↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者に倒されるチュートリアルの中ボスに転生したので、毎回ちゃんと負けてあげます ~死んだはずの俺、正体を隠して勇者に剣を教えています~  作者: おはぎだんご
第2章 氷の魔将

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/71

第19話 【ノエル視点】氷の魔女の噂

 あの黒騎士は、怪しい。


 私は、最初からそう思っていた。

 ブランシュで、子供たちを守ってくれたことには感謝している。でも、それとこれとは話が別だ。


 名前を名乗らない。兜を脱がない。

 仕事は雪かきだと言うけれど、雪かきをしている傭兵が、ヒュドラの毒を浴びても平気な鎧を着ているはずがない。


 それに、リオのことを、知りすぎている。


 リオの剣の癖を、一目で見抜いた。

 リオがどこへ向かうのか、聞く前から知っているような顔をしていた。


 私は、教会の孤児院の育ちだ。

 孤児院には、ときどき、親切そうな顔をした大人がやってくる。その中には、本当に親切な人もいたし、そうでない人もいた。


 そうでない人は、たいてい、こちらのことを知りすぎていた。


 だから、私は、リオのそばにいる。

 リオのことを知りすぎている大人から、リオを守るために。


***


 黒騎士さんと再会した次の日、私は一人で、聖堂の前の広場にいた。


 ボルドさんは武具屋へ、リオは宿で剣の手入れをしている。

 私は旅の祈祷に使う蝋燭を買いに出て、そのまま広場の噴水の縁に座り込んでいた。噴水は、もちろん凍っている。


「お嬢ちゃん、勇者様のお連れの方かい」


 声をかけてきたのは、蝋燭売りのおばあさんだった。

 顔じゅう皺だらけで、目だけが、きらきらと若い。


「はい。僧侶のノエルです」

「白霧の神殿へ、行くんだってねえ。氷の魔将を、倒しに」

「……はい」

「そうかい、そうかい」


 おばあさんは、私の隣に腰を下ろした。

 凍った噴水を見上げながら、ぽつりと言う。


「あたしの村はね、国境の、トウヒの村ってところでさ。昔から、言い伝えがあるんだよ」

「言い伝え?」

「氷の魔女の話さ」


 おばあさんは、皺だらけの指を一本立てた。


「冬になると、北の山から魔物が下りてくる。雪狼だの、氷熊だの。昔は、毎年のように村が襲われてた。……それがね、あたしが子供のころから、ぱったり止んだんだよ」

「止んだ……?」

「魔物が村に近づくとね、どこからともなく、氷の壁が立つのさ。村をぐるりと囲むみたいに。魔物はそれに阻まれて、山へ帰っていく」


 おばあさんは、目を細めた。


「村の年寄りは、みんな言うよ。氷の魔女様が、守ってくださってるんだって。一度だけ、見たって人もいる。吹雪の中に、銀色の髪の女が立ってたって」


 銀色の髪。


「その魔女様って……どんな人なんですか」

「さあねえ。誰も、話したことはないからね。お礼を言おうにも、すぐ消えちまうんだとさ」


 おばあさんは、少しだけ寂しそうに笑った。


「それでね、お嬢ちゃん。あたしは、ちょっとだけ心配なんだよ。白霧の神殿の氷の魔将ってのが、もし、あの魔女様と同じ人だったら……ってね」


 私は、何も言えなかった。


「まあ、年寄りの取り越し苦労さ。魔将なんて、人を襲う化け物だろう? 魔女様とは、似ても似つかないよ。……きっとね」


 おばあさんは、私に蝋燭を一本おまけしてくれて、去っていく。


***


 その夜、私は眠れなかった。


 宿の部屋の窓から、外を眺める。

 雪は止んでいて、空には星が出ている。月の光が、王都の屋根の雪を青白く光らせていた。


 氷の魔女。村を守る、銀色の髪の女。


 もし、それが氷の魔将と同じ人だったら。

 私たちは、村を守ってきた人を、倒しに行くことになる。


 ――考えすぎだ。

 魔将は魔物の仲間で、人間の敵で、リオの聖剣の封印を守っている。それ以上のことを考えたら、足がすくむ。


 窓の外で、何かが動いた。


 宿の裏手の、細い路地。

 月明かりの中を、大きな影が歩いていく。


 黒い鎧。灰色のマント。練習用の鉄兜。


(……黒騎士さん?)


 こんな夜中に、どこへ。


 気づいたときには、私はもう、外套を羽織って部屋を出ていた。


***


 黒騎士さんは、王都の外れの、古い時計塔の下で足を止めた。


 私は、路地の角の雪の壁に隠れて、息を殺す。

 心臓が、うるさいくらいに鳴っている。僧侶が夜中に男の人の後をつけるなんて、院長先生に知られたら、三日はお説教だ。


 時計塔の陰から、もう一つの人影が現れた。


 細い人影だった。月の光の中で、長い髪が、銀色に光る。


(――銀色の、髪)


 女の人だった。青白い肌に、氷の結晶みたいな薄い外套。遠くからでも分かるくらい、綺麗な人だった。


 黒騎士さんと銀色の髪の女の人は、時計塔の陰で何かを話し始めた。

 声は、聞こえない。ただ、二人の距離が、ずいぶん近いことだけは分かった。


 女の人が、何かを差し出した。

 黒騎士さんが、それを受け取る。小さな、きらりと光るもの。


 それから女の人は、少しだけ笑った。

 黒騎士さんの肩に、手を置いて。


(…………え)


 私は、雪の壁の陰で、固まっていた。


 夜中に。

 人目を忍んで。

 時計塔の下で。

 銀色の髪の、綺麗な女の人と。


(逢い引き……!?)


 頭の中が、真っ白になった。


 名前も名乗らない、兜も脱がない、雪かきの傭兵が。

 夜中に、こっそり、女の人と。


 ――いや、待って。落ち着いて、ノエル。

 あの人がどこで誰と会おうと、私たちには関係ない。リオの先生ってわけでもないし。本人が先生じゃないって言ってるし。


 でも、なんで私、こんなに動揺してるんだろう。


 もう一度、雪の壁の陰から覗く。

 銀色の髪の女の人は、もう背を向けて、時計塔の向こうへ歩き出していた。


 その横顔が、月の光に照らされた。


 一瞬だけ。でも、確かに見えた。


(……あの人の顔、どこかで)


 どこかで見た気がする。

 でも、どこだったか、思い出せない。


 王都の誰かではない。旅の途中の村でもない。

 見た顔ではなくて、誰かの話の中で、聞いた顔のような。


 黒騎士さんが、こちらを振り返った。


 私は、慌てて雪の壁の陰に頭を引っ込めた。

 息を止めて、じっとしていた。


 足音は、近づいてこない。

 しばらくしてそっと覗いたときには、時計塔の下にはもう誰もいなかった。


 宿に戻る道を歩きながら、私はずっと考えていた。


 氷の魔女。

 銀色の髪の女。

 黒騎士さんの、逢い引きの相手。


 それから――ブランシュの地下で、リオの前に立ちはだかったという、氷の魔将。

 リオから聞いた話では、確か、その魔将も。


(……銀色の、髪)


 足が、止まった。


 雪の積もった路地の真ん中で、私は、しばらく動けなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。