第4話:トップクランの異変と悲鳴
破壊されたドアは国家の手配で最新式の防犯ドアに即日交換された。
涼しい風がリビングを吹き抜ける。
国家保安庁から『特級免税ライセンス』と『光熱費永年無償化』を勝ち取ったおかげで、我が家のエアコンは二十四時間フル稼働だ。
「快適だね、カケル君」
ソファでくつろぐ未亜が、アイスキャンディーをかじりながら笑う。
俺もよく冷えた麦茶を飲みながら、テレビのニュース番組を眺めていた。
『緊急速報です! 国内最大手クラン『蒼天の剣』の主力遠征部隊が、Aランクダンジョン深層で孤立しています!』
緊迫したアナウンサーの声と共に、ヘリコプターからの空撮映像が映し出された。
画面の中央には、無惨にひしゃげ、黒煙を上げる巨大な装甲車の姿があった。
『総額五十億円とも言われる最新鋭の魔導装甲車が、突如として動かなくなりました! 完全に鉄くずと化し、無数のモンスターに取り囲まれています!』
「あ、カケル君が昨日までいたクランだ。大変なことになってるね……」
未亜がアイスを食べる手を止め、心配そうに呟く。
俺は麦茶のグラスをテーブルに置き、ドライに言い放った。
「まあ、ゴミ捨てサボったらそうなるよな」
「……え? ゴミ捨て?」
未亜が小首を傾げる。
『蒼天の剣』が誇る、五十億円の最新鋭魔導装甲車。
あれはダンジョン内の魔力を吸い込んで走る、いわば魔法の車だ。
だが、作った奴は致命的な欠陥を見落としている。
俺のスキル『論理最適化』。
雑用係時代、あの装甲車に向けて展開していたホログラムウィンドウのログを思い出す。
スマホのシステム診断と同じだ。
『吸気プロセス:正常』
『排魔力フィルター:目詰まりエラー』
『ステータス:ゴミ満載により本体発火の危機』
魔力を吸い込んで燃やせば、当然「燃えカス」が出る。
理屈はサイクロン式の掃除機とまったく同じだ。
吸い込んだホコリがダストボックスに溜まったまま放置されれば、吸引力は落ちる。やがて熱がこもり、最後は中身が焼き切れる。
だから俺は毎日、装甲車の見えないダストボックスを開け、溜まった魔力のカスをポイと外に捨てていた。
赤いエラー表示を『正常』に戻す。
ただそれだけだ。リビングの掃除機に溜まったゴミを捨てるのと同じ感覚である。
だが、クランの連中は「メーカー保証付きの完全自動車両だ」と豪語し、俺をクビにした。
ゴミ捨て係がいなくなった掃除機は、当然ながら数日でパンクする。
行き場を失った高密度の魔力カスが内部で暴発し、五十億円の車両を一瞬で鉄くず(スクラップ)に変えたのだろう。
ブーッ、ブーッ。
テーブルの上のスマホが震えた。
画面には『クランマスター(蒼天の剣)』の文字。
先日俺をクビにした副マスターのさらに上、クランのトップからの直接着信だ。
「はい」
『あ、天羽ァァァァッ!!』
鼓膜を突き破りそうな絶叫。俺はスマホを少し耳から離した。
『た、助けてくれ! なぜだ! なぜ無敵の装甲車がただの鉄くずになる!? これでは部隊が全滅する! クランは破産だ!』
「いや、だから副マスターにも言ったじゃないですか。ちゃんと掃除してくださいって」
『そ、掃除だと!? 我がクランの専属魔導士が総出で解析したんだぞ! これは『呪い』だ! 貴様、いったいどんな高度な呪術を車にかけたんだ!』
「呪いって。ただのホコリの詰まりですよ。掃除機のゴミ、パンパンになるまで放置したら壊れるでしょ」
電話の向こうで、クランマスターが息を呑む音がした。
『ゴ、ゴミ捨て……? ば、馬鹿な! 車の残留魔力を安全に排出するには、国家認定の一級魔導浄化士が三人がかりで三日三晩、浄化の儀式を行わなければならないんだぞ……!』
「儀式? いや、裏のフタ開けてポイですよ。5秒で終わります」
『ご、5秒!? あれほどの莫大なエネルギーの奔流を、素手で……!? 貴様、本当に人間か!?』
クランマスターが畏怖と絶望の混じった声を上げる。
大げさすぎる。俺はため息をついた。
「まあ、もう手遅れですね。中身が真っ黒に焦げてるんで直せません。自力で歩いて帰ってください」
『ま、待ってくれ! 頼む、お前の力で今すぐ直してくれ! 着手金として二百万振り込む! いや、すでに振り込んだ!! だから!』
ピコン。
スマホの上部に、銀行アプリの通知が光った。
『お振込:ソウテンノケン 2,000,000円』
「あ、確認しました。でも無理です。燃えた機械は直せません」
「これまでの未払い残業代・不当解雇の慰謝料として頂いておきますね。じゃあ」
『あ、ああああああああっ!! お願いだぁぁぁっ!』
ブツッ。
断末魔のような悲鳴を遮り、通話を切った。
もう二度とかかってこないよう、着信拒否に設定する。
「誰からだったの?」
テレビから目を離した未亜が聞いてくる。
「ただの間違い電話。それより、二百万入ったから、今日の夕飯は奮発して高級焼肉のデリバリーでも頼もうか」
「ええっ!? 二百万!? また!?」
目を丸くして驚く未亜をよそに、俺はスマホでデリバリーアプリの注文画面を開いた。
五十億円の損失に泣き叫ぶ権威の没落など、俺には関係のないことだ。
キンキンに冷えた快適な部屋で、未亜と一緒に食う特上カルビ弁当は、きっと格別に美味いだろう。
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