剣じゃない。

 氷の巨人の中にいたのは、先生だった。たぶん、氷の魔将の代わりに、わざと僕に負けるために。


 僕が勇者として褒められてきたことの、半分以上は、先生がくれたものだった。


 ――じゃあ、僕は、何なんだろう。


***


 壁の向こうで、本をめくる音が止まった。


 しばらくして、部屋の扉が、小さく叩かれる。


「……リオ。起きてるの?」


 ミレイユさんの声。


「起きてます」

「入っていい?」

「……今は、一人でいたいです」


 扉の向こうで、少しだけ沈黙があった。


「そう。……一つだけ、言っておくわ」


 ミレイユさんの声は、いつもより、ずっと柔らかかった。


「あなたが今、並べているもの。全部、本物よ。あなたの目は、間違ってない」

「……」

「でも、それを並べて、どう読むかは、あなたが決めることよ。私でも、ボルドでもなく」


 足音が、遠ざかっていく。


 床の上の、黒いかけらと、黒い削りかす。

 ランプの明かりの中で、二つは同じように鈍く光っていた。


 僕は、それを両手ですくい上げて、握りしめた。


 ――明日、聞こう。


 先生の口から。

 ずっと、聞かないふりをしてきたけれど。

 ちゃんと、僕の口から聞こう。


 あなたは、ヴァルガスなんですか、って。


 ランプの火を吹き消した。

 暗闇の中で、握りしめた手のひらだけが、少しだけ温かかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。